八百五十一話 まるで学園ドラマ?

 卒園式が終わったら、直ぐに入園式です。

 新入生のルーシーお姉様は一年生で、二歳年上のルーカスお兄様とアイビー様は三年生になります。

 僕たちも、あと二年したら入園ですね。


「もう入園準備はバッチリよ。お友達も出来たし、何も心配ないわ」


 午前中のうちに色々な準備を終えたので、昼食を食べる為に食堂に来たルーシーお姉様は満足そうな表情をしています。

 ちなみに、従魔のぴぃちゃんも一緒に学園に行くそうですが、授業中は窓の外にいるそうです。

 そして、入園式の警備関係もだいたい決まりました。


「アレク、あの馬鹿の処分も決まったって?」

「停職一ヶ月です。その、注意をした上司を殴っちゃったので……」

「自分の意見が通らなくて機嫌悪くして、注意した者を殴るなんて。冒険者だとしても、絶対に大成はしないだろう」


 ジンさんはかなり呆れていますが、卒園式後の宰相執務室でのひと悶着の後、例の担当者が自部署で注意をした課長を殴ったのです。

 感情的になりがちな印象を持っていたけど、結果的に自らトドメをさした形になりました。

 傷害罪で捕まったのもあり、量刑次第では更に処分が重くなります。

 勝手に自爆した印象もあるけど、まだ油断はできません。

 でも、入園式の時に王城にいるといないとではかなり気持ちが違います。

 王城は、念の為に警備を強化するそうです。

 まだ、他の部署に似たような人がいますからね。


「入園式が終われば、少しゆっくりできそうですね」

「無事に終わればだがな。示談で終われば、またあの馬鹿が復帰するぞ」

「あっ、既に人事異動するそうです。その、かなり大変な部署らしいですけど」


 例の担当者は、商務部門から総務部門に異動するそうです。

 百戦錬磨の屈強なおばちゃん達が控えているそうで、ある意味軍人よりも怖いそうです。

 全員が、シーラさんみたいな強いおばちゃんみたいなんだろうなあ。


「あと、新人も入るんだろ?」

「僕があと二年で学園に入るので、後釜を作る意味もあるそうです」

「学生の本分は勉強だ。放課後に王城に越させて、アレクに仕事はさせないだろう。ルーカスだって、公務はセーブさせているからな」


 学園の卒業生で優秀な人が、宰相執務室に配属されます。

 先輩としてローリーさんもやる気満々なのですが、それ以上にシーラさんも色々と教えるつもりでいます。

 その前に、ジンさんチェックを通過しないといけないですね。

 その新人さんが事前研修で午後からやってくるそうなので、昼食を食べたらみんなで会いに行きます。


「どんな人かな?」

「「「楽しみ!」」」

「あうー」


 直接業務に関わりのあるリズ達はもちろんの事、ミカエル達ちびっ子軍団もついてきました。

 更に、エリちゃんもねこちゃんに乗ってついてきました。

 どうせなら一回で顔合わせを済ませようという事になり、保護者としてジンさん達とティナおばあさまもついてきました。

 みんなワクワクしながら着いて来たのですが、宰相執務室に入ると予想外の展開が待っていました。


 ガチャ。


「な、ナッシュ君! どうしてここに?」

「その、ローリー先輩の力になりたくて、宰相執務室を希望しました」


 宰相執務室に入ると、いきなりドラマが始まっていました。

 研修に訪れた緑色の短髪で結構なイケメン男性が、ローリーさんの手を握りしめていました。

 いきなりのことに、全員ポカーンとしちゃいました。

 一方で、宰相やシーラさんに他の職員も、静かに事の成り行きを見守っていました。


「ナッシュ君の気持ちは、とても嬉しいわ。でも、私はもう綺麗な体じゃないの……」

「ローリー先輩が無事なら、そんなの関係ありません!」

「ナッシュ君……」

「「「おおー!」」」


 パチパチパチ。


「「はっ」」


 そして、実質的な愛の告白まで行われたので、この場にいた全員が二人に向けて拍手を送っていました。

 この時点で、リズ達やスラちゃんを始めとする従魔達も男性を悪人と判断していません。

 というか、ここまで真剣にローリーさんを思っているのなら悪い人ではなさそうです。

 みんなが拍手をしたので、二人の世界に入っていたローリーさんたちも現実に引き戻されたみたいです。


「「「お兄ちゃん、かっこいい!」」」

「「えっ? えっ?」」


 そして、ミカエル達は男性を英雄だと思って抱きついていました。

 ローリーさんのところには、リズ達が笑顔で向かっていました。

 二人とも、何が何だか分かっていないみたいですね。


「新しい人が、とても良い人で安心しました」

「だな。最近、馬鹿な奴がいたから、こういう真っ直ぐな奴なら安心だ」


 僕もジンさんも、新しい職員が良い人で安心しました。

 宰相もシーラさんも、うんうんと頷いていますね。

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