第33話 悪役令嬢は華やかに

 ◇◇◇


「あの娘がソード候爵家の御令嬢?……ちょっと、どうするのよ……あなたがあの成金娘に意地悪なんてするから……」


「仕方がないでしょう!知らなかったんだもの!」


「で、でもあのかた、王太子殿下との婚約は解消されたって聞いたわよ?」


「馬鹿ね!それでも宰相閣下の御令嬢よ!宰相閣下に泣きつかれたら私達の家がどんな嫌がらせを受けるか……」


「だいたいなんで成金娘が侯爵家の御令嬢と一緒にいるのよ!」


 コソコソと話してるけどまる聞こえだ。彼女達は権威を振りかざすだけあって自分よりも強い権威には弱いらしい。


「お姉様の敵は私の敵。お姉様は寛大で優しい御方ですから貴方達のことなど歯牙にもかけないでしょうけど、私は私の大切な方を蔑ろにされるのは我慢できませんの。私、敵には一切容赦しませんわよ?覚悟なさるのね」


 しっかりと背筋を伸ばして胸を張り、ご令嬢達をキッと睨みつけるキャロルちゃん。そこにはわずか15歳の少女とは思えない立派なレディの貫禄があった。これが生まれながらの貴族の矜持!す、素敵!


 思わずいけない扉を開いてしまいそうだわ。


「あ、あら、わたくし達そんなつもりじゃ……いやですわ。そんな怖いお顔をなさらないで。ああ大変!そういえば語学教授に呼ばれているのを忘れてました!ねぇ皆さん!さぁ、急がないと!……」


 そう言うなりそそくさと立ち去ってしまった。


「ふんっ感じの悪い人達ですわね!でもしっかり顔は覚えましたわ!次あったら覚えてらっしゃい!」


 ぷりぷりと怒るキャロルちゃんも可愛いが次の瞬間肩を落としてしょんぼりしてしまう。


「でも、人のことは言えませんわ。私だってあの方たちと同じ。今まで会ってきた人達を身分でしか判断してなかったんですもの。恥ずかしいわ……お姉様にも失礼なこといっぱい言ってごめんなさい……」


 そういえばキャロルちゃんも最初はツンツンしてたな。ツンツンしてるのも可愛かったから全然気にならなかったけど。


「キャロルちゃんは凄く可愛い……ううん。かっこいい女の子だよ」


「私が、かっこいい?」


「うん。いつだって自分の気持ちに正直だもの。それで間違えたと思ったら自分でちゃんと間違ってたって言えるし。凄いことだよ。キャロルちゃんの真っ直ぐで素直なところ、大好きよ」


「お姉様!私も!私も大好きです!」


 きゃーきゃーいいながら抱きついてくるキャロルちゃん。可愛い。だから思わず隠してた想いがあふれてしまう。


「キャロルちゃんがジークの婚約者だったら、私ちゃんと祝福できたのになぁ……次の婚約者もいい子だといいな……」


その瞬間きょとんと首をかしげるキャロルちゃん。


「……次の婚約者?お姉様以外にありえませんわ。ジークハルト殿下とお姉様はすでに相思相愛なのでしょう?私お二人の恋を心から応援してます!身分を超えた愛、素敵ですわ……」


「……は?」


「違いますの?お姉さまが気を失った後、ジークハルト殿下は誰にも触らせずにお姉様を離宮にお連れしたと。そのとき『彼女は私の一番大切な人だ』って宣言なさったとか。あまりの溺愛ぶりに王宮中騒然としたそうですわ。すでに王宮内では王太子殿下の想い人として認知されてるはず。これから忙しくなりますわね」


「え?」


いやいやいや、聞いてませんけど?

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