第四十二話 難民キャンプを整備しよう

「スラタロウ……起きてくれ……」


 毛布にくるまって寝ているスラタロウ達を起こす。

 スラタロウは未だ眠そうな目をしていたが、馬車の中の惨状に気がついて一気に目が覚めたようだ。

 特にタコヤキとサファイヤは、お互いの主人の状態に驚いている。

 オリガさんは未だに固まったまま、マリリさんに至っては人様にお見せ出来る姿ではない。


「スラタロウ……みんなに回復魔法を……」


 スラタロウは急いでエリアヒールをかけた。オリガさんとマリリさんには追加で聖魔法をかける。

 ……でもオリガさんもマリリさんもピクリとも動かない。


「ふう、何とか動ける様になった」

「そうじゃのう。妾は初めて飛竜に乗った時を思い出した」

「流石に命の危険を感じましたわ」

「ミケ様と馬には注意をしないといけませんわ」


 何とか動けるようになったけど、みんな流石に命の危険を感じたようだ。

 珍しくルキアさんがお冠だ。

 うん、ミケと馬を怒る事はルキアさんに任せよう。


「とりあえず、マリリさんを介抱しないと。先ずは生活魔法で清潔にして、後はタコヤキに綺麗にしてもらおう」

「私は守備兵に話をしてきます」

「妾はリンと一緒に行くかのう」


 分担を決めてそれぞれ動く。

 ルキアさんは……見た目笑顔のままミケと馬の方に向かって行く。

 ミケと馬は未だこっちに気がついていないけど、シルはルキアさんの怒気に気がついたみたいでしれっとこっちにきている。

 先ずはマリリさんを生活魔法で綺麗にする。

 タコヤキは既にマリリさんを綺麗にしてくれているようだ。

 うーん、完全に失神しているなあ。これは安静にしないとダメだ。

 続いてオリガさんは……、うん手綱を持ったまま失神している。

 オリガさんが座っていたあたりが濡れていたので、生活魔法で綺麗にする。

 どうして濡れたかはオリガさんの尊厳に関わるので言わないでおこう。


「ミケ様、あんなに無理に飛ばすことはなかったんですよ。お馬さんもです、調子に乗ってあんなにスピード出すなんて。オリガ様とマリリ様が失神してしまったではないですか。もし馬車が壊れたり街道に人がいたらどうするのですか」

