第二百五十四話 不穏な気配

 結婚式の前日は、予定通りに獣人部隊への表彰式を行う。

 軍務卿を王都から連れてきて、そして何故だか俺も女装して式典に参加する事に。

 

「皆、準備中に済まない。少し怪しい情報を入手した」


 着替えも終わってこの後の流れを応接室で確認していた所、アルス王子が応接室に入ってきた。

 結婚式が明日なのに、怪しい情報って何だろう?


「どうも街の宿に、貴族主義の連中が宿泊している。ただ宿泊しているだけなら問題はないのだが」

「もしかして、ミケ達が捕まえたならず者に関係があると?」

「その可能性は高い。その貴族の下っ端の名前が出てきたからな」


 おいおいおい、またですかよ。

 本当にロクでもない事をするな。

 王妃様達も軍務卿もルキアさんも、他の人も皆呆れて物が言えない。


「アルス様、ルキア様。ビューティー様が至急お会いしたいといらしております。何でも貴族主義の事での事と言っております」

「分かった、通してくれ」

「もしかしたらビューティーさんが、何かを掴んだのかもしれませんね」


 応接室にビューティーさんを通すと、一緒に気の弱そうな中年男性が入ってきた。

 ビューティーさんも、少しバツの悪そうな感じだ。

 

「済まねえなアルス。こんな朝早くから来ちまって。オヤジがどうしてもアルスに話さないといけないことがあるってな」

「ザンディ卿、もしかしてモートル伯爵の事か?」

「はい、仰る通りになります」


 アルス王子は、やはりといった表情になった。

 恐らくこのモートル伯爵っていうのが、何かをしようとしているのだろう。

 ビューティーさんとお父さんのザンディ卿も、一緒に座って話をすることに。


「うちとモートル伯爵の所の繋がりだけど、あたしの母親がモートル伯爵出身なんだ。もうだいぶ前に死んじまったけどな」

「私は子爵ですので、上位貴族のモートル伯爵の言いなりになっていました。しかし、今回の事はどうしても見過ごせす、ここに馳せ参じました」

「成程、血縁関係もあって中々難しい話だな。いや、その英断に感謝しよう」


 上位貴族から嫁を迎えたので、その嫁が死んでも関係性は続くと。

 しかも貴族主義の連中はとにかく爵位にこだわるから、上下関係もあったと。

 ほぼ絶対服従みたいな感じではないか。


「モートル伯爵側の最終的な狙いは、アルス王子とブルーノ侯爵との婚約破談と娘をアルス王子へ嫁がせる事です」

「ほら、いたじゃん。あたしよりも頭がお花畑の女が」

「ジェマだろう。昔から過度なアピールをしてきてたな」


 何だか最近何処かで聞いた話だな。

 タヌキ侯爵が、エステルに息子をあてようとしたのと一緒だな。


「実は、そのジェマ様の妄想がかなり進行していまして、アルス王子が結婚しないのは私を迎えるためだといっておりまして」

「そして、今回アルスが結婚する事になったから、ジェマが自分は裏切られたと勝手に思っているわけなのさ」

「つまりは、モートル伯爵自身ではなくジェマが事件の犯人というわけなのか」

「実際にはジェマ様とジェマ様の母君になります。どうも娘の話を真に受けてしまった様で、モートル伯爵を振り切って行動している模様です」


 アホだ、アホ過ぎる。

 その娘も母親も頭がおかしすぎる。

 だけど、上位貴族の言うことは聞かないと行けないから、子分の貴族が色々と動いているわけか。


「となると、相手は色々な方法で式の妨害をしてくるはずだな」

「もしくは、この領の評判を落とす事をしてくるかと」

「ただ、現時点ではジェマを拘束することはできない。まだ嫌疑不十分だ」


 現時点ではならず者を捕まえるしか方法がないけど、他の方法で嫌がらせをしてくるかもしれない。


「アルス王子、早速タラちゃん達にジェマを監視するように伝えます」

「こちらも偵察を増やそう。巡回も強化するか」


 俺もアルス王子も、思わずため息をついた。

 完全に余計な手間になる。


「アルス、クラスメイトは来るんだろう?」

「来るぞ。ジェマ以外全員な」

「この事を話してもいいか? ジェマなら結婚式の妨害をしてくると、皆思ってるだろうし」

「問題ない。監視の目は複数あった方がいいな」

「よし。さっき何人かあったから、後で声をかけてくる」


 おお、この問題児以外はクラスメイトが揃うのか。

 ビューティーさんも、結婚式に出席できるか怪しかったけど。


「私も、それとなくジェマ様に情報を引き出してみます」

「いや、ザンディ卿は無理をしない方が良いだろう。保護の対象にしよう」

「過分なご配慮、恐れ入ります」


 さてさて、式典まで時間もないけど、ジェマは式典も妨害する可能性もある。

 エステル達と相談して、警備を強化するか。

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