第七十二話 子ども達の出立そしてブルーノ侯爵領へ

 ペシペシ、ペシペシ。

 うん? 誰かが頬を叩いているな。


 ペシペシ、ペシペシ。

 痛くないけどちょっとしつこい。

 分かったから起きるよ。


「うーん」

「「「あ」」」


 誰かに顔を叩かれたので眠気を何とか振り払って起きると、目の前に小さな顔のどアップが三つあった。

 昨日の夜はララもリリもレイアも俺と一緒に寝たいということで、ミケと共に一緒に寝ていた。

 ベットが大きくて助かったよ。

 どうも先に起きて、俺の顔を交互に叩いていたらしい。


「パパがパパだ。ママじゃない」

「「お姉ちゃんじゃない」」

「当たり前だよ……」


 三人は俺が男で安堵の表情を見せるが、寝て起きたら女性だったら俺はショックで寝込むぞ。

 はあ、昨日の女装の格好はそれ程インパクトがあったんだな。

 ちょうど、朝のトレーニングの準備のタイミングだ。今日はこの子らも見学させるか。

 

「俺はそろそろ着替えて外に行くから、みんなも外に行くか?」

「「「行くー!」」」


 ということで、着替えてトイレを済ませてからお屋敷の裏庭へ。

 ベリルは起きていたからついでに連れて行ったが、ミケを含めて他のメンツは熟睡中。

 どうせいつも通りに、訓練の直前になって来るのだろう。


「「お兄ちゃんは、ここで何やっているの?」」

「訓練しているんだよ」

「パパ、何の訓練?」

「うーん、メインは魔法だね」

「「「魔法!」」」


 あのメニューの内容がもはや訓練の枠に収まっているとは思わないが、確かに昨日の戦闘では役に立った。

 そして子ども達は、魔法というキーワードに飛びついてきた。


「ララ、魔法覚えたい!」

「リリも!」

「レイアも魔法使いたい」


 おお、目を輝かせてこっちを見ているぞ。

 基礎からなら大丈夫か。


「よし、じゃあ基礎から始めようか」

「「「はーい」」」

「じゃあ、先ずはララからだな。両手を前に出して」

「こう?」

「これから魔力を流すよ」

「おおお、なんか流れてきたよ。グルグル動くよ」

「そう、これが魔力だよ」

「凄い! これが魔力なんだ!」

「お兄ちゃん、リリもリリも」

「レイアもやって、パパ」

「はいはい、順番にやりますよ」


 先ずはララから魔力循環を行った。

 手を取って魔力を流し始めると、ララは最初は興奮した様で次第に感動し始めた。

 ララの様子を見てリリもレイアもやって欲しくなり、俺に抱きついてきた。

 リリとレイアにも順に魔力循環を流してやると、魔力の流れる感覚に喜んでいた。


「そういえば、ベリルは昨日魔力循環をやっていたな」

「ウォン」


 ベリルは昨日ホワイトから簡単な魔法の使い方を習っていた。

 それなら魔力循環も一緒に教えておこう。


「今感じた魔力を毎日体の中で循環させると、段々魔法が使える様になるよ。ブルーノ侯爵領から帰ってきたら、みんなに魔法を教えようかな」

「おー、ララ頑張るよ!」

「リリも、リリも」

「レイアも頑張る」

「ウォン」


 みんなやる気が出てきたのか、元気に返事をしていた。

 俺がいない間、これで少しでも気を紛らわせてくれればいいな。


 じぃー。


 はっ、後ろから何やら視線が。

 振り向くと、みんながこちらをニヤニヤと見ていた。


「魔力制御が一番下手っぴなサトーが、子どもに魔法を教えているよー」

「何だか微笑ましい雰囲気ですね」

「ふむ、慣れないながらも父親をこなしておるのう」

「まあ、悪いことではないのでいいのではないでしょうか?」


 くそう、好き勝手に色々言っているよ。

 特にリーフよ、俺も頑張って魔力制御を覚えているんだ。

 バスク領にきた時よりも上達しているんだぞ。

 

「ふむ、それなら今日は主人の訓練は張り切ってもらうんだぞ。折角だから良いところを見せるのだぞ」


 は? シルさん今なんて言った?