「ごめんなさい……」

「「ヒヒーン……」」


 うお、ルキアさん激おこだ。普段大人しい印象が強い分、怒ると迫力が物凄い。

 流石にミケと馬も状況を理解したのか、怒られてシュンとしている。


「主人よ、オークは全て倒したぞ」

「ああ、うん。ありがとうシル」


 シルさん。あなたはちゃっかりしていますね……


「これはこれはリン様ではないですか。バルガス領からお早いお戻りですが何かございましたか?」

「守備隊長、私達は難民の件でここに戻ってきました。そうしたらオークが城壁を襲っていたので、仲間が討伐しました」

「事情はわかりました。一度お屋敷に向かわれた方が良いでしょう。オリガもマリリ殿も動けない様ですし」

「大切なお子さんを失神させてしまい申し訳ございません」

「いや、オリガの鍛え方が足りない……と言いたい所だが、あの速度では仕方ないだろう」

「私たちも先ほどまで動けませんでしたから」


 リンさんが守備隊長と色々話しているが、どうやら守備隊長はオリガさんの父親だそうだ。

 ああ、お父様の目の前で娘さんを失神させてしまった。


「今領内はどんな感じですか?」

「正直何とか持ち堪えていると言った状態です。難民キャンプは連日小競り合いも発生し、治安も良くありません」

「急いで対策しないといけませんね」

「御領主様に、ラルフ様も連日忙しく働いておりまして。物流も停滞気味でこのままでは領内全体がダメになってしまいます」

「わかりましたわ。色々ありがとうございます」


 うーん、何とかギリギリ持っている印象だ。

 ちょっとした刺激で一気に不満が爆発しそうだ。


「先ほど伝令をお屋敷に走らせました。ガルフを護衛につけましょう。ガルフ、リン様の護衛の任につけ」

「リン様、お久しぶりにございます。これよりリン様の護衛に着任いたします。その……オリガは大丈夫でしょうか?」

「ガルフさん、よろしくお願いしますわ。オリガさんは気絶しているだけなのでご心配ございません」


 守備隊長仕事が早いなあ、もう伝令走らせているとは。

 オリガさんが失神しているから代わりの護衛をつけてくれたが、なんかオリガさんと親しい関係の様だ。


「ルキア、そろそろ行くぞ。お説教もその辺にしておくのじゃ」

「はい、わかりました。今後は無理をしないように」

「はーい……」

「「ヒヒーン……」


 ビアンカ殿下がお説教をしていたルキアさんに声をかけた。

 あまりの迫力に、守備兵は誰も声をかけられず淡々と討伐されたオークを回収していた。

 うん、俺もあの雰囲気には近づけないや。

 流石にミケと馬は涙目だ。


「お兄ちゃん、ごめんなさい……」

「俺は大丈夫だけど、オリガさんとマリリさんが起きたらちゃんと謝るんだぞ」

「うん……」


 ミケはオリガさんとマリリさんが気絶して起きないことに罪悪感を感じているようだ。

 そんでもって馬の方は……、ルキアさんの方を見てビクビクしている。

 ありゃ、ルキアさんに対してトラウマになったな……


「うーん、馬車がガタガタになっていますね。これは修理が必要です。ひとまずお屋敷に運びましょう」

「「ヒヒーン……」」


 ガルフさんが馬車を軽くチェックしてくれたが、暴走でガタガタになっていた。馬も流石に申し訳なく思っているようだ。

 気絶しているオリガさんとマリリさんを馬車に乗せ、その他は歩きでお屋敷に向かっていく。

 馬はルキアさん監視の下で慎重に馬車を引いていた。


「「リン様、お帰りなさいませ」」

「リン様お帰りなさいませ。皆様もようこそバスク領へ。お屋敷にご案内いたします」

「ありがとうマルクさん。皆様、我が家へご案内しますね」

「リンさん、オリガさんとマリリさんはどうしますか?」

「彼女達は私の護衛でもありますので、この屋敷に部屋を持っています。そこに運んでみてもらいます」


 お屋敷の前にはメイドさんや執事さんが並んでいた。

 その中からマルクと呼ばれた若い男性の執事が先頭になって、お屋敷に案内していく。

 馬車からオリガさんとマリリさんが下され、担架に乗せられてお屋敷の中に運ばれていく。

 うーん、流石メイドさん。無駄の無い動きだ。

 あれ? 今マルクさんがマリリさんを見て心配そうな顔をしたぞ。


「御領主様が執務室でお待ちです」


 マルクさんの案内で重厚な扉が構えている部屋の前に案内された。

 ここが執務室らしい。


 コンコン。


「御領主様、リン様がご到着なされました」

「そうか、入ってくれ」


 マルクさんがリンさんの到着を告げると、なかなか声が聞こえた。

 この声の人物がリンさんのお父さんかな?

 中に入ると筋肉ムキムキの壮年の男性が待っていた。

 その横にはドレスを着た中年の女性と、メイド服を着たやはり中年の女性がいた。


「リンよ、道中の話は聞いた。よく無事に帰ってきた」

「お父様!」


 娘の安否を気にかけていた父親が安堵して娘を抱きしめている。

 それを見ていた二人の女性も思わず涙している。

 そりゃ道中襲撃があったなんて、親からしたらたまったもんじゃ無いでしょう。


「御一向の方もよく来られた。私はこのバスク子爵領の領主でテリーだ。先ずは腰掛けてくれ」


 親子の再会の抱擁が解かれた後、ソファーに座ると中年のメイドさんがお茶を淹れてくれた。


「お父様、あまり時間もございませんので先ずはこの書簡をお読みくださいませ」

「うむ。おや? この封蝋は王家のものではないか!」

「はい、此度の件についてアルス王子殿下よりのものとなります」


 テリー様はまさか娘が王家からの書簡を持ってくるなんて思ってもなかったのか、とてもびっくりした顔で受け取って急ぎ中を確認した。


「うーむ、まさか此度の難民の裏にこの様な事情があったとは……。確かに侯爵に伯爵領より難民が押し寄せた際におかしいと思ったのだ」

「お父様、おかしいと申しますと?」

「うむ、実は難民の多くが亜人なのだ。侯爵と伯爵領では最近特に貴族主義に基づき人間優先の政策が行われていると聞く。恐らく不要となった亜人をこのタイミングで一気に領内より追い出したのだろう」

