第二百十二話 大噴火
夜明けと共に活動開始。
できれば、今日中に全ての住民を運び出したい。
というのも、断続的に火山が噴火を続けているからだ。
ドラコの母親が言った大規模噴火まで、時間がないということになる。
街に行くと、かなりの人が救助されていた。
また、遺体も運ばれていたので、すかさずスラタロウが冷凍魔法で氷漬けにしてアイテムボックスに収納する。
赤龍も総動員で人々を運んでくれた。
因みにドラコの父親はドラコの母親に役に立たないと言われてしまい、ドワーフ自治領で留守番となった。
「温かいスープですよ!」
「沢山ありますから、順番に並んで下さい」
運び出した人も多くなったので、子ども達は炊き出しにまわっている。
カロリーナも侍従の実習生と共に、一生懸命に避難者のお世話をしていた。
どうも領地にいるときは教会の炊き出しなどに参加していたらしく、両親には呆れられていたそうだが住民には感謝されていたという。
住民の中には、カロリーナが助かっていて涙を流して喜んでいる人もいた。
カロリーナは、本人が思っているよりもとても住民に慕われているようだ。
午後になると、殆どの住民は運び出せた。
後は探索で僅かに残る人だけなので、救助部隊も規模を縮小する。
ドーン、ドーン。
うーん、火山の空振が凄いな。
ドラコの母親曰く、山体膨張しているので、いつ大規模噴火してもおかしくないという。
ポツリポツリと残っていた反応も、夕方までには全部救助できた。
念入りに検索をしても、何も見つからない。
念の為に子ども達を動員して辺りを見てもらっても、何も反応はなかった。
「ふう。ビアンカ殿下、ブレンド伯爵領の街から人々の救助が終わりました。遺体も、全て仮の安置所に安置し終えてます」
「流石にだいぶお疲れじゃな。今日はゆっくり休むと良い」
「そうします。この数日間、魔力フルに使ったので疲れました」
ニール子爵領の屋敷について、ビアンカ殿下に完了の報告を行った。
寝不足もあるので、本当にフラフラだ。
結局救助できたのは三千人程。
千人以上が死亡したらしいが、正直それくらいで済んで良かった。
このまま救助できずに火山が噴火したら、全員死亡していただろう。
「サトーさん、ニール子爵領の為に色々有難うございます」
「私からもお礼を言わせて下さい。住民を救助して頂き、有難うございます」
「結局エスメには、ここ数日任せっきりにしてしまったな。カロリーナも随分と住民に慕われていた様だし、思ったほど気にすることはないぞ」
少し穏やかな雰囲気が流れていたところに、ドラコの母親が血相を変えて入ってきた。
「大規模噴火が起きるぞ! 想定よりもかなり早い」
俺達は急いで屋敷の外に出た。
すると、遠く離れたニール子爵領まで爆音を響かせながら、火山が大噴火をおこした。
まるで映画の世界の様な光景だったが、目の前で起こった事だ。
特に避難してきた人は、噴煙を上げる火山をぼーっと見ていた。
本当に間一髪という所だった。
「街はどうなっているのだろう……」
「カロリーナ……」
カロリーナは街の状態が不安そうで、今にも泣き出しそうだ。
そんなカロリーナの肩を、そっとエスメが抱きしめていた。
「ここまでの大規模噴火では、噴火が落ち着くまで現地の調査はできませんね」
「噴火しきってしまえば大丈夫だと思うが、当分の間はどうしようもないじゃろう」
ということで、折角なので陛下や閣僚にもニール子爵領にきて貰いました。
「これでは、流石の龍でも空は飛べんのう」
「しかし、これだけの噴火となると、麓は厳しいですね」
「噴石や火山灰が積もると、土石流の可能性もあります」
「ただ、山からの大きな川は、貴族主義の領地に流れています」
「奴らは、あくまで救助要請したのはブレンド伯爵領だけだと言い切りやがったからな」
「後で救助要請をしてくるのが、目に見えていますね」
貴族主義の領地に救助に行くのは、正直嫌だなあ。
自分達でどうにかしてくれというのが本音だ。
とはいえ、住民の事を思うと心境は複雑だ。
「サトーが気に病むことはない。全てを救うのは正直不可能だ」
「その中で、これだけの救出をしたのだ。もっと誇って良い」
陛下と宰相が、俺の事を気にかけてくれた。
少しだけ気が晴れた感じがする。
「さて、現実的な話をしよう。この後噴火が落ち着いてからの話だが、現地視察を行わなければならない」
「だが、ブレンドの街は元々の火山性地震により甚大な被害をうけている。その上での噴火だ、人が住める状態ではないだろう」
「幸いにして、王都では防壁の間の造成工事が進んでいる。当面はそこに住んで貰うしかないだろう」
陛下や閣僚は、ブレンドの街はもう住めないと思っている。
俺も、断定はできないけど同じ考えだ。
住み慣れた街を離れるのは大変かと思うが、王都に行くしか方法がないな。
一部の地域住民はニール子爵領に繋がりがあるから、そこに住むことは可能だろう。
何れにせよ、噴火が落ち着かないと何もできないな。
俺は大噴火を続ける火山を見つめながら、早く災害が終息することを願うばかりだった。
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