第九話 戦いの後始末と、どろどろミケさんにシルさん

「えーと。シル、この辺に残りの魔物はいるか?」

「大丈夫だぞ主人。この辺には何もいないぞ」

「それはよかった。ミケ、シル。着替えを出すから川で汚れを落としてきなさい」

「はーい!」

「分かったぞ、主人」


 シルに辺りを確認してもらい危機が去ったのを確認し、ミケとシルに汚れを流すように言った。

 二人とも元気よく返事してくれてよかった…

 だって、ミケの可愛いお顔とシルの真っ白な毛が、返り血で酷い事になっていて、とても人前には出せません……

 二人を送り出すと、隊長っぽい人が俺に話しかけてきた。


「どこの誰かは存じませんが助かりました。隊長としてお礼します」

「いえいえいえ、困った時はお互い様です。あ、俺はサトーと言います」

「サトー殿、この度は本当に助かった。危うく全滅することも考えた位だ」

「みなさんが無事でよかった。ところでこの街道はこんなに危険なのですか?」

「いや、普段はとても安全な街道だ。出てくる魔物も弱いものばかりだ。ゴブリンが上位種も含めて集団で襲ってくるなんて、ここ数年でも初めてだ」

「え、そうなんですね。でも確かに今まで遭遇した魔物は弱いものばかりでしたし」


 隊長さんと話をしていると、こんなにゴブリンが出てくるのは初めてだという。

 何かあったのかな?


「おにーちゃん、お着替え終わったよ!」

「おっとと」


 と、そこに着替えが終わったミケが飛びついてきた。

 うん、いつもの可愛いミケに戻ったな。

 シルも綺麗になってきた。ちなみに大きさは元の大型犬位に戻っています。


「お嬢ちゃんお帰りなさい。お嬢ちゃんとっても強いね」

「えっへん!」


 隊長さんがミケを誉めると、ミケは腰に手を当ててドヤ顔です。

 その様子に、殺伐としていた雰囲気もほっこりしました。


「隊長さん、この子はミケで、白いオオカミはシルです」

「ミケちゃんにシルか。可愛いのにとっても強い。そしてサトー殿が大好きなのだな」

「うん!」


 隊長さんに二人の事を紹介したが、三日前の頭すりすり事件を覚えているようだ。

 ミケは元気よく返事をしたが、俺はとっても恥ずかしい……


「隊長さん、この後はどうしましょうか?」

「怪我した騎士の手当てをして、ゴブリンの処理をする。幸にして重傷者はいないが、ゴブリンの血の匂いに誘われて他の魔物が来たら大変だ」


 確かに他の魔物が来たら大変だ。他の旅人も襲われるかもしれない。


「ここまできたので、最後まで手伝います」

「何から何まで申し訳ない。今は手が足らないので助かる」

「主人も手伝うなら、我も手伝うぞ」

「ミケも手伝う!」


 手分けして作業を行う事になった。

 負傷者の手当てと並行してのゴブリンの処分。

 ゴブリンは利用する場所がないとの事で、討伐部位の右耳と魔石を取ったら、穴を掘って燃やして埋めるそうです。

 魔物には魔石が取れるらしいのですが、もう少し勉強が必要だな。


「穴掘りは任せて! お兄ちゃん、地面掘る道具を出して」

「なら、ゴブリンの解体と穴へ捨てるのは我がやるぞ」


 ミケとシルが立候補したのでミケにスコップを渡してやると、あっという間に大きな穴を掘っていた。

 そしてシルもザクザクとゴブリンを解体して必要部位を取ったら、ミケが掘った穴の中にぽいっとしている。

 あっという間に、処理が進んでいく。

 ……ゴブリンはあの二人に任せよう。

 俺と隊長は見合って、無言で同意した。


 俺は怪我した騎士さんの治療を始めた。

 ゴブリンの持っていた武器での怪我が殆どで、鎧を着ていたからか骨折までしている人はいなかった。

 アイテムボックスの中に入っていた消毒薬や包帯を使って、騎士さんの手当てを行なっていく。

 手当ても順調に行き、残り一人になったところで、急に背中が熱くなった。

 騎士の皆さんも唖然としていたので、熱がする方を向いてみたら……


 ゴー!

「シル凄い!」


 そこには、ゴブリンの死体が入った穴に向かって炎を吐いているシルさんの姿が!

 おい、シル! オオカミなのに火を吐くのかよ!

 ミケは炎を吐くシルに大喜びなのだが、俺は他の騎士さんと一緒にポカーンとしていた。

 やがてゴブリンの焼却が終わり、今度はミケが物凄い勢いで穴を埋めていた。

 

「お兄ちゃん、終わったよ!」

「主人、全て終わったぞ!」


 ミケとシルがゴブリンの処分が完了したと報告してきたが、騎士の人と共に俺も唖然としていた。

 ミケさんにシルさんよ。あんたら物凄いよ……

 そしてミケは穴掘りの土で、シルはゴブリンを解体した時の血でまたしてもどろどろに汚れている。


「ミケ、シル。ありがとう。とっても助かったよ。でもまた二人とも汚れちゃったから、洗ってきな」

「はーい!」

「分かったぞ、主人」


 着替えを持って川にいく二人を隊長さんと共に苦笑しながら見送った。


「やることは凄いのですが、まだまだ子どもで……」

「いえいえ、そこが二人の魅力ですよ。討伐部位の回収は我々で行いましょう。誰か手の空いたもので行けるものはいるか?」

「私が行きます」


 手当ても終わったので、これでひと段落。っと思ったら、隊長さんが一言。


「御館様が、ぜひサトー殿にお会いしたいと申しております。申し訳ありませんが、お時間頂けないでしょうか?」


 もしかして、これは何かフラグ発生の予感?

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