人間嫌いの大賢者に創られた最強の魔法人形は人間に憧れて旅に出る

八神 凪

人間嫌いの賢者

プロローグ

 


 ――かつてこの世界には魔王と呼ばれる存在がいた。


 世界を支配せんと侵攻を始めた魔王により大地は荒廃し、空は翳り、海は荒れ狂い、魔物が徘徊する闇の時代が来ていた。


 人間を含む全ての生き物が絶望の淵に立たされ、魔族による蹂躙で何もかもが無くなってしまうと誰もが思っていた。

 

 だが、そんな暗黒時代も『勇者』と呼ばれる英雄の登場により終わりを告げる――



 ◆ ◇ ◆



 【馬鹿な……力は完全に我の方が上のはず……!】

 「はあ……はあ……確かにそうかもしれない……だが部下を使い捨てるお前が、ここまで辿り着くのに協力してくれた人たちの想いを背負っている俺達に勝てるものか……!!」

 「受け取れ、ウェイズ、カレン! <金剛力ストレングス>」

 「サンキュー、マクダイル! はああああ!」

 

 【人間風情が! 紅蓮の炎に焼かれて消え去れ!】


 「カレンに続く! プリエ、防御魔法を!」

 「はい……! <神聖の光クリスタルカーテン>」


 勇者ウェイズと格闘家カレンに攻撃力を上げる魔法をかける賢者マクダイル。

 それと同時に二人が踏み込んでいくと魔王の口から吐かれた炎が四人を包もうと荒れ狂う。

 だが、前に躍り出た光の神官プリエの防御魔法が暴力的な力を持つ炎を無理やり曲げる。


 「熱っ……!?」

 「プリエ……!」

 「行ってください! ぐ……うう……」

 「急げ! 魔法を破られたら次まで時間がかかる!」

 「……ああ! マクダイル援護をッ!!」

 「任せろ! 『響け、禁断の声。耳を傾けし其の者へ一切の慈悲無く――』」

 【その魔法……貴様……!? ぐお!?】

 「消えろ魔王……!」

 「終わりだよ!」


 マクダイルが詠唱を始めると魔王がうろたえ始め、その隙を逃すまいとウェイズとカレンが猛襲を仕掛ける。


 マクダイルの詠唱……それは古代に伝えられた禁断の魔法。

 神の雷とも悪魔の業火ともよばれるその一撃は、生きている者を平等に消し飛ばす――


 【や め ろぉぉぉぉ!】

 「ぐあ!?」

 「きゃあ!?」

 「くっ……や、破られる……!!」

 「『――その存在を虚無へと返し、一切を否定せん』<煉獄の楔ラグナロク>!」


 マクダイルが冷や汗をかきながら両手を前に突き出すと、襲い掛かって来た魔王に無数の真っ黒な鎖と輝く鎖が飛び出した。

 全身にただ絡みつくという訳ではなく、魔王の身体を貫きながら縫い付けるように絡んでいく。


 【ぐあ……があああ!? う、動けん――】

 「やれ、ウェイズ……! カ、レン……!」

 

 全身から血を噴きださせてもがく魔王。

 対するマクダイルは目・鼻・口から血を流しながら鎖を操りながらウェイズとカレンに叫ぶ。


 「うおおおおお!」

 「死ぬなよマクダイル! 終わりだ魔王ネクロディア!」

 【おのれぇぇぇぇ!? ぐあ!? 小娘が!】

 「なんの……!!」


 カレンが飛び上がり、三メートルはあるネクロディアの顎を打ち抜く。魔王の反撃で殴られながらも回転してケリを叩き込む中、ウェイズが左腕を切り落とした。


 【なにが仲間だ! なにが協力だ! 貴様等の本質は嘘と裏切り、我ら魔族よりも醜い存在がぁぁぁ!】

 「……だとしても、一方的に蹂躙されるわけにはいかないんだよ……!!」

 

 ウェイズが右腕の攻撃をかいくぐり心臓にウェイズの剣が刺さり、背中まで貫いた。


 【……見事……。だが、我は死なん……いつか必ず復活して再び地上を……。光あるらくえ……ん……を……】


 ウェイズの顔に爪が触れる直前、ネクロディアの身体は灰となって崩れた。


 「終わった……のか……」

 「いてて……そうみてえだな! やったなおい!」

 「はあ……はあ……。凄いです……! ついに魔王を!」

 「プリエ、はしゃいでいるところすまないが僕を治してくれないか?」

 「ああ!? すみません!」

 「はは! ありがとうマクダイル、おかげで助かった」

 「ふん、お前しかその剣を扱えないからな。トドメを譲ってやったんだ」


 へたりこんで悪態をつくマクダイルに手を出して笑うウェイズ。


 「さ、終わったことだし帰ろうぜ! あたしは腹が減ってきたよ」

 「この緊張の中で空腹かよ!?」

 「ふふ、カレンらしいですね。さ、治療も終わったし帰りましょうか!」

 「お、ちょうど陽が上ってきたな」

 

 マクダイルが立ち上がり崩れた屋根の瓦礫の隙間から入ってくる陽光に目を細めながらそう口にするとウェイズも同じ場所に視線を移して笑う。


 「魔王を倒した日にはうってつけじゃないか、なあ?」


 その言葉に全員が頷き、笑い合い、そして凱旋を果たす。







 ――だが


 ……その後、一年も経たず彼等が『世界を救った英雄』として姿を現すことは終ぞ、無かった――


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