第六十九話 今後の方針と嫁候補

「サトーさんの事は置いといても、子ども達の顔が真っ赤ですよ」

「色々トラブルあってのぼせたんですよ」

「はあー、駄目なパパですね。食堂に連れていきますよ」

「……面目ない」


 マリリさんがミケとレイア、俺がララとリリを抱いて食堂に連れていく。

 食堂の椅子に子ども達を座らせて、マリリさんが用意してくれた水を飲ませる。

 タオルで汗を拭いていると、子ども達も段々と落ち着いてきた。

 子ども達が落ち着いてきた所で、マリリさんから質問が。


「サトーさんが付いていながら、一体何があったんですか?」

「俺達は何もやっていないんです。トラブルがあっちからやってきたんですよ」

「はあ? 何でトラブルの方からやってくるんですか?」

「俺も本当にそう思うよ……」


 マリリさんが訳がわからないといった顔で俺を見ていた所に、リンさんとエステル殿下が食堂に入ってきた。


「あっ……」

「あはは」

「どうも」


 お互い顔を見合わせて苦笑していた。

 うん、余計な事は言わないでおこう。

 しかしこういう時の子どもは素直というか、ある意味残酷だ。


「「あー、お風呂に入ってきたお姉ちゃんだ!」」

「なんですと?」

「「ちょっと!」」

「「モガモガ」」


 ララとリリが、リンさんとエステル殿下を指差してお風呂に入ってきた事を暴露してしまった。

 マリリさんは俺とリンさんを交互に見ているし、リンさんとエステル殿下は急いでララとリリの口をふさいでいた。


「はー、何かあったんですね。何が」

「うう、お母様の策略です」

「あはは、サトーはどちらかというと被害者だね」

「リンさんとエステル殿下も被害者ですよ」


 マリリさんは詳しくは聞かなかったけど、大体何があったのか把握したらしい。口に手をあててニマニマとした顔になった。

 今回はみんな被害者だな……

 ビアンカ殿下は平然としていたが。


「ビアンカ殿下は平常運転でしたね」

「まあ、それがビアンカちゃんだからね」

「妾がどうした?」


 エステル殿下とビアンカ殿下の事を話ししていたら、食堂に本人が入ってきた。

 アルス王子やテリー様も一緒だ。


「そこでお兄様とバスク卿とあってな、ちょうどこの後の事で話をとなったのじゃ。お主等が食堂にいると聞いて呼びに来たのじゃ」

「じゃあ直ぐに行きましょう」


 この後の方針で話し合いをするというので、テリー様の執務室に行くという。

 それなら俺も行かないと。


「わたしはお水を頂いて直ぐにいきます」

「あ、わたしも」


 リンさんとエステル殿下は、風呂上がりの水を飲んでから行くという。

 ここで子ども達からクレームが。


「「えー、お兄ちゃんどっか行っちゃうの?」」

「……パパと一緒にいたい」


 ララとリリとレイアから不満が上がった。

 落ち着いたとはいえ、流石に俺と離れるのは嫌らしい。


「ゴメンな、これからお仕事なんだ。先にお部屋に戻っていてね。ミケ、部屋に連れて行ってね」

「わかった!」

「「「ぅぅ……」」」


 三人は不満そうだか、こればっかりは仕方ない。

 ミケに任せているテリー達と一緒にに執務室に。

 俺が子ども達の相手をしていたので、リンさんとエステル殿下も結局は一緒に行くことに。


「サトー殿、さっそく懐かれてますな」

「何でかはわかりませんが、良く懐かれてます。良い子達ですよ」

「ははは、もう既にパパと言われてますな」

「うーん、親が恋しいから俺の事をパパって呼んでいるのでしょうね」


 テリー様と子どもたちとの事で雑談になった。

 父親としての経験はテリー様の方が圧倒的にあるので、色々話を聞くのもいいかもしれない。


「おまたせした」

「いえ、わたしも今来たところです」


 執務室に入ると、ルキアさんが既にソファーに座っていた。

 そしてしれっと給仕をしているサーシャさん。

 くそう、このメンバーの前では何も文句言えないぞ。

 俺もソファーに座るが、何故か両隣がリンさんとエステル殿下だ。

 おう、お風呂の事もあるからとっても気まずいぞ。

 平常心だ平常心。


「先ずは領主として礼を言わなくてはならない。バスク領始まって以来の未曾有の危機を回避できたのも、皆さんのお力があっての事だ。深く感謝する」


 テリー様から俺達への感謝から話が始まった。

 ワース商会の対応が終われば、難民問題は残っているにせよバスク領の問題は一段落だ。


「ここからはわたしが話そう。現在ワース商会からの顧客リストを元に、対象となる貴族を洗い出している。このリストだけを信用するわけにはいかないので、内偵をしたりと時間はかかるだろう」


