七百三十話 馬鹿貴族の後始末その一

 学園で騒ぎが起きた翌日、授業があるルーカスお兄様とアイビー様を除いた面々が会議室に集まりました。

 もちろん、昨日の騒ぎを受けた話です。

 停学とかそういう事であれば、わざわざ会議室にみんなが集まる必要はありません。


「はあ。まさか、本当に被害者宅を襲撃するとは。奴らは馬鹿野郎だな……」

「あそこまで馬鹿な連中は、過激派の連中に匹敵するものがあるぞ」


 陛下とジンさんの溜息まじりの一言が、何でみんなが会議室に集まったのかを物語っていました。

 昨日平民のベッツさんを集団暴行していた馬鹿三人組の実家が、謹慎処分になった腹いせでベッツさんの家を襲撃したのだ。

 三人組を拘束したのはプリンとアマリリスだけど、公式ではルーカスお兄様と僕が三人組を捕縛してベッツさんを治療した事になっている。

 三人組の実家には、何か事を起こせば王家に喧嘩を売る事になると警告してありました。


「しかし、弱くて逆に扱いに困った奴を送り込んできやがった。どう見ても、闇ギルドの連中ではないな」

「スラちゃん達も暇で仕方なくて、代わりにベッツさんの家を綺麗にしたり補修をしていたみたいですよ」


 ベッツさんの家は小さな一軒家で、色々な所にダメージがあった。

 ジンさん達が表で襲撃者を撃退していた間に、スラちゃん達が魔法やアマリリスのスパイダーシルクを駆使して改修しまくっていた。

 因みに、スラちゃん達は今夜も警戒と称してベッツさんの家を補修する予定だそうです。

 もちろんベッツさんからお金は取らず、逆に大怪我をさせてしまったので学園からの慰謝料の一部としています。


「貴族のプライドは時に国家や王家の警告をも超えると、馬鹿な言い訳をしてきた。久々に、イキの良い奴と相まみえるな」

「前にも跡目争いで大事件を起こした貴族が、似たような事を言っていましたね。プライドの塊みたいな貴族って、まだまだいたんですね」

「残念ながら、王都に限らず地方にもそんな貴族がいる。頭の痛い話だ」


 王家と軍の警告を無視して襲撃者を送り込んだので、軍とジンさん達とティナおばあさまが三人組の屋敷に乗り込んで当主や関係者を捕縛した。

 ジンさんもだけど、ティナおばあさまも以前の貴族のプライドの為の事件を克明に覚えているのでめちゃくちゃ怒っていました。

 ジンさん曰く、主犯の貴族の屋敷に乗り込んだティナおばあさまを見た当主が、一瞬にして顔が真っ青になって崩れ落ちたそうです。

 今更罪を自覚しても遅いけどね。

 三人組の屋敷への捜索は今も続いていて、最低でも一週間はかかるそうです。


「奴らがいじめに走った原因は貴族のプライドと教育方針の両方だ。夫人は普通で息子の将来を憂いて家庭教師をつけていたが、当主がアホで常に怒鳴ってばかりいた。その反動で弱い者いじめをしていた。因みに、当主は万年下級クラスだ」

「息子に何を期待していたのか、理解に苦しみますな。当主は、自分以外の者を怒鳴ることしかできないのでしょう」


 またもや陛下と宰相がどよーんとしながら話をしていた。

 ただ、精神的に病んでいるのは合体魔法でも治せない。

 地道に対応するしかないね。


「暫定対応として、当主を夫人に交代する。嫡男にも問題があるから、暫定当主とする事はできない」

「夫人はまともだから、今回は仕方ないですね。後は、嫡男以外の弟がまともである事を願うばかりです」


 全く実りのない報告は、これで終了です。

 三人組の学園での処分は決めている最中だそうだが、退学か長期停学が基本線だそうです。

 三人の反省度合いによるみたいですが、改善を希望するのは難しいでしょう。

 僕達は、それぞれの執務室に戻りました。


「私達の時にも、どうしょうもないクズがいたわよ。上位貴族の威厳を盾にして、セクハラしまくっていたわ。宰相の嫁に手を出して、そいつは一貫の終わりだったけどね」


 シーラさんが学園の時の話をしていたけど、公爵家である宰相が注意しても駄目だったんだ。

 因みに宰相のお嫁さんは当時の軍務卿の娘で、イコール軍を敵に回した事になったそうだ。


「まあ、前回の件もあるし当分警戒するにこした事はない。馬鹿は、いつどこで何をしでかすか分からないからな」


 書類にサインをしつつ、宰相がボヤいていました。

 ともあれ、当分は気を付けないといけないね。

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