八百二十八話 腹ペコの飛竜
ごそごそ、ごそごそ。
「こっちにもあるよ!」
「あっちにもあった!」
ちびっ子軍団の声が、森の中に響いています。
僕も沢山薬草を採っているけど、やっぱり辺境伯領は薬草が取り放題だね。
スラちゃんとプリンも、思い思いに薬草を採っています。
「いやあ、今日は大量だね。お父様が、今度からお小遣いは自分で稼げって言うんだよ。まあ、意外と溜まっているけどね」
「エレノアもなの。でも、エレノアもお金は大丈夫だよ」
うん、ルーシーお姉様とエレノアが世知辛い事を話しているけど、王妃様もアリア様も子どもに無駄遣いをさせるとは思わない。
教育方針としては良いのだけど、王族なのだから少しはお小遣いをあげても言いような気がする。
一回の薬草採取で、相当のお金が入るけどね。
「いやあ、今日は楽な依頼で良いなあ。周囲も特に危険はないし」
「ほらほら、子どもが変なところに行かないように見ていないと」
「変なところに行ったらしょうがないよ」
「はいはい、分かったよ」
ジンさん達も、連日の捜査から解放されてのびのびとしています。
まあ、普段森に住んでいるクマとかが監視をしているので大丈夫でしょう。
それに、ちびっ子軍団も固まって薬草採取をしているから、迷子も大丈夫です。
そして、開始から一時間が経った時の事でした。
「はーい、休憩するからこっちにおいで!」
「「「はーい」」」
エマさんがちびっ子軍団に声をかけて、僕達は一旦街道側に戻ります。
全員戻ってきたと思ったら、何故かミカエルが再び森の中に入っていきました。
「あれー? 何かいるよ?」
「何だろう?」
「ガウ?」
ブリットとクマも、ミカエルの後をついて森の中に入っていきます。
そして、直ぐにクマがあるものを抱えて森から出てきました。
うん、とんでもないものだぞ。
「ねーねー、竜がいた!」
「竜だよ!」
「ガウッ」
「グルル……」
クマが持っていたのは、小さな竜だった。
鑑定すると、飛竜ってでてきた。
それにしては、随分と小さいような。
「お腹ペコペコだって」
「ご飯食べたいの」
「グルル……」
キュルルルル……
うん、ここまで飛竜のお仲の音が聞こえてきた。
僕はアイテムボックスからオーク肉の塊を取り出して、ジンさんに細かくしてもらった。
飛竜は、ミンチになったオーク肉を勢いよく食べ始めた。
「ガブガブ」
「おー、凄い勢いだね」
「いっぱい食べているよ!」
よっぽどお腹が空いているのか、飛竜は周囲にちびっ子達が集まっても無心でオーク肉のミンチを食べていた。
飛竜を運んだクマにも、ご褒美としてオーク肉のミンチをあげました。
うーん、竜は初めて見たよ。
「ありゃ、巣立ったばかりの飛竜だろう。たまにこの森にもいるけど、滅多に人前には出てこないぞ」
「うーん、多分エサがうまく取れなかったのかな?」
「だろうな。相当腹が空いてなければ、あんなに簡単に捕まらないぞ」
ジンさんと飛竜について話をしたけど、飛竜も全部が全部うまくエサを取れる訳では無い。
もしかしたら、あの飛竜は本当にエサを取るのが下手くそなのかもしれないね。
「グルル……」
「あのね、お母さんにいつまで巣にいるのよと蹴っ飛ばされたって。それでこの森に来たって」
「でも、獲物を捕まえられなくて、お腹ペコペコだったって」
「「「はあ……」」」
うん、僕とジンさんの予想よりも上だったよ。
巣にずっといたから、母親に早く巣立ちしろと追い出されたなんて。
これには、僕だけでなく大人も思わずガクリとしてしまった。
しかし、これで事は終わらなかった。
「グルル……」
「それで、森にゴブリンが沢山いたって」
「追いかけられてきたから、逃げてきたんだって」
「「「えっ!」」」
追加情報に、今度は全員がビックリです。
そして、顔を見合わせました。
うん、薬草採取どころじゃなくなったよ。
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