「それは酷い……」


 思わずリンさんが口元を押さえる。

 行き過ぎた人種差別の果ての追放だ。

 そういえばバルガス領での難民も亜人が多かった。

 しかしこれほどの数の難民を、どうやって一度に追い出ししたのだろうか。

 ふと横を見ると、ルキアさんがぎゅっと手を握り締めていた。

 実家で起きている事に心を痛めているのだろう。


「あ、お父様。今回の件で共に手伝って頂けます協力者をご紹介いたします」

「ふむ、凄腕の冒険者だと記載があったが……。おや、そちらの御令嬢は冒険者服だがまさか」

「久しいのう、バスク卿よ。ビアンカじゃ。此度は冒険者として参っている故、臣下の挨拶は不要じゃ」

「ははー、ビアンカ殿下がわざわざ我が領においでいただけるとは」

「此度は国家の大事じゃ。王家としても対応が必要じゃ。バスク領が落ち着き次第、アルスお兄様も来る予定じゃ」

「王家よりのご支援に感謝申し上げます。おや? 殿下の横にいらっしゃる女性は以前どこかでお会いいたしましたかな?」

「テリー様、お久しぶりにございます。ブルーノ侯爵家のルキアでございます。この度は私の実家の事でご迷惑をおかけし申し訳ございません」

「ルキア嬢、生きておったのか! だいぶ昔に亡くなったと聞いておったのでビックリしたぞ。こんなにも大きくなって……」

「テリー様、今夜にもお話しさせてください。私からも御依頼がございます」

「うむ、是非とも聞かせてくれ、その横にいる方とお嬢さんは?」

「俺はサトーと申します」

「ミケはミケだよ!」

「お父様、サトーさんは、バルガス領での襲撃でビアンカ殿下とバルガス領主様をお守りした凄腕の冒険者です。バルガス領の難民の問題も解決されました。ミケさんは小さいですが、あのデビルシープを一撃で倒す事ができる実力を持っております」

「なんと、これまた凄腕の冒険者ではないか。これは心強い」

「バスク卿よ。妾も含めリンも従魔を従えておる。きっと役に立つのじゃ」

「殿下、ありがとうございます。そこに控えている白いオオカミも並々ならぬ迫力を感じますぞ」


 リンさんがテリー様にこちらの紹介を行ったが、王女と亡くなったと聞いていった侯爵令嬢がいる事に大変驚いてくれたおかげで、俺とミケの紹介が無難な感じで終わってよかった。

