九百九十五話 迷惑な保護者

 体育館に入ると、なぜかリズの席に人が集まっていました。


「あのね、ここは間違いやすいから気をつけた方が良いんだよ」

「わあ、ありがとう!」

「聞いて良かった」


 どうも、リズが周りの人に勉強を教えているみたいです。

 サンディや他の面々も勉強を教えているけど、人に教えるのって自分が理解していないと駄目だから意外と勉強になるんだよね。

 一方、王女様スタイルのエレノアのところには主に貴族の子どもたちが勉強を聞きに来ていた。

 一般の人が聞きに行くには、ちょっとハードルが高いかもって思われているみたいです。

 ただ、エレノアに自己アピールしているのもいるけど、そこは近衛騎士が間に入ってやんわりと断っていた。

 今自己アピールしなくても良いから、良い成績を取ってから自己アピールしないと。

 そして、別件で別のところで揉めていた。


「これから筆記試験を開始しますので、保護者の方は別室に移動して下さい」

「何で私が別室に移動しないといけないのよ! これは横暴だわ!」


 なんというか、勘違いを起こしているご夫人がいるけど、見た感じ貴族の教育ママって感じだなあ。

 だったら、自分が学園生の時にどうやって受験したか覚えているはずだけど。

 係の人が説明しても、自分の主張をするだけで全く話を聞かない。

 仕方ないと、僕はスラちゃんとプリンとともにその人のもとに向かった。

 その時だった。


「私は、学園担当のアレクサンダー様の知り合いなのです。アレクサンダー様に言いつけますよ」


 受験生以外の係の人や体育館に入ってきた生徒会と先生までもが、その夫人と僕のことを交互に見ていた。

 もちろん僕はあの夫人を知らないので、スラちゃんとプリンとともに知らないと首をふるふると振るっていた。

 すると、更にこの夫人の発言がヒートアップする事に。


「ちょっと、そこの学園生何を見ているのかしら!」


 夫人は、僕の方を向いて野次馬するなと絶叫していました。

 頭に血が登ってヒートアップしている上に、僕のことを知らないという発言を自らしてしまったのだ。

 はぁ、ってため息をつきながら、ジンさんとルーカスお兄様が僕の前に出てきました。


「おいおい、あんたが学園生って言ったのがアレクサンダー副宰相だぞ。言いつけてやるって言った相手が、ずーっとあんたのことを見ていたぞ」

「はっ? えっ?」

「そもそも、私の母親でもある王妃も筆記試験時は別室に行ったのだが。王妃も行ったことを、あなたは破るのですね」

「はっ? えっ?」


 夫人は、ジンさん、ルーカスお兄様、そして僕のことを何度も見ていました。

 そして、段々と表情が青くなっていきます。

 今更ながら、自分が馬鹿なことをしたんだと理解したみたいですね。

 でも、残念ながら色々と遅かった。

 兵が、その夫人の周囲をガッチリと囲んだのだ。


「どうぞこちらに」

「特別な別室にご案内いたしますので」

「えっ、あっ、はい……」


 夫人は、観念したのかすんなりと兵の誘導に従った。

 残念ながら、僕の名前も出しちゃったので事情聴取を受けないとならない。

 もちろん、速攻で各所に連絡もいきます。

 謝ってももう遅いってことになっちゃいました。

 この場にアリア様がいれば、素直に別室に行ったのかもしれない。

 後の保護者は、素直に別室に移動してくれました。


「はあ、俺たちの時にも馬鹿な親がいたなあ。私をこの場に残せってな」

「あの時は、私のお母様がニコリと真顔で話をしたわね。上の立場の人がいれば従わざるを得ないけど、今日はたまたま上位貴族の保護者が少ないんだよね」


 ジンさんとレイナさんが懐かしそうに話をしていたけど、あんな感じの保護者は毎年現れるそうです。

 ルーカスお兄様もやれやれといった感じだけど、とにかくこれで準備完了です。

 生徒会の面々は実技試験の手伝いをするとのことなので、挨拶をしてから体育館から退場します。

 僕たちは、体育館の前の方に移動しました。

 すると、エレノアがルーカスお兄様に話しかけました。


「あっ、ルーカスお兄ちゃん、もう試験始まる?」

「もうすぐだよ。参考書しまった方が良いね」

「はーい」


 僕たちから見れば何気ない兄妹のやり取りだけど、他の人から見れば王太子殿下と王女殿下の会話です。

 これを合図に、受験生は一斉に席について参考書をしまいました。

 どうもさっきの僕たちと夫人のやり取りが聞こえたのか、ちょっと緊張感漂う雰囲気ですね。

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