六百五十二話 卒園式の始まり

 時間になったので、僕達はそれぞれ所定の位置に移動しました。

 僕とリズとルーシーお姉様は、壇上に用意された来賓席に座ります。

 ジンさん達も、体育館の壁際に位置してスタンバイオッケーです。

 辺境伯様夫妻も保護者席に座ったし、エマさんとオリビアさんも席に座っています。


「皆様、お待たせいたしました。これより、卒園式を始めます」


 おお、司会進行役はアイビー様なんだ。

 でも、生徒会に入っているし、とっても綺麗な声です。

 式自体は普通に進んで行きますが、最初にして最大の難関がやってきました。


「それでは、学園長先生から卒園生への言葉です」


 そうです、学園長の言葉がやってきました。

 僕が今まで参加した学園行事では、学園長の話が半分以上の時間を占めていた時がありました。

 こころなしか、周りの人もざわざわとし始めました。


「卒園生の諸君、卒園おめでとう。学園を代表して、諸君に言葉を送ろう。先ず……」


 そして、やっぱりというか長時間の演説が始まってしまいました。

 過去最高の長さじゃないかなってくらい、学園長の話が止まりません。


「長いよ……」

「退屈だよ……」


 流石に卒園式の最中なので小声だけど、リズとルーシーお姉様も完全に飽きてしまっていた。

 ふと保護者席を見ると、学園長の話によって催眠術にかかってしまった人もいる。

 卒園生にも、ちらほら催眠術にかかっている人がいるぞ。


「……以上をもって、私からの挨拶とする」


 パチパチパチ。


 そして、学園長の話が終わると、体育館中から大きな拍手が起きました。

 勿論、僕とリズとルーシーお姉様も拍手をしていました。

 な、長かった……

 思わず、僕も寝ちゃいそうだったよ。


「続きまして、来賓を代表して宰相補佐官であるアレクサンダー殿下より祝辞を頂戴します」


 おっと、学園長の話で完全に集中力が途切れちゃったけど、僕も挨拶をしないと。

 紙は用意したけど、アドリブで短くしちゃおう。


「卒園生の皆様、ご卒園おめでとうございます。来賓を代表して、一言祝辞を送ります。これから皆さんは学園を卒園して社会に飛び出しますが、どうか学園で育んだ友情を大切にして下さい。大切な仲間と共に、新しい王国を築き上げるのを私も楽しみにします。結びに、今まで卒園生を大切に育てて下さった保護者の皆様、真剣に授業を教えてくれた先生、多くの人の御多幸を祈願して私の挨拶とします」


 パチパチパチ。


 ふう、アドリブだったけど上手くいって良かった。

 体育館中から、拍手が送られました。


「お兄ちゃん、カッコよかったよ!」

「流石は弟くんね。堂々としていたわよ」


 席に着くと、小さな声でリズとルーシーお姉様が僕を褒めてくれました。

 僕も大役を果たして、ホッとしています。


「続きまして、卒園生代表挨拶です。卒園生代表、エマ・ホーエンハイム」

「はい」


 アイビー様のアナウンスで、エマさんが席から立ち上がりました。


「ちょっと待った!」


 ざわざわ。


 エマさんが立ち上がった瞬間に、太っちょの学生が立ち上がった。

 突然の事で、体育館中がざわざわとしています。

 間違いなく、あの男子学生がバード伯爵の息子だね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る