 どうもテリーさんは俺よりも、ミケとシルに興味津々のようだ。


「お父様、早速ですが難民の方の所へ向かいたいのです」

「うむ、事態は一刻を争うからな。家の者の紹介は夕食の際にでも行うとしよう。今、現場はラルフが見ておるが、わしも一緒に行く」

「ありがとうございます、お父様」


 テリー様も一緒に行く事になり、急遽お屋敷の前に馬車が用意された。

 先ほど護衛についてくれたガルフさんも一緒についてくる。

 馬二頭も一緒に来ている。

 誰も乗らないのにお行儀よく馬車の後ろをついてくる様子に、護衛の人は不思議そうに見ていた。

 ちなみにオリガさんとマリリさんはまだ意識が戻らないそうだ。

 夕食までには意識戻ってほしい。


「これは酷い……」

「うむ、無秩序でいつ暴動が起きてもおかしくないのじゃ」

「ええ殿下……。あまりに難民の数が多く、監視の目も行き届いておりません」


 バスク領郊外の難民キャンプに到着したが、当初聞いていた人数よりもはるかに多くなっている。

 それに数カ所から怒号も聞こえている。

 これは早めになんとかしないと。


「主人よ、悪意のあるのがいるぞ。やはりわざと混乱させているのだぞ」

「なるほど、闇ギルドの構成員かはたまた依頼を受けたゴロツキか……」

「恐らく後者だぞ。実力はなさそうだから、この街の騎士でも十分対応は可能だぞ」


 シルも周辺を見てくれたが、やはりわざと混乱を引き起こそうとしているのもいるのか。

 可能なら同時に対応しないとダメだな。


「父上、お呼びとあり参上いたしました。おや、そこにいるのはリンではないか」

「お兄様、この度の難民の対応の為に参りました」

「そうか、それは助かる。そこの御令嬢も一緒なのか?」

「控えよ、ラルフ。ビアンカ殿下であるぞ」

「ビアンカ殿下ですか! 失礼致しました」

「気にするでないぞ、今は緊急事態じゃ。目の前の難事に対応する事が先じゃ」

「はっ!」


 テリー様に呼ばれてリンさんのお兄さんであるラルフ様が来たけど、リンさんのお兄さんだけあって物凄いイケメンだ。

 ラルフ様はこの場にビアンカ殿下がいてびっくりしているが、確かに目の前の事の方が大事だ。


「サトーよ、どうするか?」

「可能なら難民キャンプを分割したいですね。出身地ごとに分けて管理した方が、帰還する際に対応が早く出来るかと」

「ふむ、その方向で行くかのう。バスク卿よ、大体幾つの村から人が避難しておるかの?」

「殿下、おおよそ八つの村より集まっております」

「なるほどな。サトーよ、念の為二百人規模で十は作ろうかのう」

「そうしましょう。八の村以外にも来ている可能性もありますし、亜人を嫌っている人もいると思います」

「収容所の様な一時隔離施設も作らないと、ならずものも多そうじゃ」

「一緒にまとめて作りましょう」


 大体の難民の出身地域がわかったので、難民キャンプの大きさの案をビアンカ殿下と決めていた所、何やらテリー様が戸惑った感じで声をかけてきた。


「ビアンカ殿下、お言葉ではございますが、その様な大規模の施設を整備するとなると莫大な費用と時間がかかります」

「普通はそうじゃな、一大事業になるぞ。だが安心せい。目を疑う光景が見られるのじゃ」

「は、はぁ……」


 テリー様の不安もわかるよな……。俺だってバルガス領の時にも無理かなって思ったし。

 ちなみにビアンカ殿下、笑顔がちょっと黒いですよ。


 とりあえず分担を決めよう。

 難民キャンプの整備班、炊き出し班、治療班、警備班を作る。

 整備班はビアンカ殿下とスラタロウに俺が入る。テリー様とラルフ様も一緒なので、何人かの騎士が警護に着く予定だ。

 炊き出し班はリンさんを中心に、ミケとタコヤキが入る。タコヤキは主人が不在な分やる気満々の様だ。

 治療班はルキアさんとリーフとホワイトが入り、警備にはヤキトリが入った。

 警備班はシルとタラちゃん、ポチにフランソワとサファイアが入る。そして何故か二頭の馬も一緒だ。サファイヤも主人不在の分、やる気を出している。


 先ずは整備班だ。


「サトーよ、先ずは収容所を作ろう。何人規模が良いかのう」

「先ずは五十人で作り、その後は状況に応じて増やしましょう」

