第百十三話 敵襲

 次の日の朝、バスク領に行った馬の内の一頭がいつの間にか帰ってきていて、厩舎の中で寝ていた。

 どうも夜中のうちに帰ってきたらしい。

 一日で往復してくるなんて、新記録じゃないだろうか。

 きっと疲れているだろうから、飼い葉とかを準備しておいて午前中は寝かせてやろう。


 ブルーノ侯爵領からランドルフ伯爵領に向かう街道沿いに部隊を配置してから、アルス王子は使者をランドルフ伯爵に向かわせた。

 使者の伝えた内容が吉と出るか凶と出るか、ランドルフ伯爵側の判断が注目だ。

 今日は書類整理はトムさんに任せて、俺は一日城門の上から監視をする予定だ。

 バスク領に行ったドラコを除く子ども達と、アルス王子やエステル殿下にビアンカ殿下とリンさんも一緒だ。

 何かあったら直ぐに動けるようにしないと。


「お兄ちゃん、高いね」

「景色がいいな」

「遠くまで見えるよ」

「いいお天気」


 子ども達にとっては、城門に遊びにきた感覚だろう。

 天気もいいから、本来であればピクニックとかにピッタリなんだろう。

 ちなみに、ルキアさんとバルガス様にサリー様はお屋敷の中。軍務卿の奥様は、囚われていた子ども達と一緒にいる。


 使者がランドルフ伯爵領に向かって半日。馬に乗って行ったからもうそろそろつくだろう。

 おや、門の外にはいつの間にか起きてきた馬がいた。

 

「おーい、体調は大丈夫か?」

「ヒヒーン」


 どうやら大丈夫のようだ。

 しかし、何でここに馬がきているんだ?

 

「パパ、あれは?」

「うん、何だあれは」


 レイアが、ランドルフ伯爵領内から上がる煙に気がついたようだ。

 しかも一つ上がった煙に応答するかのように、複数の煙が上がっている。


「アルス王子、これはのろしですか?」

「間違いないな。恐らくバスク領に向かった軍務卿も、この煙に気がついているだろう」

 

 アルス王子と見解は一緒だ。

 既に城門の警戒を知らせる鐘が鳴らされ、街中でもそれに呼応するかの様に鐘が鳴らされている。

 街の人も慌ただしく動き始めた。

 昨日色々準備していて良かったよ。


「お兄ちゃん、あっちからなんか嫌なのが沢山くるよ」

「こっちに向かってくる」


 ララとリリが何か向かってくるのに気がついたようだ。

 俺の気配察知ではまだ敵を捉えていないから、この子らの気配察知は凄い性能だ。

 と、ここで屋敷からルキアさん達が駆けつけてきた。


「アルス王子、サトー様。何かあったのですか?」

「間違いなく敵襲だよ。この先の平原に既に部隊を配置している」

「まだ回答もきていないのにですか?」

「これが回答だろう。実に分かりやすい。複数箇所でのろしが上がったから、バスク領でも同じだろう」

「分かりました、直ぐに私も準備します」


 ルキアさんは準備をすると言っているが、既に冒険者の服装に着替えている。

 ララ達も避難させようと思ったら、さっきまでいた城門の上にいない。


「サトーさん。ミケちゃん達が城門から飛び降りて走っていきました」

「え、あっ本当だ。何やってるんだよ」

「馬も突然走り出したので、何かあったのでしょうか?」


 ルキアさんと話をしていたほんの短い間に、いつの間にか子ども達は動いていた。

 リンさんが説明してくれたけど、呆気に取られていた。

 でもあの子らは直感が優れているし、馬も動いたということは何かあったのだろう。よく見ると、シルも馬と並走している。

 俺も急いで城門から降りて、子ども達の後を追う。

 

「何かあった?」

「兵隊さんが危ない」

「危ない?」

「こっちからも何かくる」


 足が遅いレイアに追いついて話を聞くと、兵士が展開している所と城門の間にも何か反応があったらしい。

 奴らは、挟み撃ちにする気だな。

 急いで後ろを振り返って、大声で叫ぶ。


「こっちにも敵が来る。挟み撃ちされるぞ」

「分かりました。守備隊を連れていきます」


 ルキアさんが反応して兵を引き連れてこちらに走ってきた。

 と同時に、ミケ達が走っていった方向に大量の魔物が現れた。

 ゴブリンにオークの大群で、上位種も含まれている。

 三百匹はいるかと思われる大群で、物理的にこちらを押しつぶすつもりだ。


「やー」

「とー」

「えーい」


 気の抜ける掛け声だけど、ララとリリとレイアが現れた魔物を駆逐していく。

 

「ヒヒーン」

「雑魚は、いくら大量にいても雑魚だぞ」


 馬とシルが魔法障壁を展開して、魔物の中に突っ込んでいく。

 あっという間に、魔物の数が減っていく。

 部隊も前からくる敵にはまだ遭遇していなくて、挟み撃ちを仕掛けた魔物の対応に専念できた。


「おまたせしました。既に遅かったみたいですが」

「ルキアお姉ちゃん遅いよ」

「弱かったから、全部やっつけちゃった」

「リリも一杯倒したよ」

「弱すぎ」

「ははは」

 

 もう俺は笑うしかない。馬やシルも寝起きの運動にもならない位だったらしいし、この子らも更に強くなっていた。


「でも、勝手に走っていくとみんながビックリするよ。誰かに必ず一言言ってね」

「「「「ごめんなさい」」」」


 それでも勝手に行動したことは褒められないので、ルキアさんはみんなに諭しながら注意していた。

 子ども達もそれは自覚していたらしく、素直に謝っていた。


「ルキアお姉ちゃん、多分この後も奇襲あるよ」

「リリ達が防いであげる」

「レイアも」


 子ども達が奇襲があると言ったから、恐らくこの後も色々な所から攻撃はありそうだ。

 しかし、いくら強いとはいえララ達はまだ小さい。あまり前線には出したくないのが本音で、ルキアさんもそう思っている。

 ここで、兵士候補生の獣人の男が声をかけてきた。


「嬢ちゃんよ、魔物ってのは俺らでも倒せるか?」

「うーん、多分大丈夫だよ」

「さっきのブタとかだと思う」

「そうか、なら心配いらねえな。いくら強いとはいえ、こんな小さい子を前面に立たせちゃいけねえ。俺らの街は俺らの手で守らないと」

「「そうだ!」」

「じゃあ、タイミング教えてあげる」

「おう」

「後は、街の中も守った方がいいと思うよ」

「聞いたか! 市内巡回も強化だ!」

「おー!」


 これなら獣人部隊でも大丈夫だろう。部隊の士気も高そうだ。


「皆さん、よろしくおねがいします」

「ルキアの姉さんは総大将なんだ。どんと構えていればいいんですよ」

「ふふ、そうですか。ではランドルフ伯爵領の件が片付いたら、みんなでお祝いしましょう」

「「「やったぜ!」」」


 ルキアさんの提案に、獣人部隊だけでなく王都からの部隊も喜んでいた。

 これならもう大丈夫だろう。


「ルキアさんもお気をつけて」

「サトー様とミケちゃんもお気をつけて」

「ミケも頑張るよ」

「ララ達も頑張ってな」

「「「うん!」」」


 ルキアさんとララ達に見送られて、俺とミケはアルス王子の方に向っていく。

 もう少ししたら、俺達も出発だ。

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