第32話・超忙しい日々
露店販売は大成功過ぎた。全部飛ぶように売れていく。
いや、蜂蜜は売れると思ったけど爆発的に売れて嬉しい悲鳴が止まらないよ。
ウチの子達も店番とかして、慣れない仕事して頑張ってくれている。第二陣に頑張って欲しいから、彼らの分も用意したい。贔屓になるから一般客もだ。
いままで貯めた品物を吐きだして、なんとかなっているな。
値切りの交渉は無いけど、品物が売り切れになるともう買えないかの問い合わせはある。しばらくゲームは商人として活動してる。
正直、マナーの悪い客はいる。そういうときは天秤の剣など、ジーク達が助けてくれる。
「正直な話、まだまだ君に支払わせてるだけだからね。トップ勢プレイヤーって名前だけで助けられるのなら喜んでだよ」
そう言ってマナーの悪い客の対処や人手が足りない時、進んで助けてくれる。武器とかも卸すのだが、俺的には使わない武器を作らせてもらうし、使ってくれるから助かるんだが、やはり俺から搾取しているだけに見えていやらしい。返せたり手伝えるところは進んできてくれる。
しばらくすれば落ち着くだろうと考えているが、落ち着かない事も考えよう。品質が高過ぎたんだ。
店の前で専属の話は無理です、忙しいと伝えているから言ってくる人はいない。
うまく回り出した時にクレームのように彼らは来た。
「攻略サイト『最前線』です。お話をさせてください」
メガネの人が現れ、嫌な顔をする。すぐさま壁のようにジーク達のギルドメンバーが前に出てガードしてくれる。向こうから変なことをしない限り、俺か彼らが話し合いで解決しようとする。正直解決しないからGМコールはするけど。
「すいません、いま店長さんは忙しいのであとにしてください」
「そうはいきませんッ!いままで情報を独占して何様ですか!私達が来たからにはもう逃がしませんよ!」
「情報を隠すも隠さないのもプレイヤーの自由ですよ、悪いが買い物しないなら帰ってください」
「独占ですか!?独占ですね!!ゲームはみんなのものですそんな態度は悪いと思います!!」
「店長さん憲兵呼びました」
「ありがとうございます」
「またお前らかッ!」
「くっ、離しなさいッ!『ファイヤーボール』!」
「『ホーリーブロック』!」
ワルキューレのギルメンがすぐに広範囲魔法を防ぎ、憲兵さんがありがとうと敬礼しながらすぐに実力でひっ捕らえる。憲兵さんに捕まれば強制的に牢屋に転送され、一定時間拘束される。彼らの中にはそのまま垢バンされた人もいるのだが、微妙に時間を置いて誤魔化そうとする者もいるから後が絶えない。なに町中で広範囲魔法を撃つんだよ。
実はこれ、一度や二度ではない。こちらから手を出さないように呼びかけながら、憲兵さんに対処してもらう。
すぐに出てこられるのは別の人別の人と繰り返しているからだ。だがさすがに同じ場所、同じ人に対する行為なため、憲兵がすぐ側で活動するようになった。
そしたら今度は毎度の如く来るようになったが、GМコールをついに使用。元々露店広間はGМが監視しているのか話が進む。
「いつもありがとうございます。飲み物だけですがこれを」
「いや、ありがとうよ」
「まったく懲りない奴らめ。今度は一週間だから、数名はアカウント凍結などする」
最初は半日ぐらいなのに、どんどん拘束時間が伸びて来てる。運営の人は色々いるのか、できる限り穏便に済ませて欲しいと言う人や、彼らのアカウントを凍結させようと話すGМがいる。運営も彼らの所為で大変そうだ。
お客さん達も慣れた物で、頑張ってくださいとかこちらの食材で作りました、ありがとうございますと料理の差し入れをくれたりする。頑張るしかないな。
こうしてしばらくの間、農業として商人として活動している。教会にはそろそろ行きたいな。
◇◆◇◆◇
憲兵の巡回が畑まで来た。これは俺だけじゃなく他の農家にも被害が出たらしい。
「はあ、彼奴らは諦めるか聞き込みを見直すって言葉が無いのか」
ジークフリードは怒りを通り越して呆れ、ヒビキは怒りのまま、生地に自信があるクロワッサンを食べる。
「あーこれ食って少し落ち着いた。うめえぜこれ」