「独房は難しいからまとめてじゃな」

「はい、大体の大きさを線で引きましょう」

「うむ。うーんと、このくらいじゃな」


 先に収容所を作る事になったので、ビアンカ殿下と大体の大きさを決める。

 とりあえずで二十✖️五メートルの線を地面に引く。これだけあれば大きさは十分だろう。


「あの……、殿下。これは何をされているのでしょうか?」

「この大きさで収容所を作るのじゃ。危ないから離れておれ」


 テリー様は未だに何をしようかわかっていないみたいだ。

 まあ、確かに普通はわからないよね。


「よし。スラタロウよ、誰も逃げられない様に頑丈に作るのじゃ!」

「な、何が起こったのだ?」

「おお、これは……」


 ビアンカ殿下とスラタロウが地面に手をついて同時に魔力を流すと、引かれた線にそって分厚い壁がせり上がった。

 テリー様もラルフ様も目の前で起こった事が信じられないのか、目が点になっている。

 そのまま天井も塞いで、先ずは収容所の外観は完成。


「お見事ですビアンカ殿下。うん、強度も問題ありません」

「後は鉄格子みたいなので入り口を作りたいのじゃが、今回は石で作ろうかのう」

「鉄に近い強度もあるので、大丈夫でしょう」

「うーん、こんな感じじゃ」


 鉄の抽出ができそうに無いので、今回は石材を使っての仮鉄格子にする。

 ビアンカ殿下とスラタロウが微調整を行いながら、仕上げを行う。


「ふう、完成じゃ。バスク卿よ、鉄格子で使う様な予備の鍵はあるかえ?」

「は、確かあったはずです。直ぐに取り付けて監視にあたらせます」

「うむ。ではシルよ、怪しい奴を捕まえてくるのじゃ」

「ビアンカよ任せるのだぞ」


 収容所が完成し、颯爽とかけていく白いオオカミと馬の姿を、テリー様とラルフ様は呆然と見つめていた。


「さて、次はキャンプ地だな。これはバルガス領と同じ物でいいじゃろう」

「流石にあそこまで豪華にする必要はないですが、大体は同じ物でいいと思います」

「うむ。ではスラタロウよ、堀と塀を作ってくれ」

「「うわぁ……」」


 一回バルガス領で作った実績があるので、スラタロウはいとも簡単に基準となる堀と塀を一気に作っていく。

 目の前に十個の堀と塀で囲まれたスペースができ、もうテリー様とラルフ様は言葉にならないようだ。


「ここまで出来れは後は設備を作るだけじゃ。サトーよ、他の所を手伝ってやるが良い」

「分かりました、先ずは炊き出し班の所に向かいます。ビアンカ殿下もお気をつけて」

「うむ、サトーも気をつけるのじゃよ」


 ビアンカ殿下と別れて、炊き出し班に向かう。

 そういえばギルドからの備品を預かっていたんだっけ。


「あ、お兄ちゃんだ!」

「サトーさん、お疲れ様です」

「お待たせしました。食料を今出しますね」

「はい、でも相変わらずビアンカ殿下とスラタロウの魔法は凄いですね」

「あっという間に出来ちゃったね!」

「ははは。まあ土魔法の応用なので、近衛部隊の人も出来ていましたけどね」


 リンさんとミケの所に合流して炊き出しの準備を行う。

 鍋などは既にセットされているので、後は食材を準備して調理するだけだ。

 ちなみにリンさんの護衛についていたガルフさんは、あっという間に出来たキャンプ地に唖然としていた。


「食材はどこに出せばいいですか?」

「こっちのテーブルに纏めて出してください」

「分かりました、セットされている鍋が三つなのでこの位の量で足りますか?」

「うーん、もう少しいいですか? あと亜人の方が多いので、お肉を多めにお願いします」

「はい、出しましたよ」

「ありがとうございます。この位でいいですね」


 リンさんに言われてテーブルの上に食材を置き準備万端。

 どんどん作るとはいえ、一緒に調理を手伝ってくれる騎士さんは、大体三百人前の食材をどう調理すればいいのか考え込んでしまっているようだ。


「じゃあ、タコヤキお願いね!」


 ミケの合図に始まったタコヤキの調理方法を、騎士さんは唖然と見ていた。もちろんガルフさんもだ。

 様々な魔法を駆使し、あっという間に食材を調理していく。

 オーク肉が入っていたので、細切れにして野菜たっぷりの豚汁もどきを作るようだ。

