第18話 ジークとロイス
◇◇◇
近衛騎士達に連行された俺は王宮の一室に通された。窓際に立っていた男が振り返り、俺を見るとにっこり微笑みかけてくる。そのあまりに人間離れした美しさに思わず息をのんだ。
(男、だよな……しかしこれは……やべーな)
さっきまで澄ました顔をしていた近衛騎士どもまで思わず赤面しているが、俺も人のことは言えない。その位の破壊力があった。
「ご苦労。君たちは下がっててくれるかな?彼と二人で話をしたいんだ」
「で、殿下、私どもは陛下から常に殿下のおそばに控えるようにと言われております!」
「うーん、そうだね。じゃあ部屋の外で待っててくれるかい?何かあったらすぐに知らせるから」
「「はっ」」
渋々引き下がる近衛騎士たちを見て、思わず眉を上げる。綺麗な顔に似合わず自分の意志は曲げないタイプのようだ。
「ロイス君だね。わざわざ呼び立てて悪かったね」
「いえ、お初にお目にかかります……ジークハルト王太子殿下……」
当たりをつけていうと、おやっという顔をされる。
「私のことがわかるのかい?」
「我が国で殿下の敬称で呼ばれる方で年齢が合うのは王太子殿下だけですから」
「ふふ、そうだね。私は一番若い王族だからね」
「王太子殿下が私にどのようなご用件でしょうか」
「君のご両親……シリウス伯爵夫妻のことはもう知ってるかな?」
想像していなかった問いに思わず首をかしげる。何か問題でもあったのだろうか。王族に呼ばれるとはただ事ではない。
「……いえ、学園から本日許可を頂き帰宅しようとしたところで急遽こちらに参ることになりましたので、まだ父と母には会っておりません」
「そっか……さて、君はどこまで知っているのかな」
意味ありげに見つめられて戸惑う。
「どこまでと申しますと……」
「そうだね、例えばどうやって伯爵夫妻がシリウス伯爵家を乗っ取ることができたのか、なぜシリウス伯爵家でなければならなかったのか……とかね」
「それは……」
(いや、マジでわかんねえし……)
親父は運良く伯爵位を手に入れることができたのだと思っていた。巷で言われるように前伯爵一家を殺害するような根性はないと思う。弱いものにしか強くでることができない人種。しょせん小者なのだ。
「わからないみたいだね、まぁ君はそのとき生まれていないわけだし……じゃあ君の本当の父上についてはどの位知ってるのかな?」
予想もしなかった言葉に心臓が跳ねる。嫌な汗が背中を伝うのが分かった。
「父は、シリウス伯爵家当主、ハルク・シリウスです。本物も偽物もありません……」
「それが君の答えでいいんだね?」
ひどく落ち着いた声がとても恐ろしく感じた。答えを間違うと生きては帰れない。生き物としての勘が全力で警笛を鳴らしている。
「何のことを仰っているのかわかりかねます」
「君は父上にそっくりだよ。その目も髪も。とてもよく似ているね」
ちなみに俺の髪と瞳はくすんだ灰色で親父は黒。ちっとも似ていない。似ているのは……
「ねぇ、君は王になりたいと思ったことはないの?」
思わず唾を飲み込む。
「この国で一番の権力者になりたいと夢見たことは?」
歌うような優しげな声なのに背中の冷や汗が引かない。
「ただの一度もございません」
それは真実だった。
「そう。君の気持ちは分かったよ。安心して。君を悪いようにはしないから。とある人たちにも頼まれていてね……」
ふわりと微笑まれてまた心臓が跳ね上がる。
「でも後一つだけ。一番大切なことを確認しておかなきゃね」
ゴクリと唾を飲んだ次の瞬間
「君、私の天使に手ぇ出してないよね?出してたら殺すから」
そう言われて目を見開いたのだった。
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