第5話
「あのっ、それはわたしにも・・・・」
「その事、なんだけどね」
突然向けられた視線にオドオドするユメミを庇う様にして、ドリィが一歩前に進み出る。
「ユメミがここへ来たのと、『ナナ』の記憶がバラバラに散らばってしまったのは、どうやら同じ原因みたいだよ」
「なんだそれ?どういう事だ?」
首を傾げるノイを片手で制し、ドリィは話を続ける。
「それからね、ここずっと『ナナ』の
「それ、私も気になってた」
効果音担当のメアがそう言うと、賛成の意を示すように、生き物担当のツンも、モケモケの毛をフワフワと揺らして、ピョンピョンと飛び跳ねる。
「最近のユリの構成、なんか前と少し違うよなぁ。おいらも時々、どうやって照明当てたらいいか分からなくなるよ」
「あっ、それわかる~!私もどんな音当てればいいか迷うもん」
「ここのところずっと、『ナナ』の感情が不安定なのよ。だからワタシもどうしていいか分からない時が多くて。でも、ワタシだけのせいじゃないわよ?イラのチョイスだって、最近どうかしてるわ」
照明担当のクスと効果音担当のメアの意見が一致すれば、ユリは疲れた顔をして大きなため息を吐いた。
そして、チラリとユリが視線を投げた先では、イラが
「しょうがないじゃん。ボクだって最近何選んだらいいか分かんないんだもん。おまけに、記憶がこんな状況じゃ、取り出したい記憶がどこにあるかさえ分からないしさ。時間は決まってるんだから、あとはもうテキトーに選ぶしかないでしょ」
とその視線をタムへと受け流し、イラの視線を受けたタムは
「だーかーらっ!あたしだって一生懸命元この取っ散らかった記憶を元に戻そうと頑張ってるわよっ!だいたい、なんでいきなりこんなに記憶が散らばっちゃったのよっ?!毎日ちゃんと整理してたのにっ!あんた、理由知ってるんでしょ?ドリィ。ユメミがここへ来た原因と同じだって、言ってたわよね?いい加減、そろそろ教えなさいよっ」
と苛立ちも露わに、今にもドリィに掴みかからんばかりの勢い。
「ちょっと落ち着きなさいよ、タム。あなたが大変なのも分かるけど、ドリィのせいじゃないでしょ?」
「シキの言うとおりだ。俺だって、イケメン担当なのにいきなりゾンビだぞ?ありえねぇ・・・・けど、ここでドリィに当たるのはお門違いだ。そういう訳でドリィ、そろそろ説明頼むわ」
シキとノイが目を三角にしてドリィを睨みつけるタムをなんとか宥めると、ドリィはリマに尋ねた。
「リマ、時間は大丈夫?」
「はい。おそらく、『ナナ』は今日はもうここには戻らないと思います」
リマは無表情のまま、砂の流れが止まってしまった砂時計を抱えている。
「・・・・そっか。参ったな」
はぁっ、と大きなため息をひとつ吐くと、ドリィはいつの間にか近くにあった椅子に座るようユメミを促し、自分も隣の椅子に座った。
「そもそもの原因は、みんなが感じている通り、『ナナ』の感情が不安定な事にある。その理由はひとつではなくて、まぁその、人間にはよくあることでさ。友達とケンカしたとか。親とケンカしたとかさ。それから、友達だと思ってた人が実は敵だったとか、さ」
(友達とケンカ・・・・?それって、わたしとのケンカのことっ?!)
ドリィの言葉に、ユメミの心臓がドクンと大きく跳ね上がる。
けれども。
次のドリィの言葉は、さらにユメミの心臓を大きく飛び跳ねさせた。
「人間って感情が不安定になると、記憶もちょっとグシャッとなるでしょ。その時に、タムがきれいに整理整頓してくれていた記憶が、やっぱり順番がグシャッってなっちゃったみたいなんだよね。タムは必死に直そうとしてくれていたし、イラも頑張って欲しい記憶を探そうとしてくれたと思うんだよ?でもね、人間って、感情が不安定になると、ぼんやりもしてしまうものでさ。ぼんやりしていた『ナナ』に、元気いっぱいにユメミが衝突しちゃって、ね」
バンッ!
そう言って、ドリィは両手で掬った記憶のボールを、思い切り上に向かって跳ね飛ばす。
「衝撃で棚から記憶が飛び出しちゃって、おそらくその衝撃でできた空間の歪にユメミが飛び込んじゃって、ここに来ちゃった、という訳。検証した訳じゃないけど、たぶんそう」
「・・・・ナナは?ナナは今どうなってるの?」
そう言葉にしたユメミの声は、か細く震えていたが、気づいているのかいないのか、ドリィはのんびりとした声でユメミの問いに答えた。
「ああ、『ナナ』は今ちょっとした記憶障害みたいだよ。記憶障害って言ってもそれほど大したことじゃなくて、混乱してる状態、って言った方が分かりやすいかな?まぁ、これだけ記憶がとっ散らかってれば、そうならない方がおかしいけど。でも大丈夫。こんなの人間にはよくある事だから。じきに治ると思うよ。記憶障害は、ね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます