第百七十一話 大きいネズミを捕獲

 暫くの間は午前中は書類をこなして、午後は市街地拡張とかの外での作業を行うことがルーティンになっていく。

 時折アルス王子やルキアさんにヘレーネ様の所に行って状況を聞いたり、王城から来る人を迎えたりしていた。

 新しく採用した騎士も順調に動き出し始めた頃、やはりというか外からゴレス侯爵領を徘徊しようとしていた大きなネズミをドラコが捕まえてきた。


「ふーっ、ふーっ」

「最初ドラコがネズミを捕まえたと聞いたときは、こんなにも大きいのは想像していなかったな」

「だよね。僕も見つけたときは驚いたよ」


 門番は何とか通過できたようだが、直ぐにドラコに見つかった様だ。

 拘束されて猿轡をされているので、全く身動きがとれない。

 マシューくん達もやってきて、悪い人だって指を指している。

 さて、この人をどうやって尋問しようか?

 そんなことを考えていたら、今日は王妃様が来ていた日だと思いだした。


「思ったよりもネズミが来るのが早かったわね」

「ネズミさん、私達とちょっとお話しましょうか」

「痛いことはしないわよ。痛いことわね、フフフ」

「フガー、フガー」


 面白そうな玩具を見つけた目をした王妃様達が、とある一室に侵入者を引きずり込んだ。

 俺とドラコは何も見なかったことにした。

 僅か十分後、スッキリとした表情の王妃様達と真っ白に燃え尽きた侵入者が出てきた。

 一体どんな事をしたか、俺とドラコは怖くて聞くことができなかった。

 

