第2話 そして私は恋に落ちた!

◇◇◇


 夢のように綺麗で優しいジークは憧れの王子様そのもの。当時6歳だった私は、一目でハートを撃ち抜かれた。


 でも、ジークが我が家で暮らし始めて少し経ったころ。いつになく激しい嵐の夜。雷が怖くてこっそりと寝室を抜け出した私は、庭園で雨に打たれながらひとりで泣いているジークを見てしまった。


 声もなくただただ涙を流して泣き続けるジークは本当に辛そうで悲しそうで。思わず私は裸足のままジークに走り寄って抱きしめていた。


「ジーク!ジーク!どうしたの?どこか痛いの?」


「……ソフィア様!いけません、お風邪を召されてしまいます」


「泣かないで……」


 泣き出した私に驚いたジークは、私を優しく抱きかかえるとそのまま寝室に連れていってくれた。結局二人して駆けつけたメイド達によって別々にお風呂に入れられ叱られたけど。叱られたことよりもジークの泣いている顔が頭から離れなかった。


(ジークは何がそんなに悲しいのかな……私、ジークの悲しむ顔は見たくない!)


 それ以来誓ったのだ。ジークを悲しませる全てのものから必ず私が守って見せるとっ!

それには私がジークのお嫁さんとなって末永く幸せにするしか道はないっ!


 ちなみに、決意も固くよりいっそうジークにまとわりつくようになった私を、ジークがどう思っているのかは定かではない。取りあえず嫌われてはない……と思いたい。



「ところで、お相手は決まっているのですか?」


「んと、シリウス伯爵家のアイスだかロイスだか……」


 正直興味もないので名前もうろ覚えだ。しかし、


「シリウス伯爵家……」


 呟いた瞬間ジークの顔が憎々しげに歪むのを私は見逃さなかった。今までジークが誰かに対して悪意を向ける様子を見たことがないだけにその反応に驚く。


「え、知ってるの?もしかしてすごい借金があるとか?」


 まあ、借金程度なら我が家の財力でどうにかなりそうではあるが。正直財力だけなら大貴族にも引けを取らない。


「正直、とてもソフィア様におすすめできるような家じゃないことは確かです。一家揃って社交界での評判も最悪ですし。先代の伯爵夫婦が不幸な事故で亡くなった後に伯爵家に入り込んだのが今の伯爵一家です。父親と息子は親子揃って酒と女癖が悪く、夫人は気性が荒く派手好きで伯爵家の内情は火の車だとか」


絵にかいたようなダメ貴族ぶりにうんざりする。


「うーわ。まごうことなき金目当ての臭いがプンプンするんですけど」


 結婚の話などさらさら受ける気はないのだが、噂のドラ息子はこの学園にいるらしい。下手に絡まれたらと思うとウンザリだ。


「……旦那様は何をお考えなのか……」


 難しい顔をするジークにますます不安が募る。


「ジーク、私に協力してくれる?この結婚を絶対に回避したいの」


「……分かりました。旦那様のご意志には背くかもしれませんが、ソフィア様が不幸になるところはみたくありません」


 にっこりと微笑むジークを見て、取りあえず協力を得られそうなことにホッとする。私はジークとの恋に生きると決めたのだ!絶対政略結婚なんてしないんだからねっ!


「そうと決まれば……ジーク!今すぐ私を抱いてっ!」


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