第二十四話 薬草取りと金髪ドリルさんとクモさん

 初心者講習の翌日。

 今日はミケのリクエストもあり、薬草取りに行く予定。

 お屋敷で朝食を取り、ギルドに行く予定だ。

 朝食中に、バルガス様から声をかけられた。


「サトー殿、明日は何か予定でも?」

「バルガス様、いえ特に予定はありません」

「そうか、実は例の魔道具の件でギルドから連絡があったんだ。サトー殿にも同席してほしい」

「分かりました。一緒に伺います」

「妾も同席するぞ。結果如何では王都に連絡しないと行かんじゃろ」

「そうですね殿下。出来ればそうならない事を祈りたいものです」

「妾もそう思う。じゃが望みは薄いじゃろう」


 先ずは明日が今起きている事件のポイントになりそうだ。

 早く平和になって欲しいものだ。


「主人、なら明日は我がミケ達の魔法の練習を行うぞ。主人は気にせず会談に集中するのだぞ」

「ミケも魔法の練習をするー!」

「シルさん。サリーも時間が合えば参加させてください」

「みんなまとめて我に任せるのだぞ」

「妾も魔法の練習はしたいが、こればっかりは断念じゃな」


 ということで、明日の予定は決定。

 大変な一日になりそうなので、今日はのんびり薬草採取と行きますか。


 のんびりとミケと手を繋ぎながら歩いてギルドに到着。

 途中市場でお昼ご飯も調達し、準備万端。

 ギルドの中に入ると何やら叫び声が聞こえた。


「止めてくださいな。私たちで十分です」

「そんな連れない事をいうなよ嬢ちゃんよ。俺らが手取り足取り教えてやるぜ」

「離してください。あなた達とは一緒に行かないですわ」

「初心者なんだろ。先輩が後輩の面倒を見てやるよ」


 あれはリンさん達のグループだ。

 それに男性のグループが一方的に絡んでいるようだ。

 なんだろう? ギルドを利用しているのはまだ数日だけど、あんなにしつこいのは見た事ないなあ。


「コラー! リンお姉ちゃんをいじめるな!」

「なんだおチビちゃんよ。俺らは忙しいんだ。あっちいってな」

「なんだとー! ハンマーでぶっ飛しちゃうぞ!」

「ははは、威勢の良いおチビちゃんだ」


 うおーい、いつの間にかミケがリンさんの所に行ったと思ったら、今度はミケと男どもが喧嘩になりかけている。

 急いで止めないと危ないぞ。

 ……主に男どもが。


「おい、お前ら。何騒いでいる!」

「今度は誰だ? 俺たちに構う…な?」

「だから何を騒いでいるんだと聞いている。お前らが一方的に絡んでいた事は全て見ていたぞ」


 おお、ここで副ギルドマスターのガンドフさん登場。

 いつもギルドマスターに吹っ飛ばされている気がするが、見た目は身長二メートル越えの筋肉ムキムキでスキンヘッド。

 見た目なら十分威圧感がある。

 さて、俺も手助けに行こうかな。


「リンさん、大丈夫ですか? 副ギルドマスターもわざわざすみません」

「サトーか。いやこれは俺らの仕事だ。ミケの嬢ちゃんもありがとうな」

「遅いよー」

「ワハハ、悪いな。さてお前ら、何をやっているんだ?」

「「「ひいい」」」


 おお、流石副ギルドマスター。

 肩書きよりも、いかつい顔の方でならずものを威圧しているよ。


「ちっ、お前ら行くぞ」

「お前がサトーか。覚えていろ」


 ならずものは逃げていったが、何故か俺の事を言っていた。

 初対面でこんな事を言うのは、何かきな臭いなあ……


「リンさん、大丈夫ですか?」

「サトーさん。いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

「リンお姉ちゃん大丈夫?」

「ミケさんもありがとうね」


 リンさんはミケの事を抱きしめてお礼を言っていたが、ちょっと震えている。

 そりゃ高貴な人が、いきなりあんなならずものに絡まれたら怖いよね……


「サトーよ、あいつらはこの辺じゃ見かけない。領主様の件もあるし、警戒しておく事だ」

「はい、それは俺も感じました。わざわざ俺の名前を言うくらいですので」


