第六十四話 反撃

「「ヒヒーン!」」


 俺達の援軍に来たのは、馬二頭だった。

 二人の子どもと奥様ズをお屋敷に運んだ後、こちらに駆けつけたみたいだ。

 さっきの商会で鞭を打たれていた馬の事を思っているのか、また怒りが再燃している。

 そんな馬の前に押し寄せるオークの大群。

 その様子を見てビルゴが蔑んでいた。


「ははは、勇ましい馬だな。主人の危険に駆け寄ってきたとは、俺でも涙が出ちゃうなあ」


 馬はビルゴの事はお構い無しに、オークの群れに向かって突進し始めた。

 傍目から見れば玉砕覚悟の突進だろう。


「おーおー、主人の為にオークに怯まずに突進とは。主従の愛の美談だなあ」


 ビルゴはオークに突っ込んでいく馬を見てケラケラ笑っていたが、その表情があっという間に固まった。

 信じられない物を見ているような表情だ。

 そう、馬がオークを蹂躙し始めたのだ。

 そういえばバスク領についた時も、城壁を攻撃していたオークを蹴散らしていたよな。


 馬は魔法障壁を全面に展開し、身体強化も使ってオークの群れに突っ込んでいく。

 オークが次々に跳ね飛ばされて、宙を舞っている。

 オークの群れを突っ切った所で今度はUターンして、再度オークに突っ込んでいく。

 それを二往復した所で、馬はようやく止まった。

 百体いたオークがあっという間に駆逐された。

 そりゃ身体強化した上で魔法障壁まで張って突っ込んできたら、オーク如きじゃ止められないだろう。

 

「よし、今の内に守備を立て直せ。残ったオークを各個撃破せよ」

「おー!」


 流石テリー様、この隙をついて陣形を立て直した。

 残ったオークは少ないので、次々に騎士に駆逐されていく。

 あ、そういえば難民キャンプを作っている時にも馬は魔物を倒していたから、テリー様と騎士は馬の強さに気がついていたんだ。

 だから冷静に馬が通り抜ける道を確保していたのだな。

 ある意味テリー様と騎士のファインプレーだ。


 ザッ、ザッ、ザッ。


 そんな事は気にもしないで、こちらにゆっくり歩いてくる馬が二頭。

 闇の魔道士が雷撃を放つが、魔法障壁で弾いている。

 お前達、どんだけ強くなっているんだよ。

 こっちにくる馬二頭の背景に、タ○ミ○ータの音楽が流れてそうだ。


「何だよあの馬は。あんなのいるの聞いてないぞ」

「ははは、あっという間に状況が逆転したな」

「うるさい!」


 おーおー、イレギュラーの存在でビルゴは相当慌てている。

 そりゃバスク領にいく時から仲間になったし、魔法使える様になったのも道中の話だったから、ビルゴ含め闇ギルドはこの馬の存在は知らないだろう。

 魔法を使う馬なんて普通いないし、完全に想定外だったのだろう。

 だけど正直な話、俺も助かった。

 防戦だったから、馬の存在をすっかり忘れていたよ。


「サトーさん、助太刀に入ります」

「ビルゴ、もう許さない」

「許すまじ」


 リンさんもこっちにきてくれた。

 よし、俺も一手を打とう。


「リンさん、オリガさん。俺が相手している魔獣を何とか引き止めてください。ガルフさんとマリリさんは、アルス王子の補助に。マルクさんはスラタロウと一緒に補助にまわってください」

「「「了解」」」

「馬はミケとビアンカ殿下の所に分かれて配置を」

「「ヒヒーン」」


 攻め手が増えたので、魔獣とオーガに対しても守勢から攻勢になった。

 いくら皮膚が厚くても、ずっと攻撃を受けていて無傷ではいられない。

 魔獣もオーガも徐々に出血が多くなってきた。

 それと同時に、どうも動きが鈍くなってきている。

 これはもしかしてだけど、何かの効能が切れてきた?


