第四十話 第二回薬草取り選手権

「ミケ、もう大丈夫だよ! ありがとうお兄ちゃん」

「本当に大丈夫か?」

「うん!」


 ミケは十分位抱きついていた後、ゆっくりと離れた。

 目はまだ真っ赤だけど、随分と表情は良くなった。


「サトーさん、この先に野営するのに丁度いいところがあります。今日はそこで休みましょう」

「戦いの後ですし、ミケ様も万全でないので良いのではないでしょうか。雨も上がりましたし」

「そうだのう。日が高い内に野営の準備をしないとな。ミケ、馬車に乗り込むぞ」

「うん!」


 みんなミケの事を気遣ってくれている。

 それに野営の準備するにしても丁度いいタイミングだ。


「ここです、テントを貼るのにも丁度良いスペースがあります」


 馬車に乗って三十分ほど。

 オリガさんに案内された場所は、開けていて水場にも近く良い野営地だ。

 でもここって……


「お兄ちゃん、ここって!」

「そうだね、最初にキャンプした所だね」


 この世界に来て最初に野営した所だった。

 だから見覚えがある所なんだ。


「あら、サトーさんもここをお使いに?」

「はい、以前に」

「そうですか。この街道はバルガス領とバスク子爵領を結ぶ大きな道です。所々に野営ができる場所がありますわ」


 リンさんがこの場所について説明してくれた。

 だから以前の時も人為的に整えてあると感じたんだ。


 馬車を止めて、馬を外す。

 馬車を点検して、うん問題なさそうだ。

 雨で路面がぐちゃぐちゃだったけど、車輪にも傷はない。

 念の為、生活魔法で綺麗にしておこう。


「馬さん、ご飯とお水ですよ!」

「「ヒヒーン」」

「うむ、よく食べるのじゃぞ」


 ミケとビアンカ殿下が、二頭の馬の世話をしている。

 見た感じこちらも怪我はなさそうだ。

 リンさんとオリガさんが馬の蹄や馬具のチェックをしている。

 任せても大丈夫だ。


 さて、食事の準備はっと……


「あいかわずの手際の良さですね!」

「この魔法制御はすごい」


 ルキアさんとマリリさんの賞賛の先には、様々な魔法を駆使して料理を行うスラタロウの姿が。

 うん、分かっていたよ。

 もうスラタロウはウチの調理番長だな。


 ということで、俺はテントを張る様にする。

 女性用の大きいテントと、俺用の小さいテントを用意する。

 うん、テント立てるだけならそんなにかからないなあ。

 ということで、あっという間に野営の準備が完了。

 ちょっと時間が余ったなあ。


「お兄ちゃん、少し時間があるから薬草取りに行ってもいい?」

「薬草取り?」

「そうじゃな。ミケの気分転換も兼ねてじゃ」

「主人よ、心配はないぞ。この辺は安全だぞ」

「サトーさん、という事です。私も行くのでご安心を」


 ミケの気分転換を兼ねて、薬草取りを行うみたいだ。

 シルも大丈夫だというので、みんなで行くことに。

 メンバーは、ミケ、タラちゃん、ホワイト、リンさん、マリリさん、ポチ、タコヤキ、サファイヤ、ビアンカ殿下、フランソワ、ヤキトリ。

 下手したらまた薬草取り競争になるかも……


 夕食までの一時間限定だから、そこまで薬草は取れないと信じてミケ達を送り出す。


「ミケ様、元気になってよかったですね」

「そうですね、一時はどうなるかと思いました」

「あのお婆様は、ミケ様も懐いていましたから。ミケ様の心配もよくわかります」


 ルキアさんもミケが明るくなって一安心みたいだ。

 

「サトー様、ルキア様。馬の体を拭いてやりたいので、手伝ってもらって良いですか?」

「はい、今行きます」


 オリガさんに馬の体を拭くのを手伝ってほしいと言われたので、ルキアさんと一緒に馬の体を拭いてやる。

 この馬達も襲撃あったりと大変な目にあったもんだ。

 馬の体を拭き終わったら、オリガさんとルキアさんと談笑したり、スラタロウの作っている夕食の味見をしたりして時間を潰していた。

 ちなみに今日のスラタロウの一品は、どう見てもデミグラスソースのシチュー。

 オリガさんもルキアさんリーフも絶賛です。

 どうやって作ったか謎だが、一流レストランの味ってこんな感じかと思うほど美味かった。


「お兄ちゃん、薬草取り終わったよ!」 

「ほほほ、大量に取れたのじゃ」


 ミケ達は薬草取りに出てから一時間もしないうちに戻ってきた。

 ビアンカ殿下の大量に取れた発言がとっても怖い。

 しかも薬草とは言っていないので、何が取れたかとっても怖い。

 薬草取りメンバーの中で常識人と思われるリンさんに詳細を聞いてみよう。


「リンさん、一体何があったのですか?」

「それが、いつの間にか採取の競争になってしまったようで……」

「もしかして、またやらかしたのですか?」

「はい、始める前にミケさんがいつもタラちゃんとかが一杯薬草見つけられると言ったのです。そうしたら他のホワイトやサファイヤとかがヤル気を出しまして。薬草に限らず、木の実やキノコなども大量に集め出したのです。その結果があそこにある山で……」

