第二百七十話 請願書

 カロリーナさんの通称シュガー事件も無事解決し、ブレンド子爵領へ出発三日前になった時にとある依頼がうちに持ち込まれた。

 

「こちらが請願書となります」


 仕事中に請願ということで、ザンディ子爵からとある書類が提出された。

 内容が内容なだけに、陛下と閣僚も参加しての会議になった。


「ザンディ子爵、この内容に偽りはないか?」

「誓って、偽りは御座いません」


 陛下がため息をつくが、他の面々も同様だった。

 内容は、ゲレーノ男爵領及びマンチェス子爵領にて火山灰の影響による肺病が多発していることである。

 既に領内では対処しきれないので、至急治療できる人の派遣の請願だ。

 ゲレーノ男爵及びマンチェス子爵の両者ともに肺病を発症しているので、代理でザンディ子爵が請願書を持ってきた。

 貴族主義の四領地の内、二領地で国に助けを求めたという事になる。


「サトー、至急なので現地に向かってくれ。ザンディ子爵も同行を命ずる」

「「承りました」」


 ここは機動力のあるうちの出番だ。

 ザンディ子爵はこの間話をしているし、知らない仲ではない。


「ザンディ子爵、サトー達が向かうと二領地の現状が国に知られるだろう。それは良いのか?」

「はい、我々はプライドのみの為に、半ば独立国家の様に振る舞ってきました。しかし、それでは民は救えません。領主が回復次第、国に大規模救助要請をする予定です」

「分かった。その覚悟があるなら、国も相応の対応をしよう」

  

 ザンディ子爵は、事実上の貴族主義の派閥から抜けると宣言した様なものだ。

 恐らくモートル伯爵もこの二領地も、同じく派閥を抜ける様なものだ。

 相当な覚悟もあるのだろう。


「それから、こちらは現在の復興助成金の使用状況です」

「何故、宝石や酒類がこんなにも多いのだ?」

「それは、助成金は全て王都のビンドン伯爵の懐に入っているからです。二重帳簿をつけております」

「告発と受け止めよう。こちらの件も調査する」


 そして復興助成金の不正使用の告発。

 金額が大きいので、裏付けには時間がかかるだろう。

 そして横領額も大きいので、罪状も重くなる。

 裏付け捜査が必要なので、時間はかかるという。


「サトー達の対応次第だが、直ぐに援助が必要な可能性がある。閣僚は直ぐに動けるように、準備を整えておくように」

「「「はっ」」」


 まずは治療してからだけど、援助する事を前提に動く事になる。

 会議は解散して、俺はザンディ子爵を連れてうちに帰った。


「あ、剛腕ビューティーさんのお父さんだ」


 うちにザンディ子爵と一緒に帰ると、子ども達がわらわらと集まってきた。

 皆ビューティーさんが大好きで、そのお父さんだからザンディ子爵も覚えていた。


「緊急の仕事が入った。パーティールームに集まろう」


 うちは人数が多いので、パーティールームに集まった。


「ブレンド山の噴火の影響を受けた、二領地の救助作戦を行なう事になった」

「火山灰による肺病を治すの」

「恐らく火山灰が積もっているから、火山灰の除去も行わないといけない」

「なので総力戦」

 

 俺とレイアが説明をすると、皆が頷いてくれた。


「揃えないといけないのは、火山灰を吸い込まないように口あては必須。火山灰を処理するのに、麻袋を大量に購入して、後はスコップとチリトリだな。場合によっては屋根の火山灰を取るから、ハシゴがあってもいいだろう」

「出来れば馬にも口あて作る。従魔にも」


 と、ここで方針が決まったところで、ザンディ子爵が立ち上がり深々と頭を下げてきた。


「皆様、本当に申し訳ないです。ですが、人々のためにどうかお力を貸してください」

「おじさん、大丈夫だよ。そのためにミケ達がいるんだから」

「久々の大仕事だね」

「ふふふ、腕がなるね」

「冒険者レイアにお任せ」


 どうにかしてほしいと、ザンディ子爵は切実に訴えてきた。

 子ども達は、久々の大仕事にやる気満々だ。

 先ずは、出かけるための準備だな。

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