「ビルゴ、オーガと魔獣の動きが悪くなってきた。そろそろ打ち止めか?」

「くそ、思ったより戦闘が長引いたか。ここまで時間が持たないとは」


 思った通りだ。

 カマをかけた形だけど、ビルゴはあっさり正解を喋っていた。

 あちら側も相当余裕がないみたいだな。

 ここで一気に蹴りをつけよう。

 刀に一気に魔力を流して強化する。

 ぶっつけ本番だけど、できると信じよう。


「はぁー、くらえ!」

「!」

「何? くそ、これが狙いか!」


 俺は一気に駆け寄り、強化した刀を振り下ろした。

 闇の魔道士を相手に。

 いくつもの魔法障壁を切り裂いた感覚があった。

 どこからかパリンパリンと音が聞こえた。

 よし、全体に展開された魔法障壁が破壊できたぞ。


「リーフ、タコヤキ。闇の魔道士に魔法の飽和攻撃。魔法障壁を再展開させるな」

「よーし、今度はこちらが反撃だよー」


 リーフとタコヤキの魔法の並列稼働による同時攻撃で、闇の魔道士は防戦一方だ。

 闇の魔道士を引き剥がしたら、もうこっちのものだ。

 ちなみに、この魔力飽和攻撃にスラタロウとマルクさんは参加していない。

 マルクさんは念の為に控えてもらっていたが、スラタロウには別の目的がある。

 ビアンカ殿下と目があって、指示を出した。


「ビアンカ殿下!」

「流石はサトーじゃ、あえてスラタロウに魔力飽和攻撃をさせぬとは。みな、離れるが良い。再度のトリプルサンダーウォールじゃ」


 どーん。


「「「「グガアア!」」」」

「しまった、直撃か」


 攻撃陣が素早く退避した所で、ビアンカ殿下とフランソワとスラタロウが最初に防がれてしまったサンダーウォールを再度放った。

 今度は防がれる事もなく、オーガと魔獣を直撃した。

 直撃を受けたオーガと魔獣は、なすすべなく叫んでいる。

 これには流石にビルゴもどうしようもない。

 しかしながら一度防がれたとは言え、とんでもない威力だな。

 ビルゴも闇の魔道士も完全にお手上げ状態になっている。

 あ、そうだ。この隙にもう一つ手を打っておこう。


「ポチ、この内容の対応できる?」

「問題ありません。直ぐに行動します」

「よろしく!」


 ポチに素早く指示を出して、こっそり照会に向かわせる。

 さて、こちらも終わりにしよう。


「ヒヒーン!」

「お馬さんナイス! 必殺ネコネコハンマー!」


 まず一体のオークに向かって、馬が後ろから蹴りをくらわす。

 オークの体勢が崩れた所で、ミケが飛び上がって思いっきりバトルハンマーをオーガの頭に叩き込んだ

 うわあ、オーガの頭が潰れたトマトみたいになっちゃったよ。

 ミケが血まみれで笑顔なのがとっても怖い。


「これで動きを封じます」

「ナイスですルキアさん。はあ!」

「ヒヒーン!」


 オーガのもう一頭も倒し切った様だ。

 ルキアさんが魔法剣の柄を使った両鞭でオーガを縛り、エステル殿下がオーガの足を攻撃して地面に倒す。

 そこをもう一頭の馬が両前足を高く上げたら、オーガの頭に向けて一気に踏みつけた。

 あちゃー、このオーガも頭がグチャってなったよ。

 おい馬! もう一回オークの頭を踏みつけない!

 ルキアさんもエステル殿下もドン引きだよ。


「フランソワ、魔獣を糸で拘束だ」

「了解、マスター」

「ビアンカ、ナイスだ!」


 ビアンカ殿下がフランソワに命じて魔獣を拘束し、アルス王子が一気に魔獣の首を切断した。

 電撃のダメージもあったのか、魔獣もだいぶ動きが悪くなっている。


「リン様、今です」

「これで止めです」


 魔獣のもう一頭も、攻撃をオリガさんが受け止めて、その隙にリンさんが魔法剣で魔獣の胸を突き刺した。

 魔獣はそのまま生命活動をやめ、後ろに倒れ込んだ。


「よーし、オークも全て討伐したぞ。残存がいないか確認をしろ」


 後ろではテリー様の声が聞こえた。

 無事オークも退治でき、撃ち漏らしがいないか確認に入った。

 周囲を警戒するが、前のビルゴと闇の魔道士以外の気になる気配はない。

 どうやら魔物を掃討しきった様だ。

 俺達の勝利だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る