第43話 王弟ガライアスの苦悩

 ◇◇◇


「シリウス一族が悲劇の一族だってことはわかった。だが、前シリウス伯爵夫妻が亡くなり、嫡男が行方不明となったことで、結局シリウス一族の血を引くものはいなくなったんじゃないのか?その話だと親父の子爵家は遠縁と言っても伯爵夫人の親戚なんだろ?」


「そうだね。現在のシリウス伯爵夫妻にはシリウス一族の血は少しも受け継がれていない。でも、ロイス殿、ソフィア、君たち二人には正当なるシリウス一族の血が流れている」


「俺とソフィアに?」


「ロイス殿、君の本当の父親である王弟ガライアス殿下の母親はシリウス伯爵家の出だ。幼いころ侯爵家に養女に出されたためあまり知られていないが、実際には前シリウス伯爵の叔母に当たる。つまり、シリウス伯爵家の娘とラピス王家の血を引く彼こそが今代のシリウス伯爵家の正当なる後継者だ。そして、彼の血を継ぐ君こそが、まぎれもなく次代のシリウス伯爵だ」


「なっ……」


「そしてソフィア、君の母親は、前シリウス伯爵の一人娘だ。とある事情からシリウス伯爵家の嫡男として育てられたが。本来ならシリウス伯爵家の血を引く娘は決して王妃にはなれない。ラピス王家の伝統にしたがうとするなら、側室となった君の産んだ子どもが男なら次のシリウス伯爵となり女だった場合は修道女として生涯王家の花園を護る「花園の番人」となっただろうね」


「なに、それ……」


「それがね、今までシリウス伯爵家に課せられた運命だったんだよ」


「なんだそれ、そんなこと、なんで俺たちが……」


「残酷だよね……」


 肩をすくめる父を呆然と見つめる。そんなことが本当に行われてきたのだろうか。一つの貴族家がそこまでの犠牲を強いられ続けてきたのだろうか。


「でもね、今代のラピス王は、その風習を良しとしなかった。悪しき風習を今代でなくそうとしたんだ」


「ジークのお父様が……」


「そう。王太子として前国王からシリウス一族の秘密を受け継いだとき、彼は憤り、この秘密を白日の下にさらそうとした。そして、ガライアスを王太子に立て、この国の王とすることでシリウス伯爵家に対する贖罪にしようとしたんだ」


「そう、だったんだ……」


「ああ、ジークハルト殿下の母君である王妃殿下は体が弱く、長い間二人の間には子どもが生まれなかったこともあってね」


「だが、私が生まれた」


 ジークがギュッとこぶしを握る。


「そう。王家の正当なる血筋と国で最も高位の公爵家令嬢である王妃から生まれたジークハルト殿下の誕生によってガライアスは王太子の地位を追われることになった。いくら王でも、正当なる血筋の息子を差し置いて地位の劣る側室から生まれた王弟を次の王にするわけにはいかない。そんなことをすれば公爵家が黙っていないだろう。そして、ジークハルト殿下は幼いころから見目麗しく才気に溢れ、誰が見ても優秀だった。ガライアス殿下はさぞ絶望しただろうね……」


「それが、それがガライアスが王家乗っ取りをたくらんだ理由なのか!」


「たぶんね。彼は知っていたんだ。王太子となったときに、シリウス一族の秘密を聞かされた。そして自分が辿るはずだった運命も。そこから抜け出せると思っていたのに、王太子の地位を追われたとき、彼はどう思っただろうね。シリウス伯爵家をつぶしてしまおう、もしくは別のやつに押し付けてしまおうとしたのではないかな。そして、自分の運命を呪った。王の血筋でありながら、悲劇の一族の血筋でもある自分を。そしてラピス王族そのものを」


「……今なら、あいつが王家を憎む気持ちも、自分こそが王にふさわしいと思う気持ちも、わかる気がする」


 ロイスがポツリと呟いた。


「だが、彼は決して王に相応しい男ではない。彼はシリウス一族から受け継いだ力を、毒の知識を、思うまま自分のために使ったんだ」


「奴隷の首輪……」


 私の言葉にロイスがはっと顔を上げる。

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