 訓練は普通で良いんだよ。いつも通りで。

 おい、昨日戦闘に参加しなかったタラちゃんやサファイア達が魔法発射の準備をしているぞ。


「じゃあ主人よ、頑張るのだぞ」

「ちょっとー!」


 急いで魔法障壁を展開する。

 直ぐに大量の魔法が飛んでくる。


「おお、これが魔法」

「リリもこんな魔法使いたい」

「レイアも出来るかな?」


 くそう、子ども達の視線はタラちゃん達が独り占めだ。

 よく見ると屋敷から他の子ども達も見学している。

 みんなタラちゃんとかを見て、俺は全く見ていないぞ。


「ゼエゼエゼエ……今日は軽めでも良いんじゃない?」

「訓練は常に全力だぞ。どうせブルーノ侯爵領ではまともな訓練出来ないのだぞ」


 もうね、暫くこういう訓練は結構です。


「タラちゃん凄い!」

「鳥さんが魔法はなったよ」

「凄い凄い」


 ララ達も屋敷で見ていた子ども達も、みんな揃ってタラちゃん達が魔法を放った所に集まっていた。

 タラちゃん達は、子ども達からまるでヒーローのような扱いだ。

 うう、俺も頑張って魔法防いでるんだよ。


「ははは、こればっかりはサトーもかなわないな」

「子どもは派手なのが好きですから……」


 子どもと一緒に様子を見に来たアルス王子だけ、俺を慰めてくれた。


 訓練が終わった所で、子ども達を王都に連れて行く部隊が到着した。

 部隊が色々準備している間に、昨日の夕食と一緒にみんなで朝食を取ることに。

 子ども達も随分と表情が明るくなってきて、昨日よりも調子は良さそうだ。

 この分なら、王都までの道のりも大丈夫だな。


 朝食が終わると、俺達はみんなで子ども達の荷物を部隊の馬車に積み込んだ。

 その横では、エーファ様とサーシャさんが、一人ひとり子どもを抱き締めていた。

 

「わたしも一度王都に戻る。飛龍に乗るから子ども達よりも早くつくな。王都で子ども達を迎えるとする」

「大変ですね、アルス王子」

「これも王家に生まれた者の宿命さ。いずれにせよ、サトー達にはブルーノ侯爵領で会うことになるだろう。道中は妹を頼んだぞ」

「はい」


 アルス王子は飛龍に乗って、先に王都に旅立った。

 また直ぐに会うだろうけど、今暫くの別れだ。

 小さくなっていく飛龍の姿を、みんなで見送った。


「バスク卿、我々もそろそろ王都に向け出発します」

「道中気をつけてな」

「はっ」


 部隊も王都に向かっていく。

 子ども達が乗った馬車がゆっくり発車すると、エーファ様やサーシャさんにミケとかは、馬車が小さく見えなくなるまで手を振り続けていた。

 無事に王都につきますように。

 そう祈るばかりだ。


「行ってしまったな。元気に育ってくれるのを願うばかりだ」

「ええ、私達が王都を訪れた際に会ってやりましょう」

「そうですよ、子ども達と永久に会えないわけではないのですから」

「ああ、必ず会ってやらんとな」


 テリー様とエーファ様とサーシャさんが、しみじみと子ども達の話をしていた。

 俺達も王都に行った時は、子ども達に会ってやらないと。


「さて、サトー殿もそろそろ向かうのか?」

「はい、早めについて宿とかを決めないといけませんし」

「そうか、いっぺんにみんな居なくなるから寂しいものもあるな」

「さっきまで賑やかでしたからね。俺等も早く帰ってこれるように頑張ります」

「うむ。ある意味この国の命運がかかっている。無事を祈るぞ」


 テリー様は俺の肩をポンポンと叩いてきた。

 俺もなかなか大変な事になってきたな。


「サトー様、道中お気をつけて。リンの事を宜しくお願いします」

「子ども達は責任持って預かります。無事のお帰りをお祈りします」

「エーファ様、サーシャさん。子ども達を宜しくお願いします」


 エーファ様とサーシャさんは、リンさんと話した後に俺に話しかけてきた。

 俺も無事に任務をこなして、子ども達の所に帰らないと。


「「「うー」」」


 子ども達は既に涙目だ。

 それでも泣くのを懸命に我慢している。

 俺は子ども達をギュッと抱きしめた。

 子ども達も思いっきり俺に抱きついた。


「お仕事終わらせたら直ぐに帰ってくるからね」

「「「……うん」」」

「「「何かあったら、お屋敷の人を頼るんだよ」」」

「「「……うん」」」

「「「魔法の勉強も頑張るんだよ」」」

「「「……うん、ぐす」」」

「「「じゃあ、行って来るよ。みんな元気でな」」」


 抱き締めていた腕を解くと、少し強めに頭を撫でてやった。

 ここに直ぐに帰ってきたいな。


「では、行ってきます」

「気をつけてな」

「「「いってらっしゃーい!」」」


 出発の挨拶をして、俺達の馬車はゆっくり発車した。

 子ども達は、俺達が見えなくなるまで手を振っていた。

 俺も子ども達が見えなくなるまで、手を振り返した。


 さあ、ブルーノ侯爵領へ行こう。

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