老兵は死なず、ただギルドの受付になるのみ~長年勤めた王国をリストラされた老英雄は、ギルドの受付に転職して無双する~
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第1話英雄の追放
「ジークフリート、お前を騎士団長の任から解く」
突如、呼ばれた王宮でわしは、いきなりそう宣言された。ここは、マッシリア王国。国王陛下の即位1周年の記念行事中だ。
わしは、ジークフリート=オートリ―。マッシリア王国に仕える老騎士団長。いま、30年間仕えた国から突如、解任を突きつけられた。
「理由を教えてくださいませんか、国王陛下?」
若き主君、ウルベルト2世は、こちらを見下したかのように笑う。
「お前は、もう歳だ。今年、65だろう。かつて、伝説の英雄と言われたお前も、後輩に道を譲るべきではないかな。老いたお前では、もう国防を担うことはできまい。潮時だ」
「老兵は死なず、ただ去るのみ、ですか」
「ああ、勇退だ。王国も世代交代を考えねばなるまい」
白髪の髪を揺らしながら、わしは怒りに震えた。
だが、突然のリストラには、深い意味がある。それは、わしが国王陛下の弟君であるアルーバ大公の後見人だからだ。アルーバ大公は、英明で国王陛下よりも評価が高い。つまりは、政敵。その敵陣営の中心人物のひとりである自分を、失脚させることが目的なのだろう。まさか、ここまで愚かとは。
「拒否権は、ないのでしょうな?」
「次は、勧告ではなくなるぞ。第一次大陸戦争の英雄であるお前に、せめてもの情けをかけているのだ」
残念なことに、すべての人事権は国王が持っている。完全なチェックメイト。
「
「そうか、それはよかった。年金はたしかに出すぞ。田舎に帰って、農作業でもしながら、ゆったりと隠居生活を過ごしてくれ。皆の者、英雄の退場だ。拍手で送ろう」
無機物のように、乾いたセリフだった。顔には嘲笑が浮かんでいる。
まさか、30年仕えた祖国に、ここまで屈辱的な終わり方になるとはな。
憤慨しながらも、なんとか王宮を後にする。
こんな場所からは、できる限り早く離れたい。
王宮を後にして、すぐに自宅に帰る。ただ、ここは官舎。必要最低限の私物だけを持ち出して、わしはすぐに、レンタル馬車の店へと向かう。妻は2年前に亡くなった。軍人で仕事一筋の人生を送っていたのだ。必要なものなどほとんどない。身支度はすぐに終わった。
夜だからほとんど人がいない馬車の店で、「運転手1人と馬車を貸し出してくれ」と頼みこむ。少し高額の金を請求されたが、構わない。もう、使い道もないからな。
「それと、同じ目的地に向かう客が4人いる。乗合になるがいいか?」
「かまわない」
※
馬車は、夜の森を進んでいた。おかしいな。普通ならこんなところは通らない。そもそも、夜の森は視界も悪く、魔力で道を照らしても、盗賊などに襲われる危険性もある。
つまり、こいつらは何かを企んでいる。そう直感が教えてくれた。
「おい、馬車を止めるんじゃ」
わしは叫んだが、運転手は不敵に笑うばかりだった。
3人の客も笑いだす。
何が起きたのかわからない様子の赤い髪の女は、いぶかしげにこちらを見つめてた。
やはりか。おそらく、こいつらは国王が仕向けた刺客だろう。邪魔なわしを、確実に排除するためには、暗殺してしまえばいい。人気のない森に連れ込んで、暗殺してしまえば、失意の後の行方不明で片が付く。運転手も含めて4人の暗殺者なら、普通の老人を暗殺するなど朝飯前だろう。
そう普通ならば。
ずいぶんと、なめられたものだ。そして、フードを被っていた運転手はよく見ると、見覚えがある。騎士団1番隊隊長・マルス。騎士団のナンバー5であり、わしを除く騎士団では2番目の剣の使い手だ。
「騎士団長殿。不本意ながら、お命をいただきます。恩師であるあなたを殺すのは、不本意ですが」
「不届きな弟子だ」
やはり、国王派は確実に自分を殺すつもりらしい。考えるだけでも、最高クラスの剣の使い手を派遣してきたわけだからな。
「あんたは老いた。去年の剣技大会、おぼえていますか、おい、無視をするなよ、老いぼれ? あんたは無残にも俺に惨敗した。さらに、ここには4人いる。全盛期ならまだしも、今のあんたじゃ逃げることもできまい」
「……」
わしは、馬車を飛び降りる。暗殺者たちは、馬車を止めて、剣を構えながらこちらに向かって飛び出してきた。
「おら、死ね。お前の首には1000万ルビーの懸賞金がかかっているんだよ」
ひとりの若い雑魚がそう叫びながら、突っ込んでくる。まさか、その程度の懸賞金で、わしを捕まえる気か?
カンと、一度だけ剣をかわした。基本となる体重移動すらできていない。剣に全くの重みがない。一刀で簡単に斬り捨てることができた。
「ちぃ」
残った3人が一斉にこちらに向かって飛び掛かってくる。
「一刀流・
カウンターでこちらの剣が賊たちを襲った。
※
マルスの剣が勢いよく宙を舞う。マルスは、赤い髪を振り乱しながら、絶望した表情で尻もちをついて、必死にあとずさりしていた。
「なんで、なんで勝てないんだよ」
王都では女性にも人気のある美青年は、情けなく鼻水を垂らしていた。
「いいか、若造。教えてやる。
剣のみねで、マルスの顔面を強打し、暗殺者集団を完全に無力化させた。さすがに、元・教え子を殺すには忍びなかった。
虚しさしかない。今まで培ったものは何だったのか。月に聞いても、何も答えてくれなかった。
後方で拍手が聞こえる。
追手か? 剣を手にしたまま、振り返ると、赤い髪の背の高い女性が笑っていた。
「誰じゃ?」
「その剣技、さすがは伝説の英雄・ジークフリート。老いてなお、野獣のような闘争心を失っていない。さすがだわ」
「暗殺者の一味か?」
「いえ、ただの客よ。でも、よかったわ。あなたが負けたら、たぶん、私も巻き込まれて口封じされていたと思うから」
「……だろうな」
「ねぇ、あなた? 私と一緒に世界を変えたくない?」
「なっ」
「田舎に戻って畑仕事をするつもり? それとも、一緒に世界を変えるのか。よかったら、私のギルドの受付係になってみない?」
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