第二百三十五話 白龍王の山への道のり一日目

 闇夜の水上ジェットコースターから一夜明け、今日は早朝から帝国に移動して旅が始まります。


「眠い……」

「眠いよ……」


 夜が明けて直ぐなので、いつもねぼすけなエステルとミケは相当眠そうだ。

 二人共、目をしばしばさせている。


「あまり寝られませんでした……」


 逆に緊張からなのか、ソフィー皇女はあまり寝ることができなかった様だ。

 まあ馬車に乗れば寝れるから、暫くは大丈夫。


「では、行ってきます」

「道中お気をつけて」


 フローレンスが見送りにきたが、こちらもだいぶ眠たそうだ。

 この後は、普段の起床時間まで寝ていてください。


「この道をひたすら進めば、王都に着きます」

「了解!」


 帝国港町にワープした後、街の外に出て馬車の支度をする。

 先ずは王都を目指せばいいというので、ひたすら道なりに進んでいく。

 幸いにも道案内の看板もあったので、迷うことはなさそうだ。

 ということで出発する。

 俺は騎士服を着て、御者をすることに。

 見た目は女性だけのグループなので、余計なトラブルに巻き込まれない様に気をつけないと。


 出発してから一時間。

 暫くは宿場町が続いていたが、段々と森の中に入っていった。

 休憩しようかと声をかけるために馬車の中を覗いたら、全員爆睡中。

 朝早かったからと割り切って、馬車を走らせる。


 更に一時間後。

 森を抜け、畑が街道の両サイドに広がっている。

 帝国でも麦が栽培されているが、王国よりも北にあるので収穫時期は少し遅めっぽい。

 朝食タイムにするのでちょっとした道の脇に馬車を停めるが、皆は未だに爆睡中。

 馬と顔を見合わせてどうするかと悩んだけど、一旦声をかけてみることにした。


「朝ご飯だよ」

「「「「ごはん!」」」」


 流石は食いしん坊バンザイ、眠気よりも食い気か。

 一発で全員起きたぞ。

 あ、リンとソフィー皇女が少し赤くなっている。

 気持ちは分かるが、お腹がグーグーなっているのは隠せていない。

 腹ペコさん達の為に、ちゃちゃっと朝食の支度。

 といっても、スラタロウが昨日の内に作ってくれたサンドイッチとフルーツに野菜ジュースを出すだけ。

 この間購入したポットの様な魔道具でお湯も作れるので、紅茶も出してみた。


「私、冒険者の食事は、軍の遠征で食べるような固いパンに干し肉を想像していました」

「大体の冒険者は、その発想で間違っていないよ。うちはちょっと特殊かな? なんていったってスラタロウがいるし、サトーも料理が得意だよ」


 ソフィー皇女にエステル、うちは特殊でもいいんです。

 美味しい朝食は、一日の元気の源です。

 育ち盛りなんだから、もりもり食べないと。


 ということで食事休憩も終わったので、再スタート。


「「グー、グー」」


 お腹いっぱいになったのか、馬車の中の皆さんは再び爆睡中。

 というか、毛布まで出してガチで寝ている。

 そんな中、ソフィー皇女だけが珍しそうに外の景色を眺めていた。


「やはり、普段見る光景と違いますか?」

「はい、殆ど城から出たことがないもので。恥ずかしながら、民の暮らしというものをあまり知らないのです」

 