 テリー様からアルス王子にバトンが渡り話が続いていく。

 確かにこの顧客リストだけでは全てを判断するわけには行かないだろう。

 証拠の裏付けが必要になるだろう。

 

「そうなると、ブルーノ侯爵とランドルフ伯爵が当面の相手となる。闇ギルドの件に加えて、難民からの話で税を誤魔化しているのはほぼ確定だ」


 やはり当初の目的通りに、ブルーノ侯爵とランドルフ伯爵がターゲットか。

 ここを何とか出来れば、闇ギルド問題も大きく前進するだろう。

 ってか前進してほしい。


「先にブルーノ侯爵だ。これには理由がある。一つは食糧と難民だ。ブルーノ侯爵領はこの国にとっての穀倉地帯でもある。早目に難民を領内に戻して農業を再開させる必要がある。もちろん周辺の領で受け入れている難民問題の解決もある」


 意外と大きな問題だぞ。

 オース商会でも食糧の問題があったし、難民問題とあわせて早目にどうにかしないと。

 食糧抑えられるのは国にとっても凄い痛手だ。


「もう一つがランドルフ伯爵側の問題だ。実は王都での尋問にランドルフ伯爵側が応じす、王都の屋敷から人も荷物も消え去っていた。例の闇の魔道士が絡んでいると思った方が良いだろう。領地に送った質問状にも返信がないのだ」


 やはり黒幕はランドルフ伯爵側なのだろう。

 これだけの証拠隠滅をするあたり、闇ギルドと通じていて間違いないだろう。


「ブルーノ侯爵側は嘘でも尋問に対応しているから、まだこの方が対応が楽だ。しかしながら、ランドルフ伯爵は一切の対応を拒否した。これは王国に対する反乱ともとらえられていて、思ったよりも問題が大きくなっている」


 あちゃー、もうこれではランドルフ伯爵はほぼ王国の意思に従わないと言っているに等しいじゃん。

 ブルーノ侯爵よりもかなり悪い状況だな。


「サトー達には引き継ぎブルーノ侯爵に行ってもらい、調査と対応の継続をお願いしたい。悪いがこれは依頼というべきより、国からの命令に近い。形としては命令を受けた王族の臨時従者だな」

「ほぼ拒否権はなさそうですね」

「すまんな。だが、今は少しでも手が欲しい。疑惑のある貴族が多くてあれらも内偵と尋問で手一杯だ。その代わりに報酬は期待していい」


 お金よりのんびりした時間の方がありがたいのだけどね。

 せっかくの子ども達とも仲良くなれたし。

 王族に絡んだ時点で諦めるべきなのかな……

 さっさと終わらせて、ゆっくりしたい。


「お兄ちゃん、わたしはどうするの?」

「エステルもサトーに同行だ。話が大きくなって、ビアンカ一人ではきついとの判断だ」

「まあ、妾としてはサトーがいればどうにかなると思っておるがの」

「ビアンカも、ここまで色々やってくれていたのにすまんな」

「こればかりは仕方ないのじゃ。エステルお姉様と連携してやるのじゃ」


 エステル殿下も旅に参加だと、持ち物とか色々精査が必要だぞ。

 馬車は、馬は大丈夫だけど馬車が狭くなるな。少し拡張しないと。


「エステルには別の件でも報告がある。ランドルフ伯爵側があんな状態なので、ランドルフ伯爵の嫡男との婚約はなしになった」

「えっ、それ本当に? 逆に嬉しいんだけど。貴族の義務じゃなかったら、あんなやつの嫁に行きたくなかったんだよね」

「あはは、ダイン様はある意味有名でしたね……」

「うむ、あやつは人間のクズじゃ」

「それはわたしも同感だ。エステルをあんなやつの嫁にするなんて想像もしたくない」


 エステル殿下が婚約破棄されて逆に喜ぶというのはどういう事だ?

 周りの人の評価がボロボロなんですけど。


「エステル殿下、そのダイン様ってどんな人ですか?」

「サトー、あんなやつクズムシでいいわよ。貴族主義をこじらせた最悪なやつで、その上に俺様性格だし。そのくせ頭悪いし剣も駄目。体型もデブで顔もオークみたいだよ」

「うむ、概ね間違ってはないのじゃ」

「否定出来ません。同じクラスでしたが、見るのも嫌でした」


 おう、エステル殿下に滅茶苦茶ダメ出しをくらって、更にビアンカ殿下とリンさんが否定しない。

 どんだけ駄目なやつなんだ? その元婚約者は。


「あーあ、どうせならサトーがお嫁に貰ってくれればいいのに……」

「そんな無理な話、俺に振らないで下さいよ」

「えー、いいじゃん」

「いや、それがそうでもないんだ」

「えっ?」


 エステル殿下が俺の嫁になると無茶振りをしてきたが、アルス王子がそうでもないと言ってきた。

 一体どういう事だ?


