八百二話 怪しい書類が出てきた

 ということで、ジンさんとレイナさん達に加えてスラちゃんがサギー伯爵領に調査に行っている間、リズ達のところにはティナおばあさまに加えてこの人も一緒に動く事になりました。


「孫が頑張っているのだから、私が参加しても何も問題ないだろう。それに、各部署横断となるとまさに副宰相の仕事といえよう」

「法改正の対応をしていると、各部署の動向や現状を把握しないとならない。ちょっといいタイミングだよ」


 カーセント公爵とグロスター侯爵のおじいさまが、やる気満々で準備をしていました。

 ある意味ジンさん達よりもパワーアップした布陣なので、何も心配はないですね。

 さっそく、まだ王城の行っていない各部署に向かいました。


「では、僕達はいつも通りに書類整理をしましょう」

「アレク君も、各部署の確認に行っていいんだよ」

「こら! サボりたい理由を言うんじゃないよ!」


 宰相が変な事を言ってシーラさんに怒られていたけど、別に日常茶飯事の事だから誰も気にしていません。

 ということで、僕達はいつも通りにお仕事を進めます。


 カリカリカリカリ、ペラペラペラ。


 新しい年が始まったから、沢山の書類に囲まれています。

 色々と事業が動き始めたので、とても良い事ですね。

 そんな中、僕はとある書類を手にして思わず目を開いてしまいました。


「宰相、この資料を見て下さい」

「なになに、サギー伯爵領内における農地開発の申請書だと?」


 僕が宰相に見せた書類には、絶賛話題になっている領地の名前が記載されていました。

 書類を作ったのも例の捕まった職員だけど、決済日は捕まる前なので書類としては有効です。

 しかも、書類の内容自体も何も問題ありません。

 うん?

 この書類を上手くつかえば……


「宰相、これってブランデー子爵家と同じ手を使えませんか?」

「アレク君、ちょうど私も同じ事を考えていた。金額も大きいし、サギー伯爵家への調査をするにはうってつけだろう」


 僕は書類を手にしたまま、宰相とニヤリとしちゃいました。

 書類として何も問題ないので、堂々と調査団を派遣できます。

 でも流石に独断では決められないので、昼食時にみんなで集まって話し合いをする事にしました。

 ジンさん達も昼食時には戻ってくるので、ちょうどサギー伯爵領の様子を聞くこともできます。


「どうして奴らは、こうも上手くやらないのか? 悪事を働くのに慣れて、隠すこともしなくなったのか」


 陛下に捕まった職員から出された書類の事を伝えると、逆にバレバレの手口を使ったので心配されてしまった。

 とはいえ、過去にこの職員や出向機関から出された書類が正しいか確認する必要もあります。

 それは、別口で調べる手はずを整えています。


「どうせなら、しっかりとした調査団を派遣する必要がありますな。規模や金額を聞いても、中々の大事業みたいですし」

「ふむ、余もそう思う。農務卿に、調査官を決めさせよう」


 グロスター侯爵のおじいさまが、ニヤリとしながら陛下に進言していた。

 進言を聞いた陛下も、ニヤリとしていた。

 どうやら、この時点で調査団の派遣は決まりました。


「時にジンよ、サギー伯爵領の様子はどうだったか?」

「うーん、まだ半日なので何とも言えませんが、表面上は特に変わったところはありませんでした。冒険者ギルドも、至って普通の依頼が掲示されていましたよ」

「ふむ、余の黒子からも同じ様な意見を聞いた。何れにせよ、調査団が決まるまでは引き続き潜入調査を続ける様に」


 ジンさん達は、継続して調査を続けます。

 そんなジンさんを見て、この子達が質問をしていました。


「ねーねー、次はいつ冒険するの?」

「エド、勉強頑張ったよ!」

「ごめんな。悪い事をしていそうな者が見つかったから、暫く冒険者活動はお休みだ」

「「えー!」」


 先日の薬草採取が楽しかったので、ルカちゃんとエドちゃんはまた冒険者活動をやりたいみたいです。

 しかし、ジンさんの話を聞いてかなり不満そうな声を上げていました。


「じゃあ、ルカが悪い人を捕まえるよ」

「エドも、悪者を捕まえる」

「ルカもエドも、流石に悪者は捕まえられないぞ。まあちょっと待てば、また薬草採取ができるぞ」

「「つまんなーい」」


 まあ、ルカちゃんとエドちゃんはまだ小さいから、確実に安全が確保されないと薬草採取は無理だろう。

 でも、ルカちゃんとエドちゃんが簡単に納得するはずもなく、ジンさんは暫く駄々をこねる二人を慰めていました。

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