第三百二十三話 移送された人神教国の人々

 今日は、旧人神教国からの難民というか魔獣から戻った人を移送する日。

 流石に俺一人では移送は無理なので、スラタロウやホワイトにショコラも手伝ってくれる。

 

「よーし、では順に運んでくれ」

「名簿作成班も大丈夫です」


 今日は学園生も実習兼ねて手伝ってくれる。

 とっても有り難い。

 万が一に備えて、ララとリリにドリーの治療班もバッチリ。

 今日は、フェアとオリヴィエも治療のお手伝い。

 ミケとエステルとリンに加えて、ドラコ達も人員整理班でつけている。

 今までの経験則で、俺はこれで大丈夫だと思っていた。


「この子は要治療です。治療班にまわして下さい」

「ポーションが足りません。追加を」

「炊き出しも増やしましょう」


 ハッハッハ、何この忙しさ?

 程度の差はあるが、連れてくる人が全員栄養失調。

 栄養失調の為に体の抵抗力が落ちて、病気になっている人も多数いる。

 人神教国の一般の人は食糧難だと聞いたけど、ここまで悪いものだったとは。

 名簿作成に、急遽病気とかの欄が増やされていく。

 ある程度移送したら、ホワイトは治療班に、スラタロウは炊き出しを始めていた。

 俺もショコラと頑張って移送を終わらして、治療班に加わる。

 名簿作るときに前職や特技などを聞く予定だったけど、とてもじゃないけど無理だ。

 暫くは、治療と炊き出しをしないとならないぞ。


「疲れました……」

「お疲れ様。想像以上だったらしいな」

「あれは酷すぎる」


 午前中の内に何とか移送と治療を終えたので、俺とレイアは王城の執務スペースにいた。

 炊き出しとかはまだ必要なので、スラタロウを中心としたメンバーが残っている。

 レイアも急遽治療班に加わっていたから、現場の酷さはよく分かっていた。


「せめて、数日は様子見ないといけません。今日聞けなかった名簿の事は、その後に聞くしかないですね」

「今は無理」

「暫くはサトー達にも手伝って貰わないとならんな。幸いにして、食料は十分にある。人神教国の様に、飢える事はないだろう」


 うちのメンバーは炊き出しを何回もやっているから慣れている。

 勿論配給もするけど、温かい食事とかも食べたいよな。

 タコヤキもいるし、うちに帰ったら皆に聞いてみよう。


「このくらいなら大丈夫だよ」

「初期の治療も終わってますし、後は炊き出しのときに行えは問題ないですよ」

「重症者も把握してますし、その人は個別に対応します」


 流石は炊き出し経験者の皆様。

 とっても頼もしい発言をしてくれている。

 炊き出しも暫くの間はタコヤキが専任でやってくれる。

 しかも、スライム軍団に料理の仕方を教えるという。

 後で、スラタロウとタコヤキの料理教室をやるそうだ。


 そんな話をしながらも、数日したらようやく状態が改善し始めてきた。

 少しずつ栄養状態が改善し、動ける人が増えてきた。

 そして名簿を再度整理し始めたら、とある職業と特記事項がある人が目についた。


「ライリー、確か孤児院にいたんだよね?」

「はい、そうです」


 今日帰ってきてからチナさんの部屋にいって、名簿の事でライリーにとあることを質問中。

 勿論、質問する事は宰相の許可を貰っていますよ。

 最近は、異世界も個人情報って煩いのです。


「今日人神教国から王国に来た人の名簿を作っていたら、孤児院で働いていた若い女性と三人の孤児院で暮らしていた子どもが出てきたんでね。念の為に確認っておもったの」

「もしかしたら、私がいた孤児院の人かもしれません。孤児院のお姉さんと、男の子二人に女の子一人です」

「ふむ、だったら間違いないかもな」


 名簿を見ているときに引っ掛かったんだよな。

 他の人に孤児院っていうキーワードはなかったし、恐らくそうかと思った。


「今はまだ王都にきたばっかりで治療でもあるから、あと一週間したら行ってみよう」

「はい、有難う御座います」

 

 やっぱり、今まで生活していた人に会うのは嬉しいだろうな。

 ライリーが、今までになく興奮している。

 ライリーはチナさんが保護して食事とかも気を使っているから、体の回復が思ったより早い。

 しかし、その孤児院の人は他の人と同じく対応しているので流石に特別扱いはできない。

 他にも孤児になった子がいるから、その子の事と纏めて対応だろう。

 

 チナさんの部屋を後にして、今度は収容所で保護した女性の所へ。


「段々と良くなってきたぞ」


 この女性は、毎日二回の俺のフルパワーでの治療に加えて、合間を見てマリリさん特製のポーションを飲んで貰っている。

 少しずつだけど良くなってきて、重湯が食べられる様になった。

 奇跡的に栄養失調による脳へのダメージが少なくて、俺の治療でどうにかなったのが大きい。

 

「うーん、ちょっと疲れた」

「お疲れ様、サトー」


 治療を終えて食堂で夕食を食べる前に伸びをしていると、エステルに声をかけられた。

 エステルと共に、リンとフローレンスも椅子に座ってきた。


「人神教国との戦いも終わったし、後始末も一ヶ月位あれば片付く。そうしたら、収穫祭を見ながらゆっくりしたいな」

「確かにずっと働き詰めだったからね。私もちょっと疲れたよ」

「ゆっくりしたい気持ちはわかります。体だけではなくて、心もリフレッシュしたいですね」

「温泉とかにゆっくりと入りたい気分です」


 紅茶を飲みながら、皆で話している。

 俺だけでなく皆もずっと動いていたから、少し休みたいという。

 前世の時よりも働いているのではという、錯覚に陥る時もある。

 最近はブレンド領にある温泉にも行ってないし、確かに温泉は良い案かもしれない。

 ドワーフ自治領の温泉でも良いし、少しゆっくりしたい。


「「「キャー!」」」

「ほら、待ちなさい」

「「「またないもーん」」」


 そんな事を思っていたら、廊下から元気な声が聞こえてきた。

 またマシュー君達が、お風呂上がりで素っ裸で走っているのだろう。

 アメリアの声が、ここまで響いている。


「子どもは元気だよな」

「そうだね」

「といいつつ、先日はエステルもマシュー君達を追いかけていたけど」

「しょうがないのよ。いつも走り回るのだから」

「あの子達は本当に元気ですよね」

「ちょっと羨ましいかも」


 と、エステル達が言っているが、まだあなた達も十五歳になっていないのですよと、ツッコミたくなったサトーだった。

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