第八十七話 制圧開始

 飛龍部隊が領主邸の庭に降り立った事で、他のメンバーも一気に行動を開始した。

 

「ようやくお兄様の到着か。エステルお姉様にミケよ、妾達も動くぞ」

「ようやくわたし達の出番か。退屈していたから、体を動かさないとね」

「よーし、ミケ頑張るよ」

「馬も馬車から離しておこう。これから何かあるか分からんのじゃ」


 ビアンカ殿下達の救出班は、早速領主邸に入り活動を開始した。

 

 城門では、小隊が近づいていることにようやく気がついた門番が急いで門を閉じようとしていた。

 そこにサファイアからのウォーターバレットが門番に炸裂し、次々と門番を吹き飛ばしていた。

 ポチが事前に門番達の武器庫にある武器を使えなくしていたが、それ以前のレベルで門番はダメダメだった。


「援護に感謝する。エステル殿下と行動を共にしている冒険者とお見受けする」

「はい、オリガと申します。門番は無力化しました。ワース商会とギルドと教会に案内します」

「それは心強い。一班は城門の制圧、二班は騎士待機場所の制圧、三班と四班でワース商会と領主邸に向かうぞ」

「「「はい!」」」

「ワース商会と領主邸には私が、教会にはこの青い鳥が、ギルドにはこのフクロウが案内をします」

「よし、ギルドの調査チームは俺に続け」

「教会騎士団も行くぞ」


 あっという間に城門の制圧に成功したので、小隊長の指揮を皮切りにそれぞれ担当毎に別れて行動を開始していた。


「オリガ殿、流石の腕前ですね」

「恐縮です」

「ところで街道の途中で魔物が討伐されていた場所がありましたが、何かご存知ですか?」

「我々の仲間が本日の午前中に対応しました」

「そうですか。みなさんお強いですね」


 ワース商会に向かう途中で、オリガは小隊長から街道の魔物退治の質問を受けていた。

 まさか馬が魔物退治をしたとは言えず、適当にごまかすオリガであった。


 ワース商会でも動きがあった。


「飛龍部隊が到着しましたね」

「となると、そろそろ部隊もこちらに着きそうです」

「その前に、このならずものをどうにかしないと」


 リンとマリリは飛龍部隊の到着を確認して、ワース商会に着いた。

 ワース商会の前にはならずものが五十人いて、ワース商会の護衛をしていた。

 だがならずものは武器は殆どもっていない。

 事前の武器無効化は効果的だった。


「ねーちゃん二人で俺らを相手にするのか?」

「俺等がたっぷり可愛がってやるよ」

「「「ゲハハハハ」」」


 それでもならずものは五十人いれば簡単に二人なんて倒せると思っているらしく、倒した後の事も考えて下品な笑みを浮かべた。


「よく吠えますね」

「まあ今の内ですから」


 あまりのバカさ加減にリンとマリリは呆れていたが、その二人の前に一匹の従魔が歩いていった。


「チュー」

「何だあのネズミは?」

「俺等とやりあおうって思っているな」

「ネズミのくせに見上げた根性だ」

「「「ガハハハ」」」


 ホワイトがならずものの前にたちはだかったが、見た目は小さなネズミだ。

 ならずものは、ホワイトを馬鹿にして大笑いだ。


「チュー!」


 ホワイトはそんなことはお構いなしに、ならずものに向かって風魔法を放った。


「うん? 今何かあったか?」

「さあ、魔法が失敗したんじゃ」

「まあネズミだからな」


 ならずものは何も起きないと思ってホワイトの魔法が失敗したと見ていたが、実際にはホワイトの魔法はちゃんと発動していた。


「チュー!」

「うわあ、何だこれは」

「服がボロボロだそ」


 再度ホワイトが風魔法を唱えると、五十人のならずものの服が細かくちぎれて、あっという間に全員がパンツ一丁に。

 最初の風魔法で下着を残して服だけ切り裂き、次の風魔法で切り刻んだ服を吹き飛ばした。

 これにはならずものも大慌てだ。


「チュー!」

「「「うわあ」」」


 トドメとばかりに、ホワイトは再度風魔法を唱えた。

 ならずものは次々とワース商会の壁にぶち当たり、あるものは上半身が壁に突き刺さり、あるものはワース商会の中に飛び込んで商品と一緒に転げていた。


「チュー」

「うわあ、ホワイトがエゲツない」

「くっ、ホワイトに美味しいところ全て持っていかれた」


 二人の感想はさておき、ホワイトによってならずものは無力化されたので、ならずものを縛りつつ囚われている違法奴隷の救出に向かった。


 さて、領主邸では飛龍部隊の到着に一部の人は慌てていた。

 そう、一部の人である。

 領主家族三人と、ギルド長と国教会と人神教会の司祭は完全に何がなんだか分かっていなかった。

 それ以外の街からの参加者は事前に話を聞いており、慌てず庭に避難して周囲を腕のあるもので守っていた。


 飛龍からアルス王子が降り立ち、庭からパーティー会場に入ってくる。

 護衛の騎士三人も周囲を固めている。


「おおお、お前は誰だ」


 余りの慌てぶりに声が震えている領主夫人は、何とか気力を振り絞りアルス王子を指さした。


「控えよ、近衛師団団長アルス王子殿下にあらせられるぞ」

「アルス王子?」


 護衛の人が領主夫人を制しアルス王子だと言ったのだが、領主夫人は理解できていないようだ。


「アルス王子? 王族? あああ、王族なら僕ちゃんをイジメたあの平民に厳罰を!」


 そして領主夫人はここにきても貴族主義を貫き、アルス王子に俺達を罰しろと言ってきた。

 この後に及んでめでたい神経だ。

 アルス王子は、そんな自分勝手な領主夫人に激怒した。

 おお、優しいイメージだったアルス王子を激怒させるとは、やはり領主夫人は大物だよ。

 ちなみにこれだけの騒ぎがあって、未だにバカ息子は失神していた。


「愚か者はお前たちだ。横領にサインの偽造、違法奴隷購入に虐待など、既に罪は明白である。大人しく縄に付け」

「そ、そんな……」


 領主夫人は、ヘナヘナと気力を失ったようだ。

 偽物領主やギルド長に国教会と人神教会の司祭を見て助けを求めたが、既にグルグル巻きにあって拘束されていた。

 俺はこの機会を逃さないよ。

 タラちゃんにこっそりと動いてもらい、やつらが気が付かないうちに糸でグルグル巻きにした。


「ルキア、前へ」

「はい、アルス王子」

「えぇ!」


 アルス王子に言われてルキアさんはウィッグを取り、アルス王子の横に着いた。

 領主夫人はルキアさんをみた瞬間に顔を真っ青にして、体をガクガク震えている。

 ルキアさんを見て、まるでオバケでもみたようだな。

 死んだと思っていた人が、実は生きていたわけだし。

 あ、とうとう領主夫人も失禁しちゃったぞ。


「領主夫人の立場にありながら、領主の血を継がない子を後継にするとは中々考えたな」

「あわわわ」

 

 もう領主夫人は言葉を発せなかった。

 アルス王子の言葉に、意味の分からない言葉で返している。


「くっ」


 ここで全くノーマークだった誕生パーティー司会の男が、床に何かを投げた。

 俺も視線と意識が領主夫人に向いていたから、動くのが遅くなった。

 すると床に魔法陣が現れて、何かが現れようとしていた。

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