 帝国では、皇族は殆ど城から出ないという。

 何でかは深く聞かなかったが、王国は王族も良く地方に行くというからだいぶスタイルが違う。

 国として何かあるのかもしれない。


「これからは、皇族も積極的に民と関わらないといけないと思います」

「そのためにも、今の状況を打破しないといけませんね」

「はい!」


 ソフィー皇女は少しヤル気を出してくれた。

 とってもいい傾向だ。


「「グー、グー」」


 うちのメンバーも、ソフィー皇女を見習ってほしい。


 昼食はソフィー皇女のリクエストで、冒険者メシを作ることに。

 近くに川もあって、休憩する分にもいいロケーションだ。

 薪の後始末が面倒くさいので、魔道具のコンロを使ってオーク肉のスライスを炒める。

 そこにタレを絡めて軽く味を馴染ませたら、パンを半分に切って野菜と一緒に挟む。

 本当に簡単な調理だ。


「おいしーい!」

「凄く美味しいです」


 皆、大絶賛。

 ソフィー皇女もかなり驚いている。

 ふふふ、実はオーク肉のスライスにかけたタレを、スラタロウと一緒に開発したのだ。

 野菜でもなんでも、かけて焼けば美味しくなる万能タレなのだ。

 その他もフルーツをカットしてお皿に並べただけだったり、飲み物も水だけだったりしたけど、ソフィー皇女は満足してくれた様だ。


「お、綺麗なネーチャンが沢山だな」

「美味そうな匂いもするな」

「ネーチャンよ、俺達の相手をしてくれるかな? ゲハハハ」


 少しゆっくりしていると、盗賊と思われる汚らしい馬鹿三人組が現れた。

 こちらは女性だけのグループだと思っているのか、かなりなめた態度だ。

 巡回をいつもしているのでこういった馬鹿には慣れているが、全くなれていないソフィー皇女はかなり怯えた表情だ。

 

「ヒヒーン」

「うん? 何だ?」

「邪魔だよ」

「あっちいけ」


 と、俺達と盗賊の間に馬が入り込んだ。

 馬は盗賊を睨むと、問答無用で盗賊を風魔法で吹き飛ばした。

 盗賊は、叫び声をあげる事もできなかった様だ。


 ヒューン、ボチャン。


 丁度川の所に落ちるように力を調節したのか、盗賊は綺麗な放物線を描いて川の真ん中にドボンと落ちた。

 盗賊はバチャバチャしながら何とか川岸にたどり着いたみたいだけど、だいぶ体力を使ったのかゼイゼイしながら再びこちらに来た。


「て、てめーらなめたことをしやがって」

「お、俺らを怒らすとただじゃおかないぞ」

「やってやる!」


 びしょ濡れになった盗賊はナイフを抜いて襲いかかってくるが、再び馬の風魔法で吹き飛ばされた。


 ヒューン、ボチャン。


 今度はこちら側ではなく対岸に近い方に吹き飛ばされたので、盗賊は何とか対岸にたどり着いたようだ。

 岸に上がっても、ゼーハーいって大の字になっている。

 あれでは、もう動くのは無理だな。


「弱かったね」

「ベリルが相手でも良かったかも」

「でも臭そうだったから、さわるのは嫌だな」


 うちのメンバーからも、盗賊の評価は散々なものだった。

 弱すぎるのもあるけど、汚らしいのが一番嫌だったらしい。

 俺も汚らしいのは嫌だな。


「ソフィー皇女、少し護身の為に魔法とかをやりましょう。やったことはありますか?」

「いえ、今までは護衛がついていましたので」

「なら丁度いいです。他のメンバーに色々教えて貰ましょう。細かい魔法属性を調べるのは、お屋敷に帰ってからにしましょう」

「是非覚えたいです。宜しくお願いします」


 ソフィー皇女の為でもあるけど、うちのメンバーが寝ない為でもある。

 ソフィー皇女には、護身の為にショートソードを持たせた。

 シンプルな鉄鉱石製だけどドラコとシラユキのウロコを混ぜてあるので、そんじょそこらの剣ではたちうちできないだろう。

 腕に着ける小型のバックラーも持たせた。勿論ドラコとシラユキのウロコ入りである。

 ちなみにドラコ達に勉強をやらせようとしたら何も持ってきていなかったので、急いでお屋敷に戻って課題を持ってきた。

 これでドラコ達も、道中寝ないで済むはず。

 そう思って馬車を走らせた。


「「「ただいま」」」

「お帰りなさいませ」


 夕方になったので、お屋敷にワープした。

 全行程の三分の一を進んだので、明日もこのくらいは行ってほしい。


「「お姉様、カッコいい!」」

「そうかな? 二人共ありがとう」


 オーウェン皇子とベラ皇女は、冒険者スタイルのソフィー皇女を見てはしゃいでいた。

 朝早かったから、出発の時は二人共寝ていて見ていなかった。

 休憩の時に王都の冒険者ギルドにいって冒険者登録をしてきたので、本物の冒険者にもなっている。

 冒険者スタイルなら、周りからも不審に思われない。

 ちなみにソフィー皇女は、水と聖の魔法属性を持っていた。

 なので、属性の相性も考えてショートソードもシラユキのウロコのみを使ったものに変更した。

 本来は海龍であるルシアのウロコを使ったほうがいいとは思うが、親方に発注したばかりだから出来上がるのはまだ先だ。

 ソフィー皇女は元々のセンスが良いのか、魔法と剣の基礎も直ぐに覚えた。

 三日あれば、それなりの使い手にはなりそうだ。

 ソフィー皇女も、今までと全く違うことを習うのが楽しいようで、ニコニコしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る