第二百十八話 帝国からの来賓

「帝国からのお客様?」

「そうだ。アルスとルキアの結婚式に、隣国から皇女が皇帝代理で来ることになる」


 実習生が帰って半月後。

 今日も宰相達と仕事をしていたら、陛下がやってきてとある報告をされた。

 一枚の手紙を持ってきて、帝国からの皇女がくると伝えてきた。

 王国と帝国は友好国なので、王国からも陛下の娘が嫁いでいたりしている。

 

「五日後に入国し、ビアンカの九歳の誕生パーティーにも参加してそのまま結婚式にも参加する」

「続けて行われるので、タイミング良かったですね」


 結婚式は一ヶ月後だが、ビアンカ殿下の誕生パーティーは十日後に行われる。

 誕生パーティーとはいえ王族なので沢山の有力者が集まる。

 そこで、後程我が家で親しい人だけで誕生会を行う予定だ。


「結婚式に参加するが、本音は視察だろう。最近発展している我が国の事も学びたいとも書かれている」

「特別な事はしていないので、可能な範囲でお見せすれば良さそうですね」


 魔法は併用しているけど、特段難しい事はしていないし人力もかなり使っている。

 この辺りは隠す必要もないから、帝国の人に公開しても何も問題はない。


「以前王国にも一度来ていて、エステルと同じ歳だ。不安だがエステルを暫く同伴させる」

「うーん、それは確かに不安です。リンにもお願いしておきます」


 最近特にぐーたらに拍車がかかっているエステルだから、一人ではとても不安だ。

 リンなら大丈夫だと思うので、帰ったら相談しよう。


「ソフィーだね。確か五年前に来た覚えがあるよ」


 帰宅して食堂にいたエステルに聞いたら、早速誰だか分かった。

 しかしエステルよ。何回も注意しているけど、最近つまみ食いしすぎではないかい?

 だいぶむっちりしてきたぞ。

 こちらの気持ちを全く気にしないエステルは、最近お気に入りのお煎餅を頬張りながら話を続けた。


「見た目は、お姫様って感じだね。ピンク色のふわふわの髪で、笑顔が可愛いっていうか。でも、頭は良かったな」

「私もお会いした事があります。学園に来たときにお話しましたが、とても朗らかな明るい印象でした」


 ここに、リンとフローレンスの二人も会話に参加してきた。

 会ったことがあるなら、こちらも対応がしやすい。

 二人にもサポートをお願いすると、快諾してくれた。


「あっ、フローラ様からエステルに手紙があったんだ」

「お母さんから? なんだろう?」


 手紙を見ているエステルの顔が、だんだんと青くなっていった。

 ガクガクブルブル震えていると思ったら、突然立ち上がった。


「私は二、三日旅に出る!」

「「「は?」」」


 突然何を言い出すかと思ったら、エステルは玄関に向かって走り出した。

 俺達も後を追ったら、玄関ホールで立ち止まっているエステルが。


「ふふふ、逃さないわよ」


 そこには、笑顔がとっても素敵なフローラ様が仁王立ちしていた。


「外国の要人と会うのだから、綺麗な姿でお会いしないとね」

「あわわわわ」


 ガシッとエステルの襟首をつかんだフローラ様は、俺達にニッコリ笑いかけた。

 

「エステルを王城でお預かりしますね。皇女がこられる前にはお返ししますから」

「どうぞどうぞ」


 そのままエステルは、フローラ様に引きずられながら馬車に乗せられた。

 きっと王城に着けば、フローラ様によるブートキャンプが行われるであろう。

 俺達はエステルが間違いなく痩せると信じて、遠ざかる馬車を見送っていた。

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