九百九十一話 アレク君って大人が化けている?

 辺境伯様の屋敷での挨拶が終わった後、みんなで冒険者ギルドに移動します。

 もちろん、全員歩いて向かいました。

 ポニさんだけでなく辺境伯領兵もいるから、安全は確保されています。


「あら、ルーシー様。今日はみんなでお出かけですか?」

「ええ、そうなのよ。この前お兄様が行った冒険者ギルド体験を、今日は私たちが行うよ」

「そうですか。頑張って下さいね」


 商店街のおばあちゃんがルーシーお姉様に親しげに話しかけていたけど、他の学園生はもう目をまんまるとするほどびっくりしていました。

 ランさんだけはルーシーお姉様とともに辺境伯領で冒険者活動したことがあるので、クラスメイトの反応を見て苦笑していました。

 無事に冒険者ギルドに到着すると、またもやルーシーお姉様に厳つい冒険者がニコニコしながら話しかけてきた。

 更に、ルカちゃんとエドちゃんは薬草採取で一緒になるおばちゃんとも仲良さそうに話をしていた。

 おばちゃんは功績がたくさんあって勲章も貰っているから、正体を知ったらびっくりするだろうね。

 そして、受付にいたマリーさんにエリちゃんたちの子守りの件を聞いてみたら、既に手続き済みだという。

 ということで、全部で七つの冒険者体験があることになりますね。

 因みに、今日は王都の冒険者ギルドに行っていないので順次冒険者の登録手続きを行います。

 自分の冒険者カードを手にしてニコニコしている学園生を見ると、僕とリズが冒険者登録した時のことを思い出しちゃった。

 すると、マリーさんが僕にあることを言ってきました。


「じゃあアレク君、この子たちの初心者冒険者向け講習宜しくね」

「えっ?」

「いきなり冒険者として依頼を受けるのは駄目よ。ルーカス殿下の時には、既に王都で講習を受けた見たいよ」


 ああ、そっか。

 ルーカスお兄様の時は王都で話を聞いた上に、冒険者登録時に配られる冊子を読んでいたんだ。

 でも、ルーシーお姉様たちに関してはいきなり辺境伯領から来たので状況が異なっているんだ。

 ジンさんも「あっ」って表情をしているけど、こうなったらさっさと始めた方が良いですね。

 荷物講習はしても良いかもしれないけど、学園で剣技と魔法は授業で行っているので実技講習はパスしても大丈夫そうです。

 引率の先生とジンさんと話をして、この後の日程の確認をします。


「それでは、これから簡単に講習を行いますので、荷物を持って部屋に移動して下さい」

「こっちだよー!」


 リズが部屋の入り口でぶんぶんと手を振っているので、場所は直ぐに分かります。

 学園生が次々に入る中、何故か一般の冒険者も数人部屋の中に入って行きました。

 これって、もしかして……


「ジンさん、もしかして別の登録したばっかりの冒険者もついでに講習をする流れですか?」

「そんな感じだな。まあ、別のものは実技も見た方が良いが先に座学だけでもやってしまおう」


 深く考えても仕方ないし、ここはいつも通りにやりましょう。

 講師は僕がやるしかないかなと思いつつ、教室に入って準備を進めます。

 リズたちもやる気満々でなにやら話をしていたけど、補助的なところはお願いしよう。


「準備が整いましたら、さっそく始めたいと思います。講師のアレクサンダーです、アレクと呼んで下さい。Dランク冒険者です」

「リズだよ! エリザベスだけど、リズって呼んでね。リズもDランク冒険者なんだよ! あと、スラちゃんとプリンちゃんも凄いんだよ!」


 僕とリズが自己紹介すると、特に僕の紹介でざわざわと騒めいていた。

 スラちゃんとプリンのことではなさそうだ。

 えっと、僕のことで何かあったのかな?


「アレク君って、確か副宰相じゃなかったっけ?」

「学園にもよく来ていたから、たまに見ていたよね」

「入園式と卒園式では、必ず祝辞をしていたよなあ」

「あのスライムも、たまにアレク君と一緒に学園で見たぞ」


 そっか、貴族として動いている僕の姿を多く見ているから、冒険者だって知らない人が多いんだ。

 というか、スラちゃんとプリンのことは知っているんだね。

 思わずがくりとしながら、僕は座学を始めました。

 流石はAクラスだけあって、とってもお行儀よく話を聞いています。

 たまたま一緒になった冒険者も、真剣に話を聞いていますね。


「冒険者も、様々ある仕事の一つにすぎません。たまに自己責任だから何やっても良いと言っている人がいますが、大抵そういう人は大失敗を起こします。どんな仕事も、信頼関係が必要です。礼節を守り時間を守るなど、当たり前のことを当たり前のように行いましょう」

「「「はい!」」」


 元気よく返事をしてくれて、僕としてもとっても安心です。

 すると、こんな声が聞こえてきました。


「アレク君って、小さい頃から祝辞も立派に言っていたよね。もしかして、大人が化けた姿だったりして」

「あっ、ありえそうだわ。しかも、凄い人が化けていそうね」


 えーっと、確かに僕は転生した姿だけど転生前も中学校を卒業したくらいだし社会人経験は殆どないんだよね。

 あと、背中にチャックがありそうとか、そういうのは大丈夫ですよ。

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