「このままサトーがランドルフ伯爵の件まで片付けると、その功績から最低でも法衣子爵に叙爵されるのは間違いないだろう。通常は伯爵以上に王女が降嫁するが、エステルはこの件で傷物になってしまったので、サトーへの褒美の一つとしてどうかと言うわけなのだ。もう関係者間と父上の間では既に確定済だ」

「はっ? 法衣子爵? 降嫁? 確定済?」

「おお、お兄ちゃんナイス! その案採用!」

「まあ、リンとの兼ね合いもあるけど、エステルが正妻でリンが側室が妥当だとという事で固まりつつある。ちなみにビアンカは婚約者いるからこの話には入らないぞ」

「わたしがサトーさんのお嫁さんに?」

「うんうん、リンちゃんも良かったね!」


 理論的にアルス王子から説明されたが、イマイチ頭が追いつかない。

 爵位もそうだが、いきなり二人も嫁に貰うのがほぼ確定とは。

 二人とも魅力的的な女性ではある。

 エステル殿下は喜んで、俺とリンさんを同時に抱きしめている。

 リンさんは信じられないという表情で、目にはうっすら涙を浮かべていた。

 てか関係者間で話がついているということは、既にテリー様とサーシャ様も?


「わたしとエーファにサーシャも先程この話を聞いたが、私達もサトー殿ならと賛成しておる。度々サトー殿の事を見ておったが、娘の旦那には申し分ない。後は無事に事件を解決することを願うばかりだ」

「母親からもサトーさんには娘をお願いしたいしたい所です。この話がなくても領の恩人ですので、リンのことをお願いするつもりでした。渡りに船ということでお願いすることにしましたのよ」

「お父様……お母様……」


 テリー様とサーシャさんからも娘をお願いすると言われて、リンさんは口を手でおおい号泣している。

 

「ともあれ、先ずはブルーノ侯爵への対応だ。目的は領主邸の制圧となる。ルキアの存在がポイントとなるので、ルキアは絶対に死なせてはならない。実権を掌握後に領内の整備と難民の帰還だ」

「よーし、やる気が出てきたぞ」

「ルキアさんは絶対に死なせません。ブルーノ侯爵領を平和にしましょう」

「おーおー、サトーの嫁はやる気が凄いの」


 アルス王子から今後の方針が出されたら、エステル殿下とリンさんが俄然やる気を出した。

 ビアンカ殿下が二人の事を茶化しているが、二人とも既に気にしていない。


「じゃが、妾達は既に闇ギルドに顔が知られてしまっておる。どうするか……」

「私も小さい頃を知っている人であれば、直ぐにわかってしまうかと」


 ビアンカ殿下とルキアさんから懸念が出ている。

 俺達は既に闇ギルドに顔が知られているし、ルキアさんも小さい頃からあまり容姿が変わってないという。

 何か敵の目を誤魔化す方法はないのかな?


「それなら変装してはどうですか? 髪の色や服装を変えるだけでも、分からないものですよ」

「ふむ、サーシャの意見が一番良いだろう」

「それが無難ですね。出来れば複数パターンあった方が、いざという時に役立ちそうです」

「サトーの意見は最もじゃ。サーシャよ、色々手伝ってくれんかのう」

「お任せください! 奥様も是非お誘いしますわ」


 サーシャさんのやる気が上がったのが心配だが、無難に変装することになった。

 複数パターンあれば、敵の目をあざむけるだろう。


「ふむ、こんな所か。基本方針はサトーとビアンカに任せる。無事にうまくいくことを期待しよう」

「お兄ちゃん、わたしは?」

「エステルは、サトーとビアンカの言うことをよく聞いて行動するんだぞ」

「それじゃ、わたしが脳筋って感じじゃない!」

「……」

「酷い! お兄ちゃん何か言ってよ。あーん、サトー。お兄ちゃんがイジメるよー」

「はいはい、俺はエステル殿下に期待してますよ」

「サトーはやっぱり優しいよー」

「エステルお姉様、イチャイチャも程々に」


 兄より脳筋扱いされたエステル殿下が俺に抱きついてきたので慰めてたら、ビアンカ殿下から冷たい目で見られた。

 普通に慰めていただけなんだけどなあ。

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