 うーん、心配事が減らないなあ。

 ガンドフさんとそんな会話だった。


「サトーさん、みっともない姿をお見せし申し訳ありません」

「しょうがないですよ、いくら冒険者にしてもあれは酷いですし」

「そうですわね」


 少しして、リンさんも落ち着いたみたいだ。

 少し苦笑しながら話し出来る様になった。


「リン、今日は依頼はもう止めたら?」

「そうですよリン様。ご無理は禁物です」

「いえ、これぐらいでめげてしまっては、冒険者にはなれませんわ」


 チームの女の子が今日は休むことを進めたが、リンさんはまだ依頼をこなす気だ。

 やる気だけは十分にあるようだな。


「リンお姉ちゃんは、なんの依頼をするの?」

「せっかく外で依頼を受けられるので、先ずは薬草採取でもと思っておりますわ」

「おー、ミケ達も薬草採取に行くんだよ! 一緒に行く?」

「え? でもミケさん達のご迷惑になるのでは……」

「全然大丈夫だよ! ねっ、お兄ちゃん」

「俺も大丈夫ですよ。一緒に行きますか?」

「サトーさんがよろしければ、お願いします」

「やったー! お姉ちゃんと一緒だ!」

「ミケさんたら。ふふふ」


 やはり女性だけでは不安があったようだ。

 一緒の二人も安堵の表情をしていて、一緒にお願いのお辞儀していた。

 ミケはリンさんと一緒に行けるのが楽しみのようだ。


 薬草採取の依頼は常時依頼で、特に採取量も決まっていない。

 採取量によって金額が決まるそうだ。

 俺たちとリンさんとで一緒に受付を済まして、町の外にいきます。


「主人、しばらくは魔物は心配ないぞ」


 シルありがとう。

 探査が出来るのは本当にありがたい。

 空間魔法で探査が出来るらしいので、俺も早く覚えたいなあ。


 森までの道中、お互いに自己紹介を行った。

 リンさん達はみんな十四歳で幼馴染だとの事。ただ、貴族なのはリンさんで、後はメイドだったり従士の子どもだそうだ。

 リンさんは魔法剣士でミケの戦うスタイルに似ている。金髪ドリルでザ貴族の髪型だ。年齢の割にスタイルは良い。

 前衛の戦士がオリガさん。盾を装備し敵を受け止めるタンク型で剣も槍も使えるという。オリガさんは身長が高く赤い長い髪で、体型は年齢相応だな。

 マリリさんは後衛の魔法使いで、服装もザ魔法使い。回復も出来るという。スラタロウを飼いたいと言った本人で、今もスラタロウに興味津々だ。青色の肩までの髪で、少し小柄な体型。


「私は妾腹なので、特に継承権はありません。でも貴族としての勤めを果たしたいのです。私の街にも冒険者ギルドがありますので、少しでも手助けをと思い冒険者になりましたわ」

「そうなんですね。私が知っている貴族の方も懸命に領地経営されておりますね」

「そうですわ、それが貴族の義務です。ただ、残念ながら一部の貴族は苛政を行なっており、領民が苦しんでおりますわ。そんな領主は許せないですわ」


 ビアンカ様も仰っていたけど、改革派と保守派の間でだいぶ意識の差がありそうだ。

 リンさんの領地も懸命に頑張っているに違いなさそうだけど、苛政を敷いている所もやっぱりあるんだなあ。

 

 色々おしゃべりしている内に、今回の目的の森に到着。

 今日は薬草が多く取れるという森にきました。

 この辺は受付を行った際に、色々聞いておいた。

 薬草の種類もハンドブックに載っているし、見た感じ薬草もいっぱいありそうだ。

 しかも沢山とっても二、三日で生えてくるそうだ。森の中の薬草って不思議。 


「よし、じゃあ始めようか。一旦お昼になったら休憩にしよう」

「「「はーい」」」

「警戒は我が行うぞ、今の所問題はないぞ」


 引き続きシルに警戒してもらいながら、薬草取りを開始。

 しゃがんで採取を開始するが、視線を低くすると結構薬草があった。

 俺は一人で黙々と採取していくが、女性達は固まってワイワイとやっていた。

 ……畜生、スラタロウもシルも女性陣に混じっているから、本当に一人ぼっちだ……

 

