第百五十二話 ブルーノ侯爵家騎士団の活躍

「見えてきましたね。俺の探索にも他に引っかからないですね」

「サファイアが空から見ていますが、他に魔物などは確認されません」


 街道の彼方から魔獣の一団が見えてきた。

 オリガさんに念の為にもう一度サファイアに偵察に行ってもらったけど、辺りに見えるのはこの集団だけらしい。

 俺の探索にも、前の集団以外は引っかからない。


「うーん、あそこにいるだけだね」

「また悪いお薬飲まされている人がいるよ」


 ララとリリが感じたのも当初の予定通り。

 なら、作戦の変更は無しでいこう。

 ルキアさんが部隊に激を飛ばし始めた。

 

「戦術は先日のランドルフ領での対応と変更はありません。敵もただ数が多いだけで、特殊な者は今回はいません。陛下が見ておられますが、私達はただやることを確実にやりましょう」

「「「おー!」」」


 獣人部隊も所定の位置についた。実戦を重ねているだけあって、以前と比較して遥かに動きがスムーズになっている。


「うんうん。あのおじちゃまと言っていたルキアが、あんなにも頼もしくなって。儂は嬉しいよ」

「アルス王子も婿入りしますし、ブルーノ侯爵領と周辺領地は暫く安泰ですね」


 姪っ子の成長を喜ぶ陛下と、ブルーノ侯爵領の安泰を喜ぶアイザック伯爵。

 ギース伯爵領の隣にしっかりとした大貴族がどんと構えていれば、アイザック伯爵にとっても安心と言えよう。

 ちなみに陛下とアイザック伯爵は、俺がアイテムボックスから出した机とイスに座っている。

 陛下は先程のフルーツの盛り合わせを再び食べている。

 最近良く食べる陛下の姿しか見ていないな。


「ララちゃん、準備はいい?」

「いつでもオッケーだよ、ルキアお姉ちゃん」


 ルキアさんとララの聖魔法の準備も万端の様だ。

 後は魔法障壁とかを使ってなければいいが、試しに俺が放った聖魔法はアッサリと効いてしまった。

 もうこれで大丈夫だな。


「陛下、こちらの準備が整いました」

「うむ、では戦闘を開始せよ」

「かしこまりました」


 ルキアさんが陛下に準備完了の報告をし、許可がでたので戦闘を開始する。


「ララちゃん、行くよ!」

「オッケーだよ」

「「えい!」」


 ルキアさんとララの聖魔法の合体魔法の光が、あたり一面を照らしていく。

 うん、うまく敵の集団に魔法がかかったようだ。

 魔獣の動きは悪くなり、人間に戻っている人も出ている。

 ルキアさんはタイミングを逃さず、獣人部隊に指示を出した。


「獣人部隊、出撃!」

「「「おう!」」」


 一緒に飛び出したララとリリにタラちゃん達と共に、獣人部隊が突撃する。

 獣人部隊は魔法班と連携を取り、人間に戻った人の救助を優先しつつ的確に魔獣を倒していく。


「人間に戻ったのを優先して運べ。別部隊は魔獣を連携して倒すように」

「アルケニーが人に戻ったのを端に寄せている。どんどん運ぶぞ」


 タラちゃん達もうまく連携をして、次々に人間に戻った人を後方に運び出している。

 治療班も、運ばれた人を素早く治療を開始した。

 

「ほう、これは中々のものじゃな」

「ええ、各部隊が絶妙なタイミングで連携をはかっています。動きもスムーズですし、何よりもルキア嬢の指示もとても良い」

「よくぞ短期間でここまでの部隊を作り上げた」

「全くです。軍も見習いたいです」


 ブルーノ侯爵家騎士団の動きの良さに、陛下とアイザック伯爵の評価もすこぶる良い。

 実戦を経験したのが非常に大きいのだろう。

 各班の連携がかなりスムーズだ。


「サトー様、お手数ですが治療のお手伝いをしていただけますか?」

「すぐ行きます」


 治療班から俺に声がかかった。

 急いで向かうと、人間に戻りきれていない人が何人かいた。

 俺が聖魔法で人間に戻りきれていない人に治療を行うと、直ぐに人間に戻っていった。

 全身を真っ黒なものがうずまいていたから、シルク様と同じく複数の薬を投薬されたのだろう。

 治療班もトリアージを行って、段階ごとに治療をわけているから効率がいい。

 トリアージについては、アイザック伯爵が熱心に治療班に質問をしていた。


「とー」

「やー」

「えーい」

「ウォン!」


 ララ達も次々に魔獣を倒していくが、メインは獣人部隊と分かっているので控え目に動いている。

 しかし人間に戻る人が多いな。

 二割近くいるから、救護班がてんやわんやだぞ。

 

「酷い、あんなにも無理矢理に魔獣にされておったとは」

「兵として動員するために、薬を飲まされたのでしょう。ゴレス侯爵の罪が、また増えていきますな」


 陛下とアイザック伯爵も、無理矢理魔獣にされた人が多くてビックリしていた。

 俺も魔獣にされた人の多さにビックリだよ。治療していると、小さな男の子や女の子までいるんだから。

 しかも高貴な服を着ている人もいるから、ゴレス侯爵達は身内も魔獣に変えやがったな。


 戦闘が始まって三十分ほど。

 魔獣は全て討伐されたようだ。

 俺の探索にも引っかからない。


「お兄ちゃん、もう終わっちゃったね」

「もう悪い人はいないし、直ぐに終わったからつまらない」

「国境にいたのと、同じ強さしかなかったな」

「ワフン」


 あっけなく戦闘が終わったから子ども達は暇そうだけど、俺は治療対象が多くて大忙しだよ。

 これは完全に予想外だ。

 

「周囲の探索を続けつつ、魔獣の後始末を。人に戻ったのが多いから、手分けして運ぶように」

「「「おう!」」」


 ルキアさんが後始末を指示して、陛下の所に向かっていった。

 その様子を、陛下もアイザック伯爵もニコニコ見ている。


「陛下、ほぼ戦闘が終了しました。怪我人を含め、救護班で対応した者は直ぐにギース伯爵領の屋敷へ運びます」

「うむ、見事な手際だった。よくぞここまで兵を鍛え上げたな」

「お褒めのお言葉を頂き、ありがたく存じます」

「引き続き監視を続けつつ、治療にあたろう」

「かしこまりました」


 ルキアさんは直ぐに部隊に戻ると、あれこれ指示を出した。

 俺もリアカーをいくつか出して、まとめて運べるようにする。

 治療を終えた人から、搬送が始まった。

 もう、ここはこれでおしまいだな。

 他の所はどうなっているかな?

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