七百五十八話 馬鹿な真似をしたもの
よし、僕も始めよう。
対岸にいるスラちゃんに手を振ってから、僕は魔力を溜め始めました。
シュイーン、ガシッ。
「よっと、うん、上手く固まったね。でも、根本的には灌漑工事しないと駄目だね」
「そうね。この急カーブをどうにかしないと、いつまた氾濫が起きるか分からないわ」
僕は、カミラさんと一緒に作業を進めます。
応急処置はこれで良いんだけど、カーブになっている所を上手く避けた排水路がないと駄目だ。
とはいっても、ブランデー子爵に理解して貰うのは不可能だろうな。
「アレク君、体験入園は無事だったの?」
「ブランデー子爵夫人と息子が、ルーシーお姉様に婚約破棄して俺と結婚しろと迫っていました。王妃様に言い負かされて、そのまま連行されました」
「馬鹿だ、馬鹿すぎる。そもそも子爵と王女の結婚は無理でしょう」
作業の合間にカミラさんに体験入園であった事を話していたけど、やっぱり結婚しろと言ったのは非常識だよね。
そもそも、体験入園で結婚しろとは普通言わないはずだ。
「あと、ルーシーお姉様と平民の子がお友達になっていました。ダブル特待生の凄い人らしいですよ。他の人とも仲良くなっていました」
「その平民の子は、いわゆるジンみたいな人なのね。トラブルもそれくらいで何よりだわ」
ルーシーお姉様は手が空けばランさんに会いに行こうとするだろうけど、炊き出しに行けば会えると思うけどね。
さて、これで護岸の応急処置は完了です。
「よし、終わった。これで大丈夫ですよ」
「この場は兵に監視させて、私達も屋敷に向かいましょう」
スラちゃん達の護岸の応急処置も終わったし、河川の水量も一時期と比較して落ち着いてきました。
上流で降った雨が、何とか落ち着いたんですね。
全員まとめて、スラちゃんの転移魔法で移動します。
シュッ。
「よっと。あっ、軍務卿、河川の応急処置は終わって兵に監視して貰っています。屋敷はどうなっていますか?」
「アレク君、本当に助かった。引き続き、兵に監視させよう。屋敷は、その、ブランデー子爵が特上の馬鹿だったのでみんな呆れて執務室から出てきたんだよ」
屋敷の玄関にいた軍務卿が、思わず頭をポリポリとしちゃった。
一体ブランデー子爵が何を言ったのか気になるので、僕たちは執務室に向かいました。
「王妃様、落ち着いて、落ち着いて下さい!」
「お母様、こんな奴相手にしても仕方ないですよ!」
「ジン、ルーシー、止めないで! この馬鹿を仕留めないと気がすまないわ!」
「ゲホゲホ……」
「「「うわあ……」」」
執務室は大混乱だった。
ジンさんとルーシーお姉様が怒り心頭の王妃様を必死に羽交い締めにして止めていて、ブランデー子爵と思わしき太った中年男性が床に膝をついて喉を抑えながら咳き込んでいた。
ルーカスお兄様とアイビー様は、泣いているオレンジ色の髪の少年を慰めていた。
うん、正直何が何だか全く分からないよ。
取り敢えず王妃様を止めないと、ブランデー子爵を殺しちゃう。
「はあはあはあ……」
「お母様、少し落ち着いて下さい」
ようやく少し落ち着いた王妃様をソファーに座らせて、ジンさんから何があったかの話を聞くことに。
「ブランデー子爵は、私は王国創立以来の由緒正しい貴族だから何をしても許されると言ったんだよ」
「あの、そこまでのぼせ上がっていたんですね……」
「流石に閣僚も呆れてな、直ぐに証拠を押さえるべく部屋を出て動き出したんだよ。で、暫くしたらブランデー子爵が王妃様の事を年増のババアって言ったんだよ。それで、王妃様が激怒したんだ。どうも、王妃様とブランデー子爵は学園の同級生らしいぞ」
ジンさんの説明を聞いた全員が、思わず溜息をついちゃいました。
閣僚を呆れさせるだけでなく、王妃様に喧嘩を売るとは。
「ブランデー子爵を贈収賄で拘束して、さっさと王城に送りましょう」
「そうだな、俺もコイツの顔を見たくないわ」
「「「うんうん」」」
ジンさんを始めとする全員の意見が一致したので、レイナさんがササッとブランデー子爵を拘束してスラちゃんが王城に連れていきました。
はあ、久々にまともに相手をするのも馬鹿馬鹿しいのが現れた。
王妃様にはノエルさんが紅茶を入れていて、更に落ち着かせていました。
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