第六十六話 違法奴隷を救出

「お兄ちゃん、ミケもお手伝いする!」

「ミケ、ちょっと待て。お前は服が血まみれだ。生活魔法で綺麗にするからこっちにきなさい」

「はーい」


 ミケさん、子どもの救出をするお手伝いをするのはいいが、服装は気にしなさい。

 服が血まみれのミケを見て、救出済みの子どもが何人か怯えていたぞ。

 

 次々に救出されていく子どもを眺めているが、本当にワース商会は腐っているという思いが頭を駆け巡った。

 そして違法奴隷を買う貴族は、きっと人の皮を被った悪魔だと思いたい。

 そうでも思わなければ、頭の中で情報が整理できなかった。

 子ども達を見る限り、半数は十歳以上の様に見えるが小さい子もいる。

 あれ? 今リンさんが連れてきた子どもなんて赤ちゃんじゃないかな?


「サトー殿、私は親としてこの子達の境遇が不憫でならない。まだ両親に甘えていたい時期だろうし、赤ん坊もいる。この子らの親のことを思うと、領内でこの様な事態を招いてしまったことに、本当に申し訳なく思うよ」

「テリー様の責任ではないですよ。しかし、この子達の処遇をきちんとしてあげないといけませんね。それにまだまだ囚われている子どもがいるはずです」


 テリー様は、子ども達を見ながら唇を噛み締めていた。

 領主として領内でこんな事態になった事が、本当に悔しいのだろう。


「いずれにせよ、あの子ども達は速やかに保護しなければならない。先ほど父上に連絡し、直ぐに近衛騎士団を派遣してくれた。先ずは、ある程度大きな子どもを王都に送って王城で面倒を見る事になった。父上も、一人の親としてこの事態を招いた事を悔いていたよ」

「数人の子どもは、我が屋敷である程度大きくなるまで面倒を見ましょう。罪滅ぼしにもなりませんが、せめてそのくらいはあの子達にさせてください」


 アルス王子とテリー様が、沈んだ気持ちで語り合っていた。

 それ程、今回の事件の大きさをあらわしていた。

 ワース商会事件をこれ以上起こさないためにも、色々な対策が必要だろう。


「アルス殿下、父上、サトーさん。全ての子どもを救出しました。合計で三十名です」

「リンよ、辛い役目をさせてしまって申し訳なかったな。一旦屋敷で子ども達を保護しよう。大部屋なら子ども達も纏めて面倒を見れるし、メイドにちょうど子育て中の者がいるから乳を分けてもらおう」

「リストに子どもの名前があったが、それは急がなくて良い。先ずはゆっくり休ませる事が先決だ」

「うちの馬車なら直ぐに手配できます。馬をお屋敷へ向かわせます」

「うむ、私も一足先に屋敷に向かおう」


 リンさんが子ども達の救出が完了したと報告してくれたが、三十人も囚われていたのか。

 あの二人の子どももいるし、当分はドタバタしそうだ。

 オリガさんとガルフさんが、馬に乗ってお屋敷に向かう事になった。

 テリー様も一緒にお屋敷で準備をするという。

 その前に馬に生活魔法をかけてきれいにしておく。

 オーガを踏み潰して、馬も血まみれだよ。

 まあ、今日は大活躍だったからなあ。


 改めて子ども達を見回すと、助けられた時よりもだいぶ落ち着いてきたようだ。

 子ども同士でおしゃべりしていたり、ミケやリーフやタラちゃんと話している。

 ホワイトを抱きしめている子もいるな。

 うーん、人形とかもあった方が良さそうだ。

 赤ちゃんは、タラちゃん輸送用の予備のバスケットにピッタリのサイズだ。

 バスケットの中ですやすや眠っている。


 と、そこに馬が馬車をつけて戻ってきた。

 馬車が停まると、中からエーファ様とサーシャさんが飛び出してきた。

 そして子ども達を抱きしめて、涙を流している。

 きっと先に帰ったテリー様から色々聞いたのだろう。

 違法奴隷が最初に救出された二人だけかと思っていたら、まさかこんなに沢山いるなんて思ってもなかったのだろう。

 エーファ様とサーシャさんは、子ども達を一人一人抱きしめていた。

 特に赤ん坊を抱きしめた時は嗚咽を漏らしていた。

 エーファ様とサーシャさんには、母親としての気持ちもあるだろう。


「アルス殿下。この度は、我が領内でこの様な不祥事を起こしてしまい申し訳ありません」

「いや、これは王国としての責任です。バスク卿だけに責任を負わせるつもりは毛頭ありません」

「それでも、領主の妻として責任を感じております。主人が申しておりました通り、幼い子は大きくなるまで責任を持って養育いたします。今まで辛い思いをさせた分、せめて子ども達に未来がある様に大事に育てます」