「おや? このクモはなんだ?」


 黙々と一人で作業していると、茂みの中から金銀のクモが三匹現れた。

 500円玉位の大きさだが、とにかく目立つクモだ。


「お兄ちゃん何か見つけたの? うわーキレー」


 ミケが何事かとこっちにきて、金銀のクモを見て感嘆の声をあげている。

 その内、リンさん達もこっちにやってきた。


「へー、珍しいですね。シルクスパイダーの変異体です」

「シルクスパイダーですか?」

「はい、薬草を食べる大人しいクモです。そのクモが出す糸は高級品として扱われます」

「へー、こんな小さいクモがね」

「しかも変異種なので、その糸はさらに高級でしょう。しかし様々な動物の捕食対象になるので、臆病な性格なはずですが……」


 マリリさんが色々説明してくれたが、とても珍しいクモらしい。なのに、クモの方から顔を出さなかったか?


「主人、このクモ達は悪意はないぞ。きっとスラタロウと一緒だぞ」

「じゃあ、お兄ちゃん。このクモさん達も仲間になるの?」

「うまくいけばだけどね」


 スラタロウの時もそうだけど、悪意がない魔物もいるんだな。

 どれ、うまく仲間に出来るかな?


「お前ら、俺と一緒にくるか?」


 クモに話かけた所、一匹の銀のクモがこちらにきた。

 けど、金の二匹のクモは薬草をむしゃむしゃと食べていた。

 あれ? 失敗したのかな?


「主人、金のクモは主人と相性が悪いみたいだぞ。相性が悪いと仲間にはならないぞ」


 シルが教えてくれたが、人と魔物で相性があるらしい。

 無理やり契約する事も出来るがそれだと魔物は力を出せず、その上苦痛らしい。


「サトーさん、綺麗なクモですね。あら? クモがこちらにジャンプしてきましたわ」


 ひょこっとリンさんが顔を出したところ、金色のクモの一匹がリンさんの手の上に乗ってきた。

 これはひょっとして……


「リンさん、クモは怖くないですか?」

「ええ、このくらいの大きさなら大丈夫ですわよ。流石に大蜘蛛は気味が悪いですが」

「もしかしたらこのクモは、リンさんと一緒に行きたいみたいですよ」

「本当ですの? えーっとクモさん? 私たちと一緒になりませんこと?」


 リンさんはクモは大丈夫だ。そりゃ大蜘蛛は誰でも怖いだろう。

 リンさんがクモに話かけると、クモはリンさんをじーっと見た後、足を一本上げた。


「お、どうやらクモもリンさんに反応してくれたみたいですね。名前をつけてあげないと」

「本当ですの? うーんどんな名前がいいかしら?」


 リンさんはクモが仲間になる事が嬉しそうだ。名前を真剣に考えている。


「うーん、エリザベスなんて名前はどうでしょうか?」

「リン様、流石に王妃様の名前をつけるのは不敬かと……」

「あらそうでしたわ。では、うーん、ポチなんてどうかしら?」

「お嬢様、それは昔飼っていた犬の名前で……、おや? クモが手をあげていますね?」

「名前が気に入ったみたいですわね。今日からあなたは『ポチ』ですわ!」


 おい、ゴールデンシルクスパイダーよ。お前の名前は犬と一緒でいいんかい!

 リンさんとオリガさんの会話が、コントの様に聞こえるぞ。

 ……まあ、リンさんとクモが納得していればいいけど。


「さて、こっちも名前をつけないとなあ」

「ミケが名前をつける!」

「ミケ大丈夫か?」

「大丈夫だよ! えーと、スパ○ダー○ンってのはどう?」

「却下だ却下。流石にその名前は付けられん」

「えー、かっこいいのに……。それじゃあタラちゃんは? タランチュラのタラちゃん!」

「また危ない名前を……。クモも納得しているからいいか」

「それじゃああなたの名前はタラちゃん! タラちゃんよろしくね!」


 どうしてミケは危険な名前をつけたがるんだ?

