第百七十九話 フローレンスへの沙汰

「ビアンカ殿下、体調は大丈夫ですか?」

「何とかといったところじゃ。たまに夢に出てくるがな」

「俺もそうですし、子ども達も夢に出てくるとの事です」


 最悪なゴミ屋敷騒動から一週間。

 王都でもゴミ屋敷騒動は広まっており、それが更に貴族主義の連中にダメージを与えていた。

 なにせ人神教国の魔獣すら楽に倒していた強者が、殆どノックアウトされていたのだから。

 俺も今まで相手した敵の中で、一番の強敵だと感じた。

 そんなこともあって国中からゴミ侯爵が率いる一派という認識になってしまい、続々と貴族主義の派閥から離脱者がでている。

 完全に自業自得といえるだろう。


「はあ。タヌキ侯爵の罪が増えてしまって、沙汰を言い渡すのが更に遅れてしまう」


 王城のいつもの控室で、陛下がため息をついていた。

 王都の屋敷の不正管理もあるが、一番の問題はネズミを大量に発生させたこと。疫病の元になるので、これだけでも死刑の対象になるという。

 現在レイア考案の殺虫薬草入りのネズミ駆除団子を下水に仕掛けたり、貴族には殺虫薬草を使うように指示をしている。

 そのために殺虫薬草の在庫が少なくなったので、ミケとタラちゃん達を中心にガンガン取ってもらっている。

 つまりタヌキ侯爵は、更に余計な仕事を増やしてくれた事になる。

 そのため、レイアだけでなくリンやララやリリも借り出されて政務を行っている。


「猫の手も借りたいとは、こういうことを言うんだろうな」

「確かに、何をやるにしても手が足りないですからね」

「貴族の中でも、継承権の無い優秀な子弟はどんどん採用して働いてもらっている。使い物にならないものが一斉に抜けたから、その分の予算は余っている。令嬢でも、活躍があれば叙爵のチャンスがあるな」


 貴族主義の連中が占めていたポストがごっそり無くなって、代わりに優秀な若者をあてる。

 更に市中からも、優秀な者を積極的に採用している。

 これから暫くすると、一気に国力が増しそうだ。


「ということで、貴族主義の連中への沙汰はまだだが、先に決まったことは言わないとならない」


 陛下が気を引き締めて話し始めた。

 現在控室には、俺とエステルにリンにビアンカ殿下がいる。

 陛下に王妃様達も部屋にいる。


「では、バーツ・フローレンスに沙汰を言い渡す」

「はい」


 そして沙汰を言い渡されるのが、フローレンスさん。

 というのも、自害の為に毒を飲んだのが不味かったからだ。

 毒は悪意のある人に渡れば、毒を使って大量殺人にもつながる。

 王城内で毒を持ち、自分にだが使ったという事実がある。

 毒を渡した父親に比べれば遥かに軽い罪にはなるが、それでも罪は罪ということ。

 その事について、フローレンスさんに沙汰が言い渡される。


「貴族籍の剥奪と、王城への十年立入禁止だな。過去には王城へ永久立入禁止もあったが、今回はそこまでではないと判断された」

「過分な御判断、恐れ入ります」


 フローレンスさんは平民扱いになり、毒を渡された王城内の有期立入禁止となった。

 未成年なので本来は親の監視下に置かれるが、親がもっと重罪を犯したので保護した俺の監視下になるという。


「ということで、サトーの専属メイドにでもなればよい。上級貴族のサトーには必要だろう」

「いや、専属でなくても普通にメイドをお願いしますよ」


 少しなら動ける様になっているので、マシュー君達の面倒を見てもらっている。

 ちゃんと雇用するしお金を払うつもりでいたら、フローレンスさんから反論された。


「私は言わば犯罪奴隷に近い立場になります。衣食住の保証がありますので、賃金は不要です」

「しかし、それではフローレンスさんが辛くないですか?」

「私は貴族籍を剥奪されました。どうかフローレンスとお呼びください。私はサトー様に命を助けて頂きました。叶うなら、生涯お世話をさせて頂きたく存じます」


 あの、その言い方だとエステルとリンが勘違いすると思うのですが。

 と思ったら、二人はもっとぶっ飛んだ発言をしてきた。


「フローレンスちゃんなら、サトーの専属になっても問題ないよ」

「というか、妾でも別にいいと思います」

「あの、二人共その発言は如何なものかと」


 俺は慌てていたが、二人は至って冷静だった。


「あのねサトー。自分は死ぬつもりだったのに、そこをサトーに救われたんだよ。しかも熱心に治療して看病までしてくれたら、サトーに惚れちゃったんだよ」

「何も知らない他人がいきなりサトーさんの元にくるのは嫌ですが、フローレンスさんは家族の事もありますし、知っている間柄なので」


 え、俺ってフローレンスに惚れられていた?

 フローレンスは顔を真っ赤にして俯いているし、陛下と王妃様は呆れている。


「やれやれ、相変わらず鈍感な癖して見事な女たらしじゃのう。これからエステルお姉様とリンが苦労しなければいいが」


 ビアンカ殿下まで呆れられた。

 うう、俺ってそこまで鈍感なのかよ。


「フローレンスは、ライズ伯爵家とリンドウ子爵家とサルビア男爵家のメイドさん。そしてサトーの妾、もしくは家族公認の愛人で」

「立場上結婚はできないと思いますが、家庭内では夫婦であればいいと思います」


 おう、エステルとリンに押し切られた。

 こういう時、女性は強いな。


「えーっと、フローレンス。こんな感じでいいか?」

「はい、宜しくお願いします!」


 フローレンスが承諾したから、この件はこれで終了。


「婚約段階で、既に二人に尻に敷かれているな。これから三人に敷かれるのか」


 陛下、綺麗に収まったんだから余計なことを言わない。

 ニヤニヤして俺の方を見るのはやめてほしい。


「フローレンス。あなたが実家の事に悩みながらも、一所懸命に働いていた事を、私達は感謝しています。毒を飲んだことで、過去のあなたは死にました。これからは新たなフローレンスとして、自分の道を歩んで下さい」

「サトーのところには良く行くから、これからも会えるわよ」

「ウィリアムもフローレンスの事を心配していたわ。今度あったら、安心させてあげてね」

「王妃様、フローラ様、ライラック様。今まで、本当にありがとうございます」


 王妃様達とフローレンスは、お互いに抱き合って泣いていた。

 真面目に働いていた事を、王妃様たちは高く評価していた。


「そういえば、明日母上達がスラタロウの作ったデザートを食べに行くと言っておったのう」


 ビアンカ殿下、綺麗に纏まったのだから余計なことをいわない。

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