 どんどん調理されていく鍋から美味しそうな匂いがしてくる。


「お兄ちゃん、味見してもいい?」

「私もしますね」


 ある程度料理が出来た所で、みんなで味見をする事に。

 初めて見る人はスライムが作った料理ということで、内心ドキドキしてそうだ。


「うん、十分に美味しいですね」

「この料理をスライムが作ったなんて……」

「とてもじゃないが信じられない」


 リンさんから合格点をもらって嬉しそうなタコヤキ。

 周りの人はその味に驚いている。

 しかしそんな中、残酷な判定を下す猫耳幼女が一匹。


「うーん、美味しいけどスラタロウの方が上かも……」


 おいミケや。タコヤキが落ち込んでいるぞ。

 確かに手際も味もスラタロウの方が上だけど、タコヤキも十分に上手に作れてるぞ。

 子どもは素直な分、ある意味残酷だ……


「えーっと、治療班の様子を見に行きますので、追加の食材をテーブルの上に置いておきますね」 

「えー? お兄ちゃんいっちゃうの?」

「俺も忙しいの。ではリンさんお願いします」

「くすくす、こちらは任せてください」


 急いでこの場を離れる俺に対してミケが文句を言うが、俺の魂胆が丸わかりのリンさんに苦笑されながら炊き出し班を後にした。


 さて、治療班はどうなっているか……おおっと、思ったよりも長蛇の列だ。


「ルキアさん、治療班の様子は如何ですか?」

「サトーさん。はい重傷者はそこまでいないので、なんとかまわせています」

「まだサトーとかの助けは不要だよー」

「そうですか。それはよかった」

「ただ、大人子どもに限らず痩せている人が多いので、栄養が足りていなさそうです」


 ルキアさんは怪我よりも栄養失調の方が気に掛かっているようだ。

 確かに痩せている人が多い。

 これは現地の食糧事情を確認しないといけないぞ。


「今、リンさん達が炊き出しを用意しているので、もう少ししたら食べられると思いますよ」

「いい匂いがここまで漂ってきていますね」

「タコヤキも中々の腕前です。ただ、ミケはスラタロウの方が美味しいと言ったので、少しタコヤキが拗ねてました」

「スラタロウの料理は一流ですから、私でも勝てませんから仕方ありませんね」

「スラタロウみたいになるには、もう少し特訓が必要だねー」


 何とか料理の話題で、ルキアさんを明るくすることが出来た。

 治療班は比較的落ち着いているみたいだ。

 そう思ったら、収容所の方が何やら騒がしい。


「ルキアさん、収容所が騒がしいのでちょっと行ってきます」

「はい、サトーさんもお気をつけて」

「頑張ってねー」


 俺はホワイトの頭を撫でてあげて、騒がしい収容所の方に向かっていく。


「くそ、はなしやがれ!」

「引きずるな、この野郎」

「うわー、これは凄い……」


 糸でぐるぐる巻きになったならずものが、馬に引きずられて次々と収容所に入れられていく。

 それを騎士の人や守備兵の人が忙しく対応にあたっている。


「シル、これはどういうことだ?」

「どうも騒ぎを起こして混乱させようとしていたみたいだぞ。武器も持っていたのである意味問答無用だぞ」

「騒ぎ?」

「難民キャンプの対応が悪い事を逆手に取り、周りの人を巻き込んで蜂起を計画していたみたいだぞ」

「うわー、それはまた」

「だが、先ほどのビアンカやスラタロウの魔法を見て浮き足立ったらしく、何もさせないまま捕まえたぞ」

「おお、タイミング的に少し遅ければ危なかったのか」


 想像以上のならずものの多さにびっくりしたが、この数が一気に蜂起したら、きっと今いる騎士だけでは抑えきれなかったはず。

 結果的にビアンカ殿下とスラタロウの魔法に感謝だな。


「サトーよ、設備が出来て難民の移動が始まったのじゃ。これだけならずものがいるとなると、この後第二ラウンドが待っていそうじゃな」

「ビアンカ殿下お疲れ様です。正直この数は予想以上です。警戒を高めないといけないですね」


 人の移動が始まった様子を眺めながら、この後も何か起こるのではないかと危機感に襲われた。

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