第1章-26 『RPGで言えば最終決戦的な(2)』
「そらよっと」
βカリバーを地面に差し、宙に浮いた体制を立て直す。
クソッ!
そう簡単に勝てるとは思ってなかったが、まさかこれほどとはな。
正直、バリアを割った時点で勝利を確信していたぜ。まぁ、そうも甘くないよな。
どんな奴にしろ相手は魔王。
勇者と魔王の戦いが、甘く会っていい筈がない。
なんてったって、RPGで言えば最終決戦的な奴なんだからな。
「これで終わりか? 存外、他の世界の勇者というのは緩いものだな」
「……好きなだけほざいておけ。どうせ最後に笑うのは俺なんだからな」
虚勢は張るが、相手の手強さがわかった今、簡単に意気込むこともできない。
しかし、
特に最後は所謂とっておき。アレさえ喰らわせられれば、チェックメイトだ。それ以外に奥の手がないでもない。やりようはいくらでもある。
「……さて、そちらから動かぬのなら、今度はこちらの番だな。なぁに、丁度退屈していたところだ。すぐに終わらせてやる」
魔王はこちらに向かってくる。
俺はその魔王を倒すべく剣を握り、魔王に近づいていく。
間合いに入ったその瞬間、剣を振るう。
「……黄ノ剣・【
「目眩しか……チッ! 【
辺りに光が散乱する。
5色目は単色で発動すれば、魔王の言う通りただの目眩しだ。連続攻撃にならなかったことが悔やまれるが、逆に言えば、目眩し程度には使える。
魔王は、魔法でこちらの位置を確認しているようだが、その特定が終わる前にこちらも動かせてもらう。
「橙ノ剣・【
散乱した光が元あった光と共にβカリバーに集まっていく。辺り数メートルに限れば、よると大差ない光の量だ。
通信ならば、明順応から即座に暗順応に切り替えさせ、視力を奪う色構成だが、今は違う。
「見つけたぞ!」
その掛け声と共に魔王は手を伸ばす。その手は数度も違わず俺の方向を向いている。
恐らくこの手に触れてしまえば、この決闘はヤツの勝利と言う形で幕を閉じることになるのだろう。勇者の戦場の直感だ。そうは外れない。
だから、俺は、この手を全力でもって振り払わせてもらう。
「緋ノ剣・【
「【
予測通り、魔王も反応し、バリアを張るが、この間合いは俺の距離。
このまま押し切らせてもらうぜ。
「せやぁぁぁぁぁぁ!」
『パリィン! パリィン! パリィン!』
先ほどのものとは比べ物にならないほど幾重にも重ねられたバリアが次々と割れていく。
俺も必死で表情は見ていないが、魔王の焦りが伝わってくる。恐らくコイツと出会ってから一番の必死さなのだろう(俺も魔王も)。
『ピキピキピキピキ』
最後の一枚のバリアにひびが入る。
だが、こちらの剣の勢いも少しづつ弱まってきている。
そんな戦闘も佳境も佳境のところで口を開くは、必死であろう魔王様。
「ぬぅ! ハハッ勇者よ、今までの非礼を訂正しよう。我は貴様の事を軽視し過ぎていたようだ」
「へっ! 今更なんだよ。」
「いやなに、我をここまで追い詰めたのだ。我の世界なら英雄と称えられていることだ。誇れ。……だが、惜しいな。まだ……まだ足りない」
「ぜやぁ!」
『パリィィン!』
魔王の戯言ごと、バリアをたたき割る。
そのままの勢いで魔王に突っ込もうとしたその時、
「【
魔王がそう呟く。
その瞬間、たったコンマ1秒にも満たないその間は、戦況がひっくり返るに充分すぎるものだった。
俺は目の前にいたはずの魔王を見失う。それと同時に、背中に手の感触を感じ取る。
そして、後ろからは、「本当に惜しかった」という、同情にも余裕にも取れる呟きが吐かれる。
何が起きたとか、何故だとかそう言うことを考えることさえ無駄に感じる。
「【
「グハッ……カハッ!!」
背中に強い衝撃が走り、俺の身体は前方の巨木目掛けて吹き飛び、見事に衝突を完了してしまう。
身体を捻り、なんとか正面衝突を防ぐことはできたようだが、身体から放たれる鈍い音が肋骨等々が数本お別れしてしまったことを遠回しに告知する。
口も鉄の味がしやがる。いつ味わってもヤな味だ。
「……正直ここまでやるつもりは無かったが、あの熱量、戦意が残っていれば
魔王はこちらに近づきながらそう告げる。
体がひどく痛い。もう、立つ体力すら残ってないようだ。
魔王も勝った気でいるのか余裕綽々の表情だ。
まぁ、当然の反応だ。衝撃の瞬間、あまりの突然さにβカリバーを落としてしまった。丸腰の勇者にもはや警戒する魔王などいないだろう。
「おい! 娘! 決着宣言はまだか? 勝敗は決したように見えるが?」
魔王がアリスの方を向き、決着宣言を急かせる。
今の俺にはそれを止める権利も資格もない。
こうも無様に負けてしまっては。
(マタ、負ケルノデスカ?)
ん? なんだ、お前か。お前にも悪いことしたな、巻き込んじまって。
もう、ここまでやられちゃあな。別に命を懸けた戦いってもんでもねぇし。一つくらいの要求くらいなら飲んでやってもって思っただけだよ。
(魔王ヲ名乗ル者ニソウ簡単ニ屈シテモ良イノデスカ?)
……よ、良くはないけど……。
(『マリア』トノ約束ハ? コノ敗北ハ『マリア』二面ト向カッテ言エルコトナノデスカ?)
……お前、今日は随分と嫌なこと言うな。
(嫌ナコト? 現実的ナ話ト問題ヲ提示シタダケデスガ? ソレニ今日ノ『担イ手』ハ諦メガ早過ギマス)
とか言って本当は貧血気味で血を吸いたいだけだろ? この吸血
それに今回の敗北は納得できる。完全に俺の力量不足だった。それだけだ。
(……ソンナコトダカラ、親モ、妹モ、兄モ、アノ村ノ人達ヲ失ウ事二ナルノデス)
「おい! ……っめぇ! 言っていいことと悪いことってモンが!!……ケホッケホッ!」
余りの怒りに出さなくていい筈の声が出る。
咳を抑えた左手は赤黒い血で染まっている。
(ソウデス。ソノ怒リト血ニ私ハ惚レタノデス。サァ、アノ悲惨デ残酷ナ過去ヲ思イ出シ、再度剣ヲ握ルノデス。アノ日、私ガ貴方ニ出会ッタ日、開口一番ノ言葉ヲ思イ出シテ)
「……俺は……どんな手を使っても……どんな犠牲を払おうとも……必ず魔王をぶっ倒す……」
その瞬間、少し早めの夕下風が辺り一面を吹き抜ける。
その風は戦場の換気をしているようにも感じられるものだった。
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