「Oh、なんてこったい……」


 ミケ達が次々と採取した結果を出している。

 薬草だけでなく様々な種類の物が出てきた。

 それが種類別に分けられているが、全てが山の様に積み上がってる。

 今日は一時間だっけだったけど、これを丸一日行ったらどれほどの結果になるのか。


「お兄ちゃん、これだけ取れれば大丈夫?」

「ああ、十分だよ。ありがとうなミケ」

「ふむ、オーク肉といい、デビルシープの素材といい、これだけの採取量がある。難民達の食糧はひとまず事足りるかのう」

「ソウデスネー」

「うわー、昨日も思ったけど、いくら魔物がいるとはいえ、これだけの素材を取れる人は珍しいよー」

「ソウデスネー」


 うん、現地の食糧事情もわからないし、ギルドからの資材では足りるか心配だったけど、一気に食糧事情が改善された。

 でもこの量は流石に衝撃的です。妖精のリーフも認定しています。


「お兄ちゃん、お腹すいた! 良い匂いがするよ!」

「それじゃ手を洗ってご飯にしようか?」

「はーい!」


 丁度料理も良い具合に出来たので、みんなで夕食です。

 スラタロウのデミグラスソースのシチューの感想は……


「うーん、美味しいよ!」

「こんな美味しいのを、まさかスライムがねー」

「なんと、王城のシェフの料理よりも美味しいのじゃ」

「本当に美味しいです。我が家のシェフではこの美味しさに太刀打ちできません」

「こんなに美味しい物は人生で初めてです」

「はぐはぐもぐもぐ」

「素晴らしい味です。これじゃメイドでも敵わないですわ」

「ふむ、これは良い味だぞ。もっと食べたいぞ」


 みなさん大絶賛です。

 わお、王城のシェフを超えますか。

 そりゃ炊き出しの時も絶賛されたスラタロウの料理だ。

 そんじょそこらのシェフでは敵わないだろう。


 作ってくれたスラタロウの代わりに、食後の片付けは食べたみんなで行います。

 と言っても生活魔法で一撃ですが。

 ふとスラタロウの姿がないと思ったら、二頭の馬の近くに。

 何か話しているように見えたと思ったら、突然スラタロウが聖魔法使った。

 もしかして馬は怪我でもしたのかな?

 ミケが馬とスラタロウに話しかけているので聞いてみよう。


「お兄ちゃん。お馬さんがね、スラタロウに魔法見せてくれって言っていたみたい。だからスラタロウ魔法使ったんだね」

「よかった。馬が怪我したかと思ったよ」

「お馬さんみんな元気だよ!」

「でもなんでスラタロウに魔法を見せてって聞いたんだ?」

「うんとね、お馬さんがこの中でスラタロウが一番魔法使うのが上手だって。だから頼んだんだって」

「そっか……」


 ミケとの会話が聞こえちゃって、そこでのの字を書いているルキアさんとマリリさん。

 俺も馬にもスラタロウが一番魔法が上手いって判断されたショックはわかります。


「何かあれば我が直ぐに皆を起こすぞ。今日はゆっくり休むが良いぞ」


 相変わらずのイケメンオオカミ発言に感謝して、就寝となります。

 今日は戦いとかも色々あって疲れたなあ。

 そう思っていたら、ミケがテントの中に入ってきた。

 当初の予定では、女性陣がまとまって寝るはず。


「お兄ちゃん、一緒に寝ていい?」

「あれ? あっちでみんなと寝るんじゃないの?」

「いつもお兄ちゃんと寝ていたから、今日も一緒に寝たいよう」

「分かった。こっちにおいで」

「うん」


 やっぱりまだお婆さんの事が頭をよぎったのかな?

 少し泣きそうな顔だったミケを呼び寄せて寝させます。

 ミケは安心したのか、直ぐに寝息を立てた。

 俺ももう寝よう。

 明日にはバスク子爵領に無事着くかな?

 ……無事についてほしいなあ……

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