「やはり、この男はタヌキ侯爵の配下の貴族の家の者ね。ここの事を調べて報告するつもりだったみたい」

「ちょっとお話したら、素直に喋ってくれたわよ。食後のいい運動になったわ」

「私達が帰るときに一緒に連れて帰るから、処分はこちらに任せてね」


 あの、処分って。ライラック様の笑顔がとっても圧力あるので、俺は何も聞くことができない。

 ドラコは俺に捕まってブルブル震えている。

 ベリルも俺の足に捕まって震えているよ。

 そのまま王妃様達は帰るというので、王城に送りにいった。


「やっぱりタヌキの所の者だったか」

「正式な手続きを踏めば領内の視察は可能。コソコソやるというのが、いかにもタヌキらしいのう」

「きっとちゃんと手続きを取ることは、俺達に屈したと思っているんじゃないですか?」


 夕食時にエステル殿下とビアンカ殿下と話をしていたが、ちゃんと手続きを踏めば別に領内の視察は問題ないらしい。

 それを怠るのは、俺達を見下してい事に他ならないだろう。

 他のメンバーにもこの事を伝えておいたのだが……


「またですか……」

「いい加減しつこいのう」


 その後も一週間で三人位のペースで、大きなネズミが捕まっていった。

 今日は外務卿と内務卿がこちらにきていたが、あまりの頻度に驚いていた。


「ようやく人神教国と停戦協定の話し合いが始まったというのに、国内をこんなのがうろちょろしていたらたまらんな」

「やっと停戦協定が開始ですか」

「人神教国も人員が少なくなって、戦闘どころではないらしい。我が国で活動ができないのも大きいようだな」

「ただ停戦協定だから、まだ油断はできんのう」


 とはいえ、国同士の話し合いだから効力は大きいはず。

 外務卿とビアンカ殿下がまだ油断出来ないというが、これで俺も少しはゆっくりできるはずだと思うんだけどなあ。

 目の前のコイツらがいなければ。


「貴族主義の連中は焦っているのう。人事にもいいポストをよこせと口を出してきておる。まあ、実績も何もないので突っぱねておるがな」

「とはいえ、国の西側に多くの領地を持っているし、王都にも一定数はおる。その勢力は無視できん」

「先ずは仕事してから物を言えと言いたい」

「それは無理ね。学園でも貴族主義の連中は、成績が最悪だったもん」


 内務卿が呆れているが、貴族主義の連中は貴族は贅沢してなんぼという考えだから仕事ができないという。

 それに加えて、話に加わってきたエステル殿下が、奴らはそもそも勉強ができないという。

 エステル殿下からみても勉強できないって、どれだけアホなんだろう。

 口には出せないので、心の中だけにとどめておく。

 背後組織の解明もあるという事で、外務卿と内務卿が帰る時に侵入者を連れて帰っていった。


「奴らは一週間後に、ここで何かをしでかすらしい」

「一週間後って事は、貴族を謁見の間に集めたタイミングですか?」

「そうだ。既に複数の者が動いているらしい。だが、いくら国が誇る影とはいえ、ここまで情報が筒抜けなのはどうかと」


 宰相がゴレス侯爵領に来た時に、貴族主義の連中が何かを企んでいるという。

 奴らは隠れて行動しているらしいが、情報は筒抜けという。

 これがあえて堂々と行動していたら裏に何かあると勘ぐるが、そんなこともないらしい。

 貴族主義の連中は、頭が悪いのは本当の事らしい。


「あえて誘い込んで、捕まえた方が良さそうですね」

「わざと伝令は見過ごしてくれると助かる」

「成程、情報の矛盾をついて奴らを黙らせるというわけですね」


 こちらもわざと混乱をさせて、奴らの企みが成功したと見せかけておくことにしよう。

 

「ちなみに今回の謁見で、レイアに名誉爵位を授ける事になった」

「小さいけど、それだけの事はやっていますからね」

「既に複数の魔道具を考案し、ゴレス侯爵領の統治も手伝っている。勿論各地の防壁作りもある。普通の爵位でも問題はないが、あまりポンポンと継承可能な爵位を授けるとタヌキがうるさいのでな」


 レイアは草刈り機の魔道具や小型耕運機の魔道具に加えて、チェーンソー型の魔道具も考案した。

 他にも魔道具ギルドで実験中の物もあるらしく、王国の発展に寄与したと言うことでの名誉爵位になるという。

 既にゴレス侯爵領ではレイアの考案した魔道具が大活躍中で、想像以上に開発が進んでいる。

 ちなみに魔道具に負けじと、子ども達や従魔も魔法の練習を兼ねて開発のお手伝いをしている。

 アメリア様達やシルク様にクロエも手伝いをしているのでどんどんと開発が進み、既に畑や果樹園の分は植え付け可能になっている。

 住宅街や鉱山などはまだまだ時間がかかるが、普通の開発と比べたら驚異的なスピードだ。

 知り合いのところでもレイア考案の魔道具を使い始めていて、どこでも好評だという。

 魔道具ギルドも新たな販路が開けてウハウハらしく、わざわざゴレス侯爵領に支部を出して開発を兼ねて色々な魔道具のテストをしている。

 ここだとまだ未開の地があるし、思う存分テストが出来るらしい。

 しかしこの事に渋い顔をしているのが、例の貴族主義の連中。

 どうも女でエルフのレイアが考案した魔道具というのが気に入らないらしく、この魔道具に難癖をつけているようだ。

 本当にどうしようもないクズだよ。


 ということで、宰相を送ったあとに早速作戦会議をすることに。


「三日前にあえて馬車で王都に出発し、奴らの偵察部隊に確認させたら戻りましょう」

「ついでに、前日に軍も翌日は鉱山の開発の護衛としてわざと言わせておくのはどうでしょうか」

「当日はわざと兵を薄くして、住民にも知らせておいて教会に逃げるようにしておこう」

「そして奴らの連絡役がタヌキ達に報告したら、一網打尽というわけじゃな」

「軍務卿にも話をつけておいて、捕まえたら王都に送るようにするか」


 次々に意見が出てきたので、纏めて兵と街の代表とすり合わせをしておこう。

 ここでレイアが更に意見を言ってきた。


「明日新しい魔道具ができるから、それも仕掛ける」

「レイア、どうな魔道具だ?」

「えーと、こんな魔道具」


 レイアから魔道具の簡単な説明を受けたが、とても有効そうなのでこれも採用する。

 襲撃者対策はこれでいいとして、レイアの謁見用の服はどうしようと思ったが、実は用意されているという。


「女性用執務官服の謁見バージョンを用意しているらしい。当日は早めにくるようにと、宰相が言っておったぞ」

「ブカブカの可愛らしい姿が目に浮かぶなあ」

「それはそれで可愛らしいじゃのう」


 パーティードレスは皆必要だろうし、どこかで皆の分を用意しておこう。

 王城に何回も行くことになるだろうし、王都に行った際に王妃様に相談してみよう。

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