第69話 嵐が過ぎ去って(※途中から◆)
――と、船上が歓喜に沸き立っていたその時、唐突に湖の水面が揺れ始め、荒々しく波打ち始めた。
「なっ、何? 地震⁉」
何が起こったのかと、慌てふためくニーナや海賊団たち。
揺れは更に大きくなり、突然湖の水面が大きく盛り上がると、ザバァッと白い水しぶきを上げて、湖から巨大な塊が姿を現した。
デカい! 横幅五十メートルはあるだろうか? まるで湖に島が浮上したのかと見紛うほどに大きなその塊は生き物らしく、深い息遣いが聞こえ、両端に赤く光った二つの目がこちらをギロリと覗き込んでいた。
「あっ、ウラカン様っ!」
湖から現れた巨大生物を前に、驚いて声を上げるラビ。……ん? いま彼女、「ウラカン様」って言った? ……ってことは、こいつがこの大陸全土に嵐を吹き荒れさせた魔物なのか?
正直、俺は天候をも操る魔物と聞いて、もっとこう風神雷神様みたいなイカつい顔をした化け物を想像していたのだが……思ったよりのっぺりした顔で、オオサンショウウオみたいなその見た目は、見方によっては可愛く見えてこなくもない。
『……ってか、ラビもこの魔物のことを知っていたのか?』
「あっ、はい! 一度洞窟でお会いしてましたから……」
どうやら知らず知らずのうちに、ラビはこのウラカンという魔物とも顔見知りになっていた模様。いやいや、お前こんな奴と相まみえて本当によく生きて帰って来れたな! お父さんある意味ビックリだよ!
などと思っていると、こちらを睨んでいた魔物ウラカンが、その巨大な口をゆっくりと開く。途端に、魔物の声が俺たち全員の頭の中にハッキリと流れ込んできた。
「――人間ノ娘ヨ、ヨクゾコノ大陸カラ悪シキ病原ヲ取リ除イテクレタ。ソレマデ地下に渦巻イテイタ瘴気モ消エ失セ、我ノ体調モスッカリ回復シ、力ノ暴走モ治マッタ。コノ大陸ニ吹キ荒レテイタ嵐モ、間モナク止ムダロウ」
ウラカンの話を聞いた限り、どうやらこの大陸を覆っていた嵐は、こいつの体調不良が原因だったらしい。体調崩したくらいで大陸規模の嵐を発生させてしまうとは、人騒がせな魔物も居たものだと内心思いながら、俺はラビとウラカンの会話を聞いていた。
「それは良かったです! ウラカン様も、また力の暴走を起こさないために、ぐれぐれも体には気をつけてくださいね」
「フン、言ワレズトモ分カッテオルワ。……人間ノ娘、オマエニハ大キナ借リガデキタナ。我ガ住処デアルコノ大陸ヲ危機カラ救ッテクレタコト、心ヨリ感謝スル。コレカラ先、
ウラカンより感謝の言葉を賜ったラビは、目をキラキラさせながら両拳を握ってガッツポーズを決めると、元気良く声を上げて答えた。
「ありがとうございますっ! 私、ウラカン様のことも絶対忘れませんから!」
「ダカラ、ソンナ大声デ叫ブデナイ! 耳ニ響クワ!」
「あっ、ごご、ごめんなさいぃっ!!」
口をへの字にして呻くウラカンに、慌ててペコリと頭を下げるラビ。……いや、ラビの謝る声が更にデカいせいで、余計にウラカンを苦しめているのだが……
天候を自由に操る最大最強の魔物ウラカンすらも困らせてしまう少女――という何ともシュールな光景を前に、俺やニーナや海賊団たちは、終始ポカンと
――それから暫くして、それまで大陸全土の空を覆っていた分厚い雲が途切れて遠退いていき、群青色の空が、ウラカンの居る湖の上空を中心として広がっていった。
そして、すっかり雲が無くなり晴れ渡った空の地平線上に太陽が顔を出し、美しい朝焼けが、大陸全土を温かく照らしていったのだった。
〇
「おぉ……こいつはすげぇ、本当に晴れてきやがった! 太陽の光を拝むのなんて何時ぶりだろうなぁ…… ねぇ、旦那?」
湖から少し離れたところを飛んでゆく、一隻の貨物船。その貨物船の舵を取っていた船員が、晴れ渡る空を見て驚きの声を上げた。
この貨物船も、長続きする嵐のせいで、ずっとレードスの港町に足止めを余儀なくされていたのだが、少し前から雨風がピタリと止み、錨を上げて出港する頃には、空を覆っていた雲も跡形なく消えて、スッキリ晴れた青空が広がっていた。
すると、晴れた空を見て喜ぶ操舵手の隣で、同乗していたもう一人の男が、冗談めかしく答えた。
「……そりゃあ、天の神様が俺たちの願いを聞き届けてくれたのだろうよ」
それから彼は、今度は誰にも聞こえないくらいに声を落とし、呟くようにこう続ける。
「――もしくは、地に住む魔物が、一人の少女の願いを聞き届けたか……」
その男の手には望遠鏡が握られ、大陸のある一点を見つめていた。望遠鏡のレンズには湖が映っており、水面から顔を出した巨大な魔物ウラカンが、一隻の船と別れを告げて再び湖へ帰ってゆくところだった。船の上では、蒼髪の少女が、背を向けるウラカンに向かって大きく手を振っているのが見える。
一連の様子を見届けると、彼は望遠鏡を覗くのを止め、顔を上げた。その顔の
「ふふ……『決して
「そういや旦那ぁ、アンタの行き先をまだ聞いてなかったけど、どこまで行くつもりなんだい?」
貨物船の操舵手が、ヨハンに向かってそう尋ねてくる。自分の船を持たないヨハンは、偶然出航しようとしているこの船を見つけ、自分も乗せてほしいと船員に頼み込んだのだった。
「なぁに、こっちは相乗りさせてもらっている身だ。何処で降りたいなんて我がまま言う気は無い。アンタらの立ち寄る場所で適当に降りるさ」
ヨハンはそう言って、船縁の手すりに背中をもたれると、真上に広がる蒼い空を仰ぎながら、独り言のように言葉を漏らす。
「……ラビリスタ・
そうして彼は、かつて冒険を共にした、
「そうだろ? なぁ、シェイムズ―――」
※この時点での俺(クルーエル・ラビ号)のステータス
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【船名】クルーエル・ラビ
【船種】ガレオン(3本マスト)
【用途】海賊船 【乗員】84名
【武装】8ガロン砲…20門 12ガロン砲…18門
【総合火力】1500 【耐久力】600/600
【保有魔力】2100/2100
【保有スキル】神の目(U)、
【アイテム】神隠しランプ
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※航海を重ねて、ステータスも若干上がっています。
<最後に、第三章を最後まで読んでくださった皆様へ>
こんにちは、クマネコです。アズールランナー第三章までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。いつかコケるコケると言っておきながら、どうにか三章も毎日投稿でクリアすることができました。登場人物も多くなってきたので、登場人物を整理する回を冒頭に追加しています。読んでいて「コイツ誰だっけ?」となった時はそちらをご参照ください。話を進めて新キャラが出てきた際は、都度更新しようと思っています。(※ネタバレ有りなので注意です)
さて、物語も中盤(のはず……)に差し掛かって、この先話がどう二転三転するのか自分でもよく分かっていないほどにグダグダではありますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。第四章でもまたお会いしましょう。
クマネコ 2023/2/8
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