第157話 返信はどうしますか?(※前半まで◆)

「………無敵艦隊アルマーダ全艦、転移完了!」


 海賊船クルーエル・ラビ号を追いかけ、デスライクード号率いる五百隻もの無敵艦隊アルマーダは、二度目の瞬間転移航行を実施していた。


 しかし、目的地に着いたものの、何処を探しても目当ての海賊船の姿は見当たらない。一体何処へ消えてしまったというのか。


「海賊船が消えただと? 追跡魔術の反応があった空域へ転移したのではなかったのか?」

「追跡魔術の信号はまだこの付近で探知され続けています。奴らは必ず近くに居るはずですよ」


 ライルランドとヴィクターは、空に潜む海賊船を見つけようと、望遠鏡を手に取り四方の隅々まで目を凝らした。


 ――そして、ヴィクターの望遠鏡が、青く澄み渡る空の上にポツリと浮かんでいる一匹のドラゴンの影を捉えた。望遠鏡の焦点を合わせると、そのドラゴンは黒炎竜で、背中には並んで跨る二人の人物の姿が見える。


 一人は、純白のウエディングドレスを着たエルフの娘。――そしてもう一人は、蒼い髪を風になびかせ、蒼い瞳でこちらを見据える少女の姿。


「くくくっ……やっと見つけたよ、ラビリスタ君」


 ヴィクターは望遠鏡から目を離し、ニヤリと笑みを漏らす。


「なるほど、使い物にならなくなった船を捨て、仲間も捨てて自分一人だけドラゴンに乗って逃げようという腹か……やれやれ、全てを失ってまで逃げようとするなんて、君は本当に諦めの悪い子だ。いい加減、かくれんぼは終わりにしようじゃないか、ラビリスタ君」


 ヴィクターが手を上げてパチンと指を鳴らすと、デスライクード号の船首にある砲門が開き、中から押し出された大砲が、前方を飛ぶ黒炎竜へ照準を合わせた。同時に、甲板上に居る兵士たちが一斉にライフル銃を構え、黒炎竜を狙う。


「ゲームは終わりだ。いい加減、君も現実を見たらどうかね?」


 ヴィクターは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、それから近くに居た船員の一人にこう命じた。


「あの竜に向かってロールス信号を打て。内容は――」



『おいラビ、無敵艦隊アルマーダ旗艦の方から、何か信号が送られてきてるぞ』


 グレンの背中の上、ラビの首元に下げたペンダントに転移していた俺は、遠くに見える漆黒の巨艦からチカチカと放たれるフラッシュを見て、ラビにそう伝えた。


「あれは……ロールス信号です!」

「サラさん、送られてきた信号を解読できますか?」

「は、はい……ええと、”アワレナ、コムスメニ、ツグ。タダチニ、コウフクセヨ”」


 サラは遠くに居るデスライクード号から不規則に瞬く光に目を細め、解読した内容を言葉にしてゆく。


『なるほど、降伏勧告か。奴ら完全に俺たちをナメてかかってるな……どうするよ、ラビ?』


 俺がそう尋ねると、ラビは考え込むように顎に手を当てて黙り込む。


「最後に、”コレガ、サイゴノ、ケイコクダ” と付け加えています。こうなったら、もう降伏するしか……」

「あの……こんなこと言うなんておこがましいかもだけど、ボクも降伏した方がいいと思う……だって、あれだけの数の大砲、身に受けたら絶対痛そうだし……あれだけの数が襲って来られたら、ボク、ラビちゃんを守りきる自信が無いよ……」


 大艦隊を前に、すっかり弱気になってしまうサラとグレン。弩級の戦列艦五百隻に対して、こちらは黒炎竜一匹のみ。戦力差がどうこうというより、もはや完全な大多数によるイジメで笑えてくる。


 ラビは少しの間目を閉じ、何かをじっと考えているようだったが、やがて思いを固めたのか、その蒼い目を開いて、言った。


「サラさん、ロールス信号は打てますか?」

「はい? ……え、ええ。難しい単語や長文でなければ打てますけど……」

「それで大丈夫です。師匠、師匠の転移しているこのフラジウム結晶のペンダントを、魔力で光らせることはできますか?」

『ああ。小型ランプくらいの明るさなら出せるぜ』

「それで十分です! では思い切りこの結晶を光らせてください。サラさん、このペンダントを敵側に見えるように持って、結晶から放たれる光を手で覆ったり離したりして、今から私の言う言葉をロールス信号で打ち返してください!」

「は、はい!」


 サラはラビの言う通りに俺の転移した結晶のペンダントを持ち、敵に見えるよう掲げて見せる。


「じゅ、準備できました! ……返信はどうしますか?」


 そして、ラビの言う言葉の一言一句を逃すまいと構えるサラに向かって、ラビはたった一言――


「”馬鹿め”」

「………はい?」


 あまりに率直な一言に、サラは一瞬ポカンと呆けてしまった。


「”馬鹿め”と、伝えてください!」

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