「そこはバスク卿に頼ってしまう事になる。王国としても最大限の援助を約束しましょう」


 エーファ様がアルス王子に謝罪をしていた。

 アルス王子のいう通り、バスク領内だけの問題じゃない。

 せめて罪のない子ども達が、無事に大きく育つ事を祈るばかりだ。


「サトー様にも色々助けられました。この領にサトー様がいなければと思うと、ゾッとしました」

「朝の二人も含めて救出でき、本当によかったです」

「その二人がサトー様に会いたいと言っていますので、早く会ってあげてくださいね」


 エーファ様が、朝救出した二人が俺に会いたいと言っていた。

 そっか、あの二人も最初は泣きじゃくっていたけど、少し落ち着いたか。


 子ども達を順々に馬車に乗せていく。

 一緒にミケやリーフも乗って、子ども達を安心させてやる。

 エーファ様とサーシャさんも一緒に乗り、エーファ様は赤ちゃんが入ったバスケットを持っている。

 周囲を俺達で警戒し、万が一がない様にする。

 闇ギルドは本当に何をしでかすかわからない。


「アルス王子、一足先にお屋敷に戻ります」

「捜査はこちらに任せておけ。もう襲撃はないかと思うが、道中は子ども達を頼むぞ」

「はい、お任せください」


 アルス王子に挨拶をし、馬車はゆっくり発進した。

 馬も流石に雰囲気を呼んでか、慎重に進んでいく。

 馬車の中から賑やかな声が聞こえてくる。特にミケの声が大きいが、いったい何の話をしているのだろうか?


 商店街とお屋敷は距離も近いので、ゆっくり進んでもさほど時間がかからない。

 馬車は直ぐにお屋敷に到着した。

 お屋敷に到着するとメイドが待ち構えていて、次々に子どもたちを馬車から下ろしていく。

 どうやらそのままお風呂に連れて行くようだ。

 念の為に生活魔法を子どもたちにかけておいたが、お湯にゆっくり浸かるのも良いことだろう。

 赤ちゃんは別のメイドさんに運ばれていく。早速お乳をあげるみたいだ。

 馬車をマルクさんに預け俺もお屋敷に入ると、二人と一匹が飛び込んできた。


「「お兄ちゃん、おかえり!」」

「ただいま。寂しくなかった?」

「「うん、ワンちゃんと遊んでいたの!」」


 二人が抱きついていたので、俺からも抱きしめてやる。

 ベリルと遊んだのもあるが、だいぶ表情も明るくなった。

 笑顔を向けてくれるようになった。


「ベリルもありがとうな」

「ウォン!」


 ベリルの頭を撫でてやったら、尻尾がゆらゆら揺られてご機嫌になった。

 ベリルも小さいなりに頑張ったから、ちゃんと褒めてやらないとな。


「ははは、随分と懐かれましたな」

「テリー様。最初に助けたのもあるのでしょう」

「子ども達にとって、サトー殿はヒーローなのでしょうな」


 二人の子どもに抱きつかれている俺を見て、テリー様も笑っている。

 少しは気持ちに余裕がでてきたのだろう。


「さて、この後の調査はラルフも入るとする。どうもラルフが見ていた難民キャンプの方で、例の貴族主義の者が騒いだみたいでな。もちろん全員拘束してある」

「うーん、もしかしたら何かしらの指示を受けていたのかもしれないですね」

「その可能性はある。いずれにせよ、細かいことが分かるのはこれからだ」


 難民キャンプでやつらを別に隔離しておいて良かったよ。

 最初から怪しいと思っていたし。

 ワース商会で戦闘していたタイミングで難民キャンプでも蜂起されたら、それこそ本当に手に負えないだろうし。

 テリー様と話をしていたら、二人の子どもが俺の手を引っ張りながら話しかけてきた。


「「お兄ちゃん、お部屋でお話しよう!」」

「それはいいが、二人ともお風呂には入ったのか?」

「「まだ、お兄ちゃんと一緒に入る!」」

「分かった、じゃあみんながお風呂出るまでお兄ちゃんのお部屋でお話しようか?」

「「うん!」」


 何だろう、ここまで懐かれるようなことをしたっけ?


「はは、わたしはお邪魔なようなので退散しますか」

「テリー様すみません」


 テリー様にも気を使わせてしまった。

 取り敢えず、二人の子どもと一緒に部屋に向かっていく。

 しかし俺は、この時点ではこの後おきる展開を想像もしていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る