第三百七十一話 卒園式からいつもの宴会に
「た、ただいま……」
「お、お帰り。だいぶ痩せたな」
「ははは、午前中乗り切ればもうこっちのものよ」
卒園式の朝、ヘロヘロになったエステルがショコラに連れられて戻ってきた。
フローラ様と何があったかは聞かないが、短時間で制服が着られる位にはなったらしい。
軽い朝食を取るために、エステルは食堂に消えていった。
まあ、流石に食べ過ぎる事はないだろうと思うし、食堂にいるメンバーに見てもらおう。
卒園式に参加するメンバーは着替え始めているし、今日は一緒の馬車で向かうという。
「ミケ、俺の代役宜しく頼むぞ」
「ミケにお任せだよ!」
俺の代わりにフローレンスの保護者として参加するミケに後をお願いして、俺はララとリリとレイアと共に王城に向かった。
「おお、サトーか。悪いな、色々頼んでしまって」
「いえいえ、他の方も不在ですので。因みに、エステルはもう学園に行きましたよ」
王城に着くと、丁度学園に向けて出発する所だった陛下とフローラ様がいた。
馬車に乗り込む前に、丁度俺達に気がついた様だ。
その時、俺の前でフローラ様が盛大に溜息をついていた。
「はあ。あの子ったら、全校生徒の目の前でお嫁に行くって言う所だったのよ」
「それは壮大な卒業総代のお言葉になる寸前でしたね」
「勿論、全部書き直しよ。全く、これからの結婚式の事で頭がいっぱいになっているわよ」
「ははは、その状況だと俺は卒園式に行かなくて正解でしたね」
あのおバカは一体何を考えているんだよ。
せっかくの卒園式なのに、とんでもない事をしでかしそうだな。
フローラ様に指導して貰って良かったよ。
そんな思いで、陛下とフローラ様の乗った馬車を見送った。
さて、俺も仕事をしないと。
「「「「「ただいま」」」」
「おかえりなさい」
午前中は閣僚もいなかったのでかなり忙しかったけど、午後には全員帰って来たので業務も通常に戻った。
なお、どんな卒園式かと聞いても全員が普通の卒園式だったと言っていた。
どうやら、エステルの悪巧みは完全に止められた様だ。
仕事も順調に終わりうちに帰ると、制服姿のフローレンスが出迎えてくれた。
「卒園式はどうだった?」
「何事もなく無事に終わりましたよ」
「それが一番だな。他の連中は?」
「全員パーティルームにおります」
「了解、もう少ししたら顔を出しに行くよ」
「分かりました」
フローレンスは制服のままパーティルームに戻っていった。
そう、何故か俺の屋敷で卒園式の打ち上げをやっている。
聞いてはいなかったけど、何となくそんな気がしていた。
着替えてからパーティルームに向かうと、何故か酔っ払ったエステルが俺の事を出迎えてきた。
「うふふふ、おかえりーサトー」
「お前、酒臭いぞ。いきなり抱きつくな」
「ふへへへへ」
やばい、エステルが壊れている。
今年に入ってから卒園に向けて色々追い込んでいて、一気に解放されたのもあるのだろう。
お酒を飲んで完全にグダグタになったエステルに抱きつかれながら、参加者のいる方に向かっていった。
「ははは、今日は見逃してやれ今日は」
「そうね、今日はね」
「直ぐに花嫁修行に入るのだから」
「勿論、他の人も一緒にやるわよ」
大人用のスペースで、こちらも出来上がっている陛下に王妃様達。
結婚生活に向けての準備として、来週から週四日王城で講習を受けるという。
何故かオリガにマリリさんも、一緒に花嫁修行を受けるという。
二人とも名誉爵位持ちだし、いわば貴族の当主という感じか。
「そうなんですよ、これからは正式に領地運営に専念しますよ」
「でも、二人とも仲睦まじくて羨ましいですわ」
卒園式という事なので、ギース伯爵領からはへレーネ様とダニエル様が一緒にいて、リンやフローレンスと共に特に女性陣に囲まれて話をしていた。
二人とも秋頃には結婚式を挙げる予定で、その頃には新しい屋敷もできる予定だという。
リンとフローレンスに加えてオリガとマリリさんにソフィーとジュリエットも結婚が近いので、女性陣と色々と話をしていた。
もう一人の結婚が近いエステルはこんな有様なので、どうも男女とも敬遠しているようだ。
というか、俺の首に腕をかけてぐでーって感じでもたれ掛かっている。
「ニュフフ、どう? 美少女に抱きつかれていい気分でしょう?」
「はあ、確かに微少女だな、微少女」
「むー、表現が違うぞ。ほれほれ、柔らかくて良いだろう?」
「そうだね、最近肉付きが良くなったからな」
「えー! 失礼な事を言う奴にはこうだ!」
「おい、体重を後ろにかけるな。首が締まる、締まる」
「謝れー! えいえい」
おーい、酔っ払いよ。いい加減離れてくれ。
最初は戯れてわざと胸を押し付けていたけど、マジ絡みしてきやがった。
本気で首が締まるぞ。
「またエーちゃんやっているよ」
「最近多いね」
「僕達はご飯食べよう!」
ほら、マシュー君達でさえまたかよって顔をしているぞ。
と思ったら、エステルはいつの間にか寝ている。
「はあ、またいつものパターンかよ。酔って絡んで寝てしまうとは」
「仕方ないですね、連れて行きますわ」
「すみません、お願いします」
マリリさんにエステルを預けて、俺はやっと解放された。
もうこういう事は年がら年中なので、マリリさんが戦利品の様にエステルを担いでも誰も何も言わなかった。
「ハハハ、もう熟練の夫婦漫才だな」
「なんだかんだいって、長い間いますからね」
「喧嘩するより全然良いわ。サトーは優しいから、エステルも安心しているのよ」
「たまに注意はしていますけどね」
「それが大事よ。適度に締めないとね」
俺はいつの間にか陛下とフローラ様と話をしていた。
もう直ぐこの人達が義理の両親になるなんて、何だか感慨深いなと思っていた。
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