第百五十八話 甲斐性無しなサトー

 ペシペシ、ペシペシ。


「お兄ちゃん起きて」

「起きて起きて」

「パパ起きて」


 うーん、またもやララ達に朝早く起こされた。

 俺の上に乗って、ペシペシと顔を叩いている。

 しかもアメリア様の弟君も、ララ達と一緒になってペシペシ叩いてくる。

 これでは二度寝はできないな。

 俺は欠伸をしながら起き上がり、抱っこをせがんできたマシューくんを抱き上げてテントの外にでた。

 夜中に雨が降ったらしいので、辺りは雨露で地面や草が濡れていた。

 うーん、まだ朝早いから眠いなあ。

 

「お兄ちゃん、今日は何をやるの?」

「今日は、ヘレーネ様とかが住むあの建物の修理とかをやるよ。市場に行って必要なものを買ってこないと。ララ達はどうする?」

「お屋敷の前で炊き出しと治療をやるよ。マシューくんもお手伝いやるんだって」

「やるー!」


 まあ子どものお手伝いだから大した事はできないけど、お手伝いをすることに意味があるからやらせてあげよう。

 少々の怪我とかはすぐに治るし、エステル殿下やリンさんもいるから大丈夫だろう。


 ということで、朝食後に市場に行ったあとに工務店っぽい所に。


「そう言えば、私もサトー様の保護下なんですよね」

「と言っても、お手伝いとかはお願いしますが束縛するつもりはないんですよね」

「ワウ」


 買い物のお供はシルク様とフウ。

 エステル殿下がついていきたそうだったが、許可すると子ども達もついてきそうだったので遠慮してもらった。

 普段市場を見ることはないので、キョロキョロと辺りを見渡していた。

 

「気になりますか?」

「はい、中々見ることがなかったので」

「貴族令嬢に加えて寝たきりでしたから、それは仕方ないですよ」


 シルク様と話しながら買い物をする。

 お、珍しい食べ物とかあるな。少し買いだめをしておこう。

 こういうときにアイテムボックスがあると、いつでも好きなときに取り出せるから非常に助かる。

 食べ物にミケやララ達の服を選んで行くと、シルク様はとあるペンダントに目がいっていた。

 手作り感があって、中々可愛いものだ。


「気になりますか?」

「ええ、でもお金がありませんから」

「なら買ってあげますよ。すみません、これを頂けますか?」

「ハイハイ、あら可愛らしいお嬢さんね。直ぐにつけますか?」

「お願いします」


 露店のおばちゃんが、直ぐにシルク様にペンダントをつける。

 シンプルだけどよく似合っている。

 会計も済ませていると、おばちゃんがシルク様に話してきた。


「これは私が作ったもので、中々うまくいったんだよ」

「こんな凄いものを作られたんですか?」

「最近は気軽に作れるキットもあるからね。何だったら作ってみるかい?」

「はい、是非作ってみたいです」

「そうかい、そうかい。これがキットだよ。説明書もついているから、直ぐに作れるよ」

「じゃあ、これを三つ頂けますか?」

「毎度あり、これで素敵なネックレスを作ってね」

「はい、ありがとうございます」


 シルク様はニコニコしてキットを受け取ると、大事そうに胸に抱いていた。


「良いものが買えましたね」

「はい、買っていただきありがとうございます。時間を見つけてチャレンジしてみます」


 もしかしたらアクセサリー作りが趣味になったりして。

 そんな事を思いつつ、目的地の工務店に到着。

 事務所と作業場になっていて、作業場の中では沢山の職人が木材を切っていたり加工していた。

 とりあえず事務所に行ってみよう。

 

「いらっしゃいませ。どのような案件でしょうか」


 事務所の中に入ると、受付にいた女性が声をかけてきた。


「建物の屋根や廊下を補修する物はありますか? あと、外装を塗るペンキみたいなものがあると有り難いです」

「それではコチラなんかはどうでしょうか? 粘土を水に溶かして隙間に埋める物と、とある木の樹液を使ったものです。樹液は防水効果もありますから、セットで使うのがお勧めです」


 受付の女性がサンプルを出したが、中々に良いものだった。

 粘土がパテになって、樹液でコーティングか。理にかなっているな。


「外装を塗るペンキですと、このような色があります」

「沢山種類がありますね」

「建物の用途によって使い分けております」

「高級感を出したい場合は、どの色がお勧めですか?」

「こちらの重厚感のある色がお勧めです。下地を専用の溶液で塗って頂くと、更にペンキが長持ちします」


 受付の女性が勧めてくれたのは、グレーベースの色だ。これなら仮宿とはいえ、外観は問題ないな。

 

「ありがとうございます。お勧め頂いた物を三軒分頂けますか?」

「かしこまりました。ペンキは重量がありますが、どのように運ばれますか?」

「マジックバックがありますので大丈夫です」


 刷毛や予備の木材に、釘や金づちとのこぎりも購入してお会計。

 あ、ワックスとモップも必要だったからついでに購入。

 受付の女性は、突然の大商いにホクホク顔で見送ってくれた。

 ついでに、ペンキを塗るためのはしごを工具屋で幾つか購入。

 とりあえずやってみて、足りなかったら追加で買ってくればいいだろう。


 買い物をしてお屋敷に帰っても、まだお昼前だった。

 一軒屋の前に買ってきた材料を並べて午後の作業の準備をしていた所、いい笑顔をしたエステル殿下とリンさんが近づいてきた。

 何だかとっても怖いんですけど。


「サトー、何でシルクちゃんにネックレスを買ってあげたの?」

「それは、シルク様はお金持っていないからで……」

「他にもミケちゃんやララちゃん達にも、服とかを買っていたと」

「それは、えーっと」

「今から私達もデートです」

「お買い物に付き合って貰います」

「えー!」

 

 俺はエステル殿下とリンさんに無理矢理引っ張られて、デートの為に再度市場に逆戻りしていった。

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