第二百一話 実習生受け入れの話

「では、素振りから始めましょう」

「「「はい!」」」


 早朝のお屋敷のお庭では、子ども達が剣の練習をしている。

 始めて日が浅いが皆筋がいいので、基礎の次に実践練習も始めている。

 講師はリンとオリガで、マリリさんがタオルとかも準備している。

 因みに自ら子ども達に剣を教えると言っていたエステルは、未だにベットの中で夢の世界にいる。

 適材適所って何なんだろうと思いながら、朝食を取りに食堂に向かった。


「やっぱり朝は苦手……」

「もうギブアップ宣言かよ」


 朝は起きることができないとエステルが言ってきたけど、その内にこうなりそうな気がしていた。

 当面の間、子ども達の剣の訓練はリンとオリガとガルフに任せる事にしよう。

 皆も特にツッコむ事はなかった。


「にーに、抱っこして」

「はいはい、よいっしょ」


 コタローが抱っこしてと言ってきたので、膝上に乗せてやる。

 その様子を、マシュー君達がいいなという表情で見ていた。


「じゃあ、私がマシューを抱っこするかな?」

「いい」

「エーちゃんはこちょこちょするから」

「ねーねに抱っこしてもらう」

「がーん」


 あらら。事あるごとにかまうから、マシュー君達にも嫌われちゃった。

 ショックを受けてテーブルの上で伸びているエステルを、ショコラが慰めていた。

 その時、マルクが沢山の手紙を持ってきた。


「ご主人様、手紙が届いております」

「ありがとうございます。何々? 学園からの実習希望者一覧。何だこれ?」

  

 手紙は学園からで、中身は実習希望者と書いてあった。

 その言葉を聞いたエステルが、ムクッと起き上がった。


「おお、そんな季節か。懐かしいな」

「エステル、知っているの?」

「これでも学園生ですから。五年生は次年度からの現場実習に備えて、希望する派遣先に二ヶ月実習に通うの。私達六年生は、一年間現場で働いて配属先が決まるんだよ」


 へー、そんなシステムがあったんだ。

 中々面白いな。


「一年の十歳組から四年の十三歳組で基礎を学ぶの」

「懐かしいですね。クラス替えはないので、基本はずっと同じメンバーです」

「中には別のクラスになってしまう人もいますが、それはほんの一部ですわ」


 リンとフローレンスも会話に参加してきた。

 そっか、この二人も六年生か。

 ヘレーネ様とダニエル様も同じなんだ。

 ヘレーネ様は実家を手伝っていて、ダニエル様は王城勤務か。


「うん? 十人位リストに書いてあるけど。しかも担当が俺だけでなく、エステルやリンにミケやレイアも書いてある。フローレンスもあるな」

「既に実績を上げている六年生の元に実習に行くこともできるよ。ミケちゃんやレイアは爵位持ちだから、単純に派遣先に選ばれたんだね」


 うん、この辺は全く問題ない。皆実績持っているし、能力的にも問題ない。

 若干お寝坊さんが気になるが、些細な問題だろう。

 問題は次の紙だった。


「次の紙に、学園と軍務卿からの指名でシルとリーフの名前も載っている。さっきの人とは別に、五人が載っているぞ」

「そういえば、昨日の軍の帰りに何か言っていたぞ」

「見込みがある若者を送るから、鍛えてやってだってー」

「シルにリーフよ。そういうのは昨日の内に言いなさい」


 つまりは軍の関係者の内に数えられているから、一部の人の実習先に選ばれたと言うわけか。


「ふふふ、二ヶ月で屈強な戦士にしてやるのだ」

「腕がなるわねー。ぐふふふふー」


 あの、シルにリーフ。実習生をソルジャーにするわけではないのだから、程々にしなさい。

 笑い方がとってもいやらしいぞ。

 えっと、内訳を確認すると、文官志望が六人に侍従志望が四人。

 剣士志望が三人に魔法使い志望が二人と。

 結構な人数だな。


「侍従志望の子は、お屋敷の侍従用の部屋でいいかと。文官志望の子と軍関係子は、離れの部屋で良いと思います」

「フローレンス、貴族の子が多いけど狭い部屋で大丈夫?」

「いえ、殆どの実習生は相部屋が基本です。個室が割り当てられるなんて普通はありません」

「そうだよ。私も実習中はリンちゃんと相部屋だったよ」

「相部屋で文句を言うのは貴族主義の連中だけです。そいつらは実家を実習先にしていますよ」


 どうやら貴族の子だからといって、特段の配慮は不要だったらしい。

 それならうちでも全く問題ない。

 学園に返事を書いておこう。


「すまんな、沢山の実習生を受け入れさせて」

「いえ、それは大丈夫ですよ」


 レイアと共に王城に出勤すると、宰相が先程の実習の話をしてきた。


「実はあの三倍の希望者がいたから、悪いがこちらで選考させてもらった」

「え、そんなにいたんですか? 絞って頂いて有り難いです」

「他のも優秀なやつだから、バルガス公爵とかにも頼んでおいた。サトーは今や注目ナンバーワン貴族だから、この位の人数は仕方ないな」


 宰相に感謝しよう。

 俺ではきっと絞れずに全員採用してしまいそうだ。

 

「とはいえ、サトーの基本業務は変わらない。それに実習生がついて回る事になるな」

「分かりました。可能な限り、お屋敷でも色々教えていきます」

「レイアも頑張る」

「ははは、頑張ってくれ。レイア執務官に是非会いたいという人もいたな」


 レイアも二つ名を持っているし、立派な貴族当主だ。

 気になる人はいて当然だな。


「受け入れは一週間後になる。午後に学園から各派遣先に向かうから、直ぐに着くだろう」

「分かりました。部屋の準備を進めます」

「あと、フローレンスは不祥事があったが、これをこなせば卒業確定だ。本人には伏せておいてくれ」

「分かりました」


 フローレンスも色々実家に振り回されたけど、無事卒業してほしい。

 陰ながらサポートしていこう。

 

「文官は現地実習が多くなるけど、侍従はどうするんだ?」

「私とマリリさんとマルクさんで色々教えていきます。丁度子どもから高位の方まで、バランスよくおりますから」

「陛下も王妃様も、息抜きによく来るからな」


 うちに帰ってからフローレンスに侍従志望の教え方を聞いたら、全く問題ないと回答があった。

 色んな人がポンポンとくるから、侍従志望の子も良い訓練になりそうだ。

 スラタロウの料理教室も開く予定だという。

 因みに軍属の五人用のメニューをリーフに見せてもらったが、悪い内容ではなかった。

 だが、制御の腕輪を付けるのはキツイのではないかと思うよ。

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