第百五十五話 戦いの後に

 戦闘が終わってお屋敷に戻ると、ミケ達も戻ってきていた。

 森の方も無事に魔獣や魔物の討伐ができたらしい。


「ビアンカ殿下、お疲れさまです」

「うむ、まあ妾は何もしておらぬがな」

「お兄ちゃん、ビアンカお姉ちゃんのお母さん達凄かったよ! 魔法で森が無くなっちゃった」

「日々のストレス発散を兼ねておったのう。まあ周辺に被害はないから、心配無用じゃ」

「だからあんなにも清々しい笑顔なんですね。納得しました」


 王妃様がにこやかに紅茶を飲んでいるから何かあったと思ったけど、地形が変わる程のストレス発散をすればそりゃ気分爽快だよな。

 その代わりに、アルス王子とかが王妃様から離れてひそひそ話をしている。

 余程戦っていたときの母親が怖かったのか、王妃様達に視線を合わせていなかった。

 

「サトー様、この子達の事で相談が」 

「どうしたんですか、ルキアさん」

「実はこの子達、ゴレス侯爵とかのの孫だそうです」


 ルキアさんが連れてきたのは、ビアンカ殿下と同じ位の歳の女の子三人と、その子に抱かれたり手を繋がれている小さな男の子三人。

 確か魔獣から人に戻った中には、小さな子とかいたけど実の孫かよ。

 俺はその子らを連れて、陛下と内務卿の所に向かった。

 一体どんな扱いになるかな。

 特に女の子達は、思い詰めた暗い顔になっている。

 陛下のいるテーブルに行くと、相変わらずお菓子をもぐもぐ食べていた。

 あれだけ食べていて、よく太らないなあ。


「陛下、お食事中失礼します。魔獣から人に戻った中に、ゴレス侯爵やブラントン子爵にマルーノ男爵の孫がおりました」

「誠か、その子らだな。こんな小さい子どもまで巻き込むとは、酷いことだな」

「ええ、私も孫を持ちますので、心が痛みます」


 陛下は、こんな小さい子どもまで魔獣にされた事に憤っていた。

 内務卿も子どもが不憫に思っているのか、悲しい表情をしていた。

 すると、女の子達は男の子を抱いたまま急に膝をついて陛下に懇願してきた。


「この度は、ゴレス家が王国に迷惑をかけ申し訳ありません。私はどんな罰でも受けますから、どうかこの子の命だけでも」

「「お願いします」」


 ゴレス家の孫と思われる女の子が、とにかく小さい男の子を助けてくれと懇願していた。

 残りの女の子も同様で、土下座に近い格好で陛下に赦しを乞うていた。

 そして陛下を貫くもう一つの鋭い視線。

 王妃が、「分かっているだろうな」という無言の圧力をかけていた。

 陛下はため息を一つついて、話し始めた。


「表を上げよ。そなたらは保護された身であって、罰せられる身ではない」

「あなた達は裁判の結果が出るまでは行動の自由はありませんが、今のところ罰せられる対象ではありません。直ぐにどうこうするということはありませんので、その点はご安心を」

「どうせ、他の保護された人の帰還もしなければならない。当面の間、そなたらはライズ子爵の保護下に置くとしよう」


 陛下、俺に丸投げしてきたな。

 確かにこちらが落ち着いたらゴレス侯爵領に行かないとならないし、この子達を保護するのはやぶさかでないけど。

 

「儂らもそろそろ帰らないとならないが、軍務卿は明日夕方に軍がつくからそこまではいる。もう何もないとは思うが、何かあったらビアンカ経由で連絡をよこせばよいだろう」

「ここギース伯爵領にも本来は代官を置くべきだが、元々内務担当になる予定のダニエルに任せるとする。少し早いが、学園での成績も優秀だしそのまま仕事開始だな」

「というわけだ。ダニエルよ、お前は名実共にギース伯爵領を担当する立場になった。荷物は後で送るから、しっかりと頑張るように」

「はい、頑張ります」


 陛下も暇ではないので、この後閣僚と王妃様と共に送ることになる。

 ついでというか、元々内務担当で王城に勤務する予定だったダニエル様をギース伯爵領に出張扱いにしてくれた。

 優秀だというし、これで少しすればギース伯爵領の内政は持ち直すだろう。


 ちなみに閣僚が帰る際、レイアの事で少し揉めていた。


「ライズ卿、レイア嬢は凄い博識だな。是非内務担当に欲しい」

「いいや、そこは外務担当でしょう。小さいながら人神教国と渡り合った経験は貴重だ」

「そこは農商だろう。陛下が推し進める通商改革に、是非とも参画してほしい」

「いやいや、そこは付き合いの長い軍部だな。防壁の知識は、ビアンカ殿下も認めている」

「お主ら何を揉めておる。宰相配下の特別執務官にすれば、全て解決だろう」

「「「「それだ!」」」」


 軍務卿まで混ざってレイアの取り合いですか。

 というかレイアは博識とはいえ、まだ五歳だぞ。

 労働はまだ早すぎるでしょうが。

 俺は文句を心の中で叫んで、皆を王都に送っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る