五百六十九話 不埒な者を成敗!

 すると、ジェリルさんとランカーさんが、膝から崩れ落ちてしまいました。


「うっ、うぅ……、確かに私は剣しか取り柄のない女よ……」

「だからって、人を騙す様な事をしなくても……、ぐす」


 もう、ジェリルさんとランカーさんは号泣モードです。

 そんな二人の肩を、おばちゃんとジュリさんが優しく抱いていました。


「こんな可愛い子を騙すなんてね。あんたは全く悪くないわよ」

「そうよ。私も妻だから分かるけど、その男が最悪であってあなた達は悪くないわ」

「「うぇーん!」」


 ジェリルさんとランカーさんが落ち着くまで、少し時間がかかりました。

 その間、ティナおばあさまがいつものタブレット型の魔導具をポチポチといじっていました。


「軍務卿と連絡が取れたわ。もう薬草採取をする状況ではないし、王城に行って話をつけましょう」

「「「おー!」」」


 おお、ティナおばあさまは笑顔で話をするけど、目が全く笑っていません。

 ここに集まった全ての人も、やる気になっています。

 あえて、何をやる気になったかは言わないでおきましょう。

 僕は直ぐに王城の軍の駐留所にゲートを繋いで、皆で王城に向かいました。

 既に軍務卿だけでなく、何故か騎士服を着た王妃様も待っていました。


「あの馬鹿の件だが、ちょうど処分をしようと思っていたんだよ。流石に被害が出ているからな」

「王家を守るべき近衛騎士が、こんな醜態を見せるとは。ふふふ、お仕置きのしがいがありますわね」


 軍務卿の言い分はともかくとして、確かに王家を守る近衛騎士に悪影響を与えているのは不味いよね。

 王妃様についている他の近衛騎士も、うんうんと頷いています。

 先ずは全員で、王城にある訓練施設に向かいます。

 そして、全員がフル装備をします。


「悪い人は、リズがやっつけるよ!」

「腐りきった性根を叩き直さないと」

「人として更生できるか、ちょっと不安ですね」


 勿論、リズ達だけでなくおばちゃんとジュリさんも武装をしています。

 そして、スラちゃんが王城の陛下の側にいるマグワイアを長距離転移で呼び寄せました。


「うん? 何だこれは?」

「はっ? えっ?」


 スラちゃんは、マグワイアだけでなく何故か陛下も呼び寄せていました。

 陛下は昼食前のおやつタイムだったのか、手にはマロード男爵領名産のお煎餅を持っていました。

 マグワイアは確かに見た目は超イケメンだけど、何だかナルシストな感じもするよ。


「あなた、ちょっと」

「う、うむ。なんだね?」

「あ、あわわわ……」


 ハルバードを肩に担いだ王妃様が、ニコリとしながら状況がよく分からない陛下を呼び寄せました。

 一方のマグワイアは、自分が何故訓練施設に連れてこられたのか理解して顔が真っ青になりました。

 そして、王妃様から話を聞いた陛下がマグワイアをギロリと睨みつけました。


「マグワイア。闇ギルド対策もあるから、軍に限らず王城で働く者はより一層の綱紀粛正を命じたはずだ。それをあろうことか近衛騎士である貴様が破るとは、一体どういう事だ? そう言えば、王妃直属の侍従にも声をかけておったな。まさかとは思うが……」

「へ、へ、へ、陛下、も、申し訳ありません」


 うん、今度は陛下が激おこモードです。

 軍の規律を乱したばかりか、退職したいと言う程のセクハラまでしていたからね。

 更には、王妃様直属の侍従にも手を出していたのを陛下に見られていたとは。

 マグワイアは土下座モードで陛下に謝っているけど、これは謝って許される事ではないでしょうね。

 マグワイアは、完全に調子に乗りすぎましたね。


「詳細な処分は軍務卿に一任するが、先ずは余の権限においてマグワイアの近衛騎士としての任務を解く。おお、ちょうど複数の勲章を持った者がここにおるではないか。貴様の腐った性根を叩き直して貰うが良い」

「陛下、畏まりました」

「ヒィィィ……」


 陛下は、おばちゃんがこの場にいる事に気がついたみたいです。

 おばちゃんは何回も魔獣と戦って、国から複数の勲章を貰っています。

 実績で言えば、実はおばちゃんは物凄いんだよね。

 おばちゃんは陛下に一礼をすると、マグワイアの首根っこを掴んで訓練施設のど真ん中に引きずって行きました。

 まあリズもスラちゃんもいるから、例えマグワイアの手足が一本無くなっても直ぐに対応出来るでしょうね。


「あーあ、私は何やってるんだろうね」

「そうね、まさかアイツがあそこまでクズだとは思わなかったよ」


 大勢に囲まれていてマグワイアがどうなっているか分からないけど、そんな人だかりを見ながらジェリルさんとランカーさんがポツリと呟いていました。

 もう、マグワイアの名前を口にするのも嫌な感じです。

 すると、一緒に森に来ていた近衛騎士の男性が、突然ジェリルさんとランカーさんの手を握りしめました。


「ジェリル先輩、そんなに落ち込まないで下さい。その、力不足ではありますが、私がジェリル先輩を支えます」

「ランカー先輩が傷心しているところで卑怯だと思いますが、私も本気です。ランカー先輩にいつも優しくされて、本当に恩返ししたいと思っていたんです」

「「えっ……」」


 おやおやおや?

 周りの人がマグワイアをボコボコにするのに熱中していてこちらに全く気がついていないけど、とっても熱くて純粋なやり取りが行われているよ。


「陛下、近衛騎士同士の結婚って問題ありますか?」

「うん? 何も問題ないぞ。そもそも、伯母上も近衛騎士同士で結婚していたし。不足したら、軍から代わりを補えば良いだけだ」


 あ、確かにティナおばあさまも元は近衛騎士だったもんね。

 近衛騎士同士の結婚は、全く問題ないですね。

 という事で、ジェリルさんとランカーさんを巡る恋の騒動は一先ず決着しました。

 因みに、マグワイアは王城に勤めている女性兵だけでなく侍従にも手を出していた事が正式に判明して、僻地の男性だけの現場に送られたそうです。

 軍務卿曰く、下手に解雇するよりもキツイ事が待っているそうです。

 どうも、性欲が溜まりまくっている兵が沢山いる所らしいです。

 うん、確かにマグワイアは大変な事になるかもね。

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