 てか、前世の猫のミケに誰がそんな名前を覚えさせたんだろう。


 色々あったが、ちょうどキリも良いのでお昼ご飯に。

 俺たちは市場で買ったサンドイッチにフルーツ。

 リンさん達は、マリリさんの手作り弁当。

 女の子の手作り弁当は、正直言って男子の憧れ。中身も綺麗に作ってあります。


「うわー、お姉ちゃんのお弁当美味しそう。一口ちょうだい?」

「あら、好きなおかずをどうぞ。私もサンドイッチを一口くださる?」

「おお、とっても美味しいよ! サンドイッチもどーぞ」

「ふふ、ミケさんのサンドイッチも美味しいですわよ」


 ……女性同士、話に花が咲いてとても良い事です。

 みんなキャピキャピしています。

 男子独り身は肩身が狭い……

 スラタロウ、慰めなくても良いんだよ。


 食事も終わってまったりタイムも終わり、午後の採取を再開。


「おお、タラちゃん凄い凄い!」

「ポチも素晴らしいですわ」


 なんと普段餌にしているからか、シルクスパイダーが大活躍。次々に薬草を見つけて教えてくれる。

 あっという間に午前中の倍の量が取れた。

 一杯薬草を見つけて、みんなホクホク顔です。

 予定より多く取れたので、早めにギルドに帰る事になりました。


「サトーさん、今日は朝からありがとうございます。少し冒険者として自信がつきましたわ」

「いえいえ、お役に立ててよかったです」

「ポチのお陰で、薬草取りは効率よく出来そうですし、頑張ってみます」


 リンさんは満足げにうなづいていた。

 朝から色々あったけど、トータルでは良い一日だったようだ。


 ギルドについてクモが食べる分の薬草を除いて換金。捕まえたシルクスパイダーの従魔契約も完了。

 そういえば、契約していないもう一匹はどうしよう。受付のお姉さんに聞いてみよう。


「もし危害を加える可能性がある魔物だった場合は討伐対象になる可能性がありますが、シルクスパイダーはおとなしいのでそのままでも大丈夫ですよ」


 との事。

 リンさんたちとはギルドで別れて、とりあえずお屋敷に連れて帰る事にした。


「ただいまー!」

「おや、今帰りか? 今日はどうじゃミケよ」

「いっぱい薬草が取れたよ!」

「ほほ、それはよかったのう」


 ちょうど玄関にいたビアンカ殿下と鉢合わせになって、ミケが元気よく今日の成果を伝えていた。


「おや? ミケよ頭に金のクモがおるではないか」

「そうだよ! 薬草取りに行ったら、こっちにきたの!」

「こっちにきたとは、またサトーらしいのう」

「お兄ちゃんらしいよね。でもこの子はまだ一緒の人が決まってないの」


 ミケの頭の上に、仲間にならなかったゴールデンシルクスパイダーが乗っていた。

 ビアンカ殿下に説明していたけど、こいつの主人はどうするか?

 と思っていたら、ミケの頭からクモがピョーンと飛んで、ビアンカ殿下の手の上に。


「おや? 妾の手の上に飛んできたぞ?」

「おお、ビアンカお姉ちゃんの所がいいのかな?」

「ふむ、そのようだのう。名はなんと名付けようかのう?」


 おいクモよ。よりによってビアンカ殿下の所に行くなんて!


「ビアンカ殿下。その、クモは大丈夫なのですか?」

「サトーよ心配するでないぞ。妾は色々な所に赴く事が多い故、クモに限らず多くの魔物に遭遇する。この様な小さなクモなど可愛いものじゃ」

「なら良いのですが……」

「シルクスパイダーは餌も薬草で十分、飼うのも手間ではないし、何より糸が高く売れる。何も問題はなしじゃ。そうじゃのう、フランソワなんてのはどうじゃ?」


 意外とビアンカ殿下は肝が据わっていた様だ。

 そして高貴な名前にクモが反応しているぞ。

 まあ、金ピカの変異種だし良いのかな?


「気に入った様じゃな。そなたはフランソワじゃ。妾の護衛も頼むとするかの」


 クモ、もといフランソワも手をあげてアピールしているが、こんな小さいクモで護衛出来るのかな?

 なんて思いながら、今日の依頼は終了。

 クモの餌のために、もう何回か薬草取りに行かないと。

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