第十四話 領主邸にお泊まり!?

「主人、街の中に入ったら嫌な感じが少し落ち着いたぞ」

「もしかしたら、この後俺達が別れるのを期待しているかもしれない」


 そんな事をシルと念話で話ながら、道中を進んでいく。

 この街は国最大の冒険者ギルドがあるだけに、とても人が多い。

 それに冒険者もあちらこちらに見受けられる。

 冒険者の多さもあってか、街を警備する騎士の人も多そうだ。

 なるほど、この冒険者の多さが街の発展に一役買っているんだな。


 馬車はゆっくり進んで、市場の方に進んでいく。

 珍しい食べ物とかも売っていて、市場も活気がついている。

 どんなものが売っているか、見回るのが楽しみだ。

 市場を見ていて気がついたことが二つ。

 一つは、お金の単位はゴールドだけど大体の物価は日本円と一緒みたい。

 ということは、100万ゴールドのカードがあるけど、100万円持っているのと同じ。

 ……わーお、とっても大金持っていることになるぞ。盗難注意だな。

 もう一つが、買い物の際に硬貨や紙幣を使っていなく、お互いのカードをかざすだけで買い物が完了している事。

 異世界の方が日本よりもお金の管理が発達しているかもしれない。

 よく周りを見ると、中世的な建物も多いが、中には近代っぽい建物もある。

 流石にマンションみたいな建物はないけど、文化もそこそこ発達しているようだ。


 なんて考えながら馬車は進み、市場から住宅街、住宅街から高級住宅街に進んで行きます。

 そして見えてきたどーんと大きい建物と敷地。


「うわー。おっきいおうち!」


 馬車からミケの声が聞こえたが、その気持ちはよくわかる。

 うおー、バルガス様物凄いところに住んでいる。

 兵士が警備している門を抜け、西洋風の立派な建物が建っている。

 入口には、執事さんとメイドさんがずらっと並んでいる。

 ……あかん、日本と別世界すぎる。思考が追いつかないぞ。


 馬車が入口の前に止まり、バルガス様が降りてきた。


「「「おかえりなさいませ。御館様」」」


 執事とメイドが声を揃えてバルガス様を迎えている。

 いつか見た漫画のような光景が、目の前に広がっている。


「このグレイ、御館様が襲撃を受けたと聞いて、とても心配致しました」

「ははは、心配かけたな。この通りピンピンしておるぞ」

「左様にございます」


 執事さんはグレイさんというのか。そりゃ仕えている人が襲われれば、心配もするよね。

 と思ったら、バルガス様とグレイさんが何かヒソヒソ話始めた。


「グレイ、念の為館の警備を厚くせよ。それから馬車と馬具を念入りに点検するように。何かあったらすぐ私に報告するように」

「かしこまりました」


 バルガス様も、敵は近くにいると踏んでいるみたいだ。

 やっぱりどこかで無理言ってでも、話を聞いた方がいいな。


 馬車からはバルガス様がおり、メイドが手を引いてビアンカ殿下を下ろし、最後にスラタロウを抱えたミケが元気良く降りてくる。

 ビアンカ殿下は何回かバルガス様の所に来た事があるらしく、メイドの対応も普通通りだ。

 そして元気が良い猫耳幼女を見て、メイドさんもほっこりだ。


 バルガス様と、メイドさんと、ビアンカ殿下と手を繋いでいるミケは、そのままお屋敷の中に入って行った。

 ……。

 ……。

 ……、あれ?今、ミケも何事もないようにお屋敷の中に入っていかなかった?

 ……。

 ……。

 うおーい、ミケさんや。あなたどこ行っているねん。

 失礼かもと思ったけど、お屋敷の中に入った。

 

 うん?嫌な視線が復活した。どうも俺達が邪魔の様だな。

 けれど今はそれどころではない。

 

「ミケさんや、なんでお屋敷の中に入っていくんだね」

「だって、バルガスさんとお姉ちゃんが、今日はお屋敷に泊まってって言ったよ!」

「えー!」

 

 おい、ミケさんや。あなた馬車の中でバルガス様とビアンカ殿下と何を話していた。

 こっちの斜め上で物語が進んでいるぞ。


「ほほほ、そういう事ですよ。サトー殿は命の恩人。今日は泊まって行きなされ」

「サトーよ、こういった申し出は受けるが良いぞ」

「……、仰せの通りに。ビアンカ殿下、バルガス様」

「うむ。それが良かろうぞ、サトーよ」


 ゆっくり冒険者生活するはずが、三日目にして貴族のお屋敷にお泊まり。

 ああ、これは嵐の予感がする……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る