「悪いね、食事ごちそうになって」
「いいって、生産職は作るのは良いけど、利用してくれる人がいないと。信頼できる人の言葉も大切だから」
「んーだからってもらい過ぎだけどねえ」
ジークはすまなそうな顔をして、ヒビキはならアッシュのもん使って単独撃破など有名になるよと返事をする。ヒビキくらいがちょうどいいが、やはりもらい過ぎはいやなんだろうな。
「どうも新しいパウダーはパンとか、ピザとかに合うみたい。麺類にすると少し違うって感じがして、料理人も小麦とパウダーを使い分けたいって」
「料理人プレイヤーに友人ができたんだ」
「ああ、おかげでパウダーも売り出す方針になったよ。早く売ってくれって」
「私もいまの状況だと、ここにいても安心」
シープがクロワッサンとミルクを楽しみつつ、ようやくホッと一息つく。
「お金があるし、畑拡大を視野に入れて王都とかに出向くつもり。納屋付きの買って、ミニ転移門で繋げようと思う」
「ボスの攻略方法情報なら任せてくれ、沼地や渓谷は問題ないね。いざとなればウチのメンバーも参加するよ」
「前もってお客さんにも連絡してるから、そろそろ出向くつもりだよ。その時は何人か付いてきてくれると助かる」
そう言いつつ、アイテムの整理をしていたらランダムスキルチケットがあった。冬ってなってるからあの時か。
使ってみたら『氷耐性』と言うスキルが手に入る。おお凄い。
「耐性系スキルはチケットとかからじゃないと手に入らないからね」
「オレらも隠れ里探してるんだけど、やっぱ鍵は歌唱魔法っぽいんだよ」
「いくつかあるけど、教えなくていいのか?」
「歌唱魔法ってだけで十分だよ。習得方法も発見されてるし、こっちはこっちで集めてみるよ」
そうしていると、すいませーんと言う声が聞こえた。
「はいはい、どなたですか?」
シープは作業部屋に隠れてと各々が動くと、俺のところで贔屓にしてくれる料理人プレイヤー達が集まっていた。
「どうしたんですか『パスタ屋』さん」
「ごめんなさい、少しややこしいことになって」
パスタ屋さんは日本に在来している外人さんらしく、VRMMOで料理系のプレイヤーをしている。この人がパウダーはパンなどに使えるが、麺に使うと合わないから大丈夫と教えてくれた。
数名の料理人プレイヤーが言いにくそうな顔をしている。
「実は、料理スキルに従魔術のスキル持ちの子が、レアモンスターを卵から引いて彼奴らに粘着されてるんだ」
「まさか、第二陣の子?」
それにシープが奥から出て来る。料理人の何名かあっと気づくが、あえてなにも言わない。
「君の名前は?」
「はい、僕は『ブレッド』って言います」
その首には懐かしいマフラーのようなものがある。それはまさか。
「同族なのじゃ」
「コーン」
「えっ、まさか『コーン』の進化先なんですか?」
まさしくシンクと同じ狐の妖怪だったらしい。その結果、詳しいデータが欲しいと彼奴らが張り付くようになった。
「掲示板で色々聞いてたので断っても粘着してきて、最終的にギルドで売って、市内に流れるか確認するとか言い始めて」
「そんなことを」
それで料理人プレイヤーは考えて、強い発言権を持つギルドに入るしか無いかなと纏まった。
「それでアッシュさんならコネとかあるかなと思って」
「んー天秤も他の所も攻略組だからなあ」
ジークは自分達のところはここの倍、多くのクレーマーや粘着プレイヤーが張り込んでいておすすめできないらしい。
ヒビキも頷き、それならばここの方が良さそうだ。
こうして妖精の生産地に新しいギルドメンバーが入り、料理人から少し羨ましいと言われるようになった。
「けど、彼らもだんだん手段を選んでこなくなったな」
ジークフリードはそう呟き、難しい顔で出て行く。すでに凍結の他に垢バンは間違いなく発生している。他のギルドにも連絡して対策するとのことだって。
どうしてゲームで迷惑行為を進んでやるのだろうか? 全員が理解できず、穏便に済ませて欲しいと願う運営の願いはかなわないと思いながら、後を過ごした。
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