第百三十一話 謁見

 謁見の場に向かう道中、俺は肝心な事に気がついた。


「アルス王子、謁見の場ではどのようにすればいいですか?」

「絨毯の切れ目の所で片膝をついて待っていれば良い。サトーは俺の仕草を真似すれば大丈夫だ。女性陣はエステルの真似だな」


 そうか、他に沢山の貴族はいないしさっきあった人が多いから、そこまでガチガチに緊張する必要もないか。

 女性陣も、エステル殿下を除いてホッと一安心していた。

 エステル殿下を除いて。


「お兄ちゃん、私そこまで儀礼に自信無いけど」

「王族が儀礼マナーできなくてどうするのだ」

「うう、そう言ったってマナーの授業嫌いだし」

「まあ父上と閣僚だけだし他の貴族はいないから、今回はそこまで気にしなくてもいいだろう」

「そっか、そうだよね!」

「ただし、エステルはマナーの勉強をやり直しだな。人神教国の件が片付いたら、特別レッスンを組み込んでおく」

「えー、何でー?」

「ルキアとリンはある程度できているからいいが、ミケとシルクは一から勉強しないといけない。どうせサトーは場をこなせば適当に覚えるだろうが、お前は昔から剣以外はとにかく駄目だからな。ミケとシルクと一緒に勉強だ」

「うー、お兄ちゃんの鬼!」


 微妙にエステル殿下が落ち込んだ所で、謁見の場に着いたようだ。

 重厚で様々な細工がしてある、一目で業物とわかる扉の前で待たされた。


「アルス王子殿下、エステル王女殿下、並びにサトー様のご到着!」


 呼び出しの人の声の後に扉が開き、アルス王子を先頭に謁見の場に入る。

 重厚そうな玉座に先程あった殿下が座っていて、その周りを宰相や他の閣僚と思われる人が固めている。

 若い男性が二人いるが、あれがアルス王子の二人の兄かな?


 玉座の五メートル程前になったところでアルス王子が止まり膝をついたので、俺達もアルス王子にならって膝をつき頭を垂れた。

 後ろでは、扉の閉じる音が響いた。


「一同、表を上げよ」


 陛下より声がかかったので、膝をついたまま顔を上げた。

 顔を上げた先にいたのは、威厳に満ちた陛下の姿だった。

 先程部屋のソファーにだらけて座り、お菓子を貪り食っていた人と同一人物とは到底思えないな。


「アルス、エステル、並びにサトーについては、この度各地の領地にて発生した難題に対して多大な功績を残した。その功績に対し褒賞を与える。宰相よ」

「はっ。アルス王子殿下エステル王女殿下においては、この度の功績に対し勲章を授ける」

「「謹んでお受けいたします」」

「なお、この場にはいないがビアンカ王女殿下においても同様に勲章を授けるものとする」


 宰相から褒賞の内容が発表された。

 アルス王子とエステル殿下は王族だから、新しい爵位ではなく勲章か。

 この辺は何か決まりでもあるのかな?


「続いて、サトーにはライズの姓と子爵の爵位を授けるものとする」

「謹んでお受けいたします」


 俺は新しい名字と爵位だけど、サトーも名字だから名字名字になっちゃうな。

 まあ、その辺は異世界だし気にしなくてもいいのかな。


「ミケにはリンドウの姓と男爵の爵位を授ける。なお、ミケは幼年であるため、バルガス家にバスク家並びに新設されたライズ家の保護下とする」

「ありがとうございます」


 あれ? ミケにも爵位って聞いたけど、一代限りの名誉爵位じゃないの?

 世襲可能な貴族家当主になっちゃったぞ。

 これは後で関係者に聞いてみよう。

 あとミケ、ありがとうございますはないんじゃないかな?


「バスク家のリンには、名誉男爵の爵位を授ける」

「謹んでお受けいたします」


 リンさんは名誉爵位だから、一代限りの爵位だけど、本当はリンさんが世襲可能な爵位でミケが名誉爵位の方が良いような気がする。


「またこの度の事件において、ブルーノ家並びにランドルフ家に不祥事があったことは痛恨の極みである。両家に対し罰を与えると共に当主交代を命ずる」


 ここで陛下がルキアさんとシルク様の件で話を始めた。

 二人共に事件に巻き込まれた立場だけど実家が事件を起こしたから、その責任を取らないといけない。

 中々複雑な事情だよな。

 ここで陛下から宰相へバトンタッチされた。


「まずブルーノ家については、夫人と嫡男の不祥事により現当主からルキアへ当主交代を命ずる。夫人と嫡男は貴族特権を剥奪し、ブルーノ家より強制的に離脱させる。また、十年分割にて国庫に罰金を納めよ」

「謹んでお受けいたします。この度の不祥事、誠に申し訳ありません」


 ルキアさんの所は、事前の打ち合わせ通りの内容だ。

 あのオークもどきの夫人と跡取りは、未だに牢屋でギャーギャー騒いでいるらしい。

 だが、二人が殺害した人の遺骨が見つかり、もう言い訳はできないという。

 夫人の愛人の執事諸共、非常識に珍しい公開裁判にかけられるそうだ。


「続いてランドルフ家に対する沙汰を言い伝える。裏で操られたとはいえ、反乱軍を組織したことは誠に持って許し難い行為である。更に当主、嫡男死亡により大きな混乱を招いた。ランドルフ家はシルクへ当主交代を命じ、伯爵から子爵へ降格とする。更に領地没収とする」

「多大なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません」

「なお、シルクは幼年であるため、ウェリン家にライズ家の保護下に置くものとする」

「ライズ家サトー、仔細承りました」


 シルク様の所も予定通りの内容だ。

 軍務卿の所と俺の所で保護下に置けば、人神教国の脅威から守れるし功績も溜まりやすい。

 シルク様には功績を積んで、早く伯爵に復帰してもらいたい。


「最後になるが、アルス王子殿下とブルーノ侯爵家当主ルキアの婚約を発表とする」


 宰相が最後に爆弾発表をした。

 え? アルス王子とルキアさんの婚約?

 一体いつの間にそんな事が決まっていたの?

 アルス王子とルキアさん以外は、みんなビックリした表情でアルス王子とルキアさんを見ていた。

 当のアルス王子とルキアさんは、何だかバツの悪そうな感じで俺達を見ていた。

 

「これにて謁見を終了とする」


 宰相の言葉で謁見が終わり、閣僚などは退出を始めていた。

 その間も俺達は、アルス王子とルキアさんの婚約に驚いてポカーンっとしていた。

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