第32話 アウトローですっ!
それから、エルフたちは丸三日間、俺の修理を懸命に続けた。おかげでズタズタだった帆はすっかり
ただ、帆はツギハギだらけで、船体にはいくつもの当て木をされ、見た目はかなり痛々しくなってしまったのだが……
「船長! 船の修理、完了しました!」
「おっけ〜。じゃ、さっそく
「「「イエス・マァム!」」」
俺のクルーエル・ラビ号と、ニーナのカムチャッカ・インフェルノ号、それぞれに分かれて乗組員たちが乗船し、出港準備に取りかかり始めた。メインマストにある
(ああ、やっぱ船は乗組員が居てこそだよなぁ……)
俺はここで改めて、マンパワーの重要性を理解した。ラビ一人のときとは違い、人手が多ければ仕事の速さも違う。何もしなくても出航の準備をこなしてくれるのは、こちらとしてはありがたい限りだ。一応俺の存在はエルフたちには隠しているから、逆を言えば俺の側から自由に動くことができない状況ではあるのだけれど……
ラビの正体のことも、周りにはバレていないようだ。まぁ、一国の王に仕える貴族の娘が、こんな辺境地に一人でいるなんて誰も考えはしないだろうけど……
――しかし、俺が修理されている間、
「ニーナ船長が保護したあの娘、本当に一人だけでこの船に乗っていたらしいぜ」
「あぁ、みたいだな。この船を
「この船をあんな小娘一人で
「……まさか、
「ありゃ伝説だろ? しかも何百年も昔の話だぜ。信じられるかよ」
(まったく、好き放題に
俺はあきれながらも、奴らの根も葉もない
良からぬ噂が絶えず、周りからも注目されてしまっているラビだが、そんな彼女は今、どうしているのかというと……
「いや~~~~ん! この服もめちゃカワじゃ~~~~ん! で、頭にこのチェックのカチューシャをはめれば――はい、一丁上がり~~~!」
「あ、あの………」
ニーナに船長室へ連れて行かれ、衣装棚にある衣服を片っ端から試着させられていた。ゴスロリからメイド服、チャイナドレス、
「この衣装全部そろえたヤツマジ神じゃね⁉ サイズピッタリだし、どれもめっちゃカワイイし~~。この船の船長センスあり過ぎだろ!」
衣装棚にある服のチョイスをベタ
「やっぱラビっちは何を着ても似合うんだよな~」
「あ、あの、そろそろ元の服を着させて――」
「あ! 衣装変えたんだったらさ! 髪型も変えた方が良くない? 私、色々と髪の
「あうぅ………」
ラビは首根っこをつかまれた猫のように連れて行かれ、鏡の前に立たされると、それからまた長い時間ギャルエルフに散々蒼い髪を
ようやく元のセーラー服(これも立派なコスプレなんだが……)に戻されたラビは、ニーナに連れられて
俺の船の上では、ニーナの仲間である多くのエルフたちが働いていて、皆が各
そんな賑やかで活気のある光景を、ラビは
「ラビっちはさぁ、こういう船に乗るのは初めてな感じ?」
ラビを傍で見ていたニーナがそう尋ねてきた。
「あっ、いえあの……それもそうなんですけど、こうして一隻の船にたくさんの人が乗って、みんなで協力して同じ目的地へ進んでいくのって、なんだかすごいなぁって思って」
初めて見る光景を前に、湧き上がる興奮を上手く言葉にできないラビ。一方でニーナはそんなラビを見て、「ヤバ……この子めっちゃ
「そうだね~。船っていうのは、乗組員一人一人が与えられた仕事をきちんと
一隻の船を持つ船長として、過去の体験談を語り始めるニーナ。その話はどれも
「――ってなことがあってさ~。大嵐に
……それにしても、いくら優秀な船長であるとはいえ、どれだけ壮絶な体験をしてきたのかニーナが語って聞かせても、まるでバイト先での
「そんなことがあったんですか⁉ 絶体絶命じゃないですか!」
「そ。まぁでも、それでもどうにか振り切って港までたどり着けたから、ぶっちゃけ運が良かっただけだと思うんだけどね~。乗組員半分くらい死んじゃったけど」
「幸運どころか奇跡ですよ! そんな状態で戻って来られるなんて、すごいです!」
しかし、そんな軽々しい口調で語るニーナの体験談を、ラビは目をキラキラ輝かせながら聞き入ってしまっていた。尊敬の眼差しを向けるラビに、ニーナも得意顔である。
「私も、あなたみたいな強くてアウトローな女性になってみたいですっ!」
「あははっ、ウケる。それだと私たちは法を
笑いながら言葉を返すニーナ。そういえば、俺の乗組員になると願い出てきたときも、ラビは同じことを口にしていたっけ。強くてアウトローな女性を目指したいラビにとって、いくつもの困難な旅を乗り越えてきたニーナは、自分の理想的な姿を体現した存在として目に映るのだろう。
「でも、何だかうらやましいです。信頼できる仲間に囲まれて、自分の船まで持てて、それで世界を自由に駆け回れるなんて、夢みたいです」
そう言って、ラビは俺の前を進むカムチャッカ・インフェルノ号を眺める。
「そうは言ってもさ~、船長も楽じゃないよ。あいつらの食い
そこで俺はふと気になって、前を進むニーナの船を鑑定で確認してみた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【船名】:カムチャッカ・インフェルノ
【船種】:ブリッグ(2本マスト)
【用途】:狩猟船 【乗員】:105名
【武装】:旋回砲…6門
【総合火力】:150
【耐久力】:770/770
【船長】ニーナ・アルハ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
なるほど、火力は低くて小型な分、耐久力が高く、小さな船なのに大勢の乗組員が乗り込んでいる。小型であれば速度も出るし、人員が多ければそれだけ機動性も高くなる。「
これまでニーナと共に過酷な航海を続けてきたせいか、船体は所々破損しているところもあり、俺と同じような応急処置を
「まぁでも、ルルの港へ行けば、またシューセンする資材も手に入るだろうし、とりまリベナント小大陸まで急ごっか~」
こうして、俺はニーナに連れられ、再び別の新しい大陸へと移動することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます