第16話 赤竜おじさま 2
「ルカがあまりにも無鉄砲だからね。おいちゃんたちも気が気がじゃないのさ。」
赤竜おじさまの右手が、優しく私の頬を撫でた。ひんやりとした掌が気持ちいい。おじさまの金色の目は、愛しいものを気遣うように細められている。
――もしかして今回のことで、赤竜おじさまや神竜様にも心配をおかけしてしまったのだろうか。
そして「魔力欠乏を起こした状態でも、無鉄砲さが変わらないとは驚いたよ。」と、カラカラと笑うのだった。
強い魔力を持って生まれた者ほど、魔力欠乏を起こすと途端に臆病になるものなのだとか。「だから、油断した。」と言われてしまった。いやほんと、浅慮で申し訳ありません……。
「特に、ルカはとびっきり魔力が強かったからね。自分が下手な竜種より魔力が高い自覚、ないだろう?」
思わずきょとんとしてしまう。「えーと?」と頭の中を整理しようとしても、情報が足りな過ぎて混乱するばかりだ。
「おいちゃんはね。これでも上から数えて4番目くらいに魔力が強い竜種なんだ。――ああ、もちろん、魔力が強いことと、竜種として強いことはイコールではないけれどね。大事な目安にはなるものさ。」
先ほど赤竜おじさまは『魔力を半分も持っていかれた』と言っていなかったか。それが私の器を満たす量だとして、果たしてどのくらいの量なのか――
「そうだね。ざっくりいうと、竜種の中で、上から7番目と同じくらいかな。」
パードゥン? いや聞こえているけど。頭が理解を拒絶する。
『高位竜種の上から7番目と同じくらいの魔力量』って、もうそれ戦略兵器じゃないかな……。さすがになんだか眩暈がしてきたぞ?
「そう、ルカは今、本当はとても危うい状態なんだよ。だから少なくとも、以前と同じくらいの精度で魔力制御ができるようになるまでは、おいちゃんがストッパーの役割を引き受けるってことさ。」
なるほど納得である。神竜様に命じられてストッパーを引き受け、父様母様とタイミングを合わせてこちらに来たらしい。……あっ! そうだ神竜様! もう礼拝の時間は過ぎてしまったけれど、声は聞こえるかしら?
ベッドの上で両手を組み、そっと目を瞑る。久しぶりの神託が聞けるかもしれないと、ドキドキしてしまう。
『神竜様、聞こえていますか……』
返事はなかった。がっくりと両肩が落ちてしまう。そういえば、魔力欠乏よりも前に神託が届かなくなったんだっけ。
魔力が強くなっても、それは変わらないということなのかな。――それが高位の竜種並だとしても。
ちらり、と赤竜おじさまの目を見る。もしかして、赤竜おじさまは今回の原因とか、色々なことを知――
「――もちろん知っているよ。」
私の思考を食い気味に、赤竜おじさまが答えた。私のような単純な人間の考えることなど、お見通しということなのかな。まぁ高位の竜種だものね。
でも知っているのに、教えてくれる様子はない。いつも優しい赤竜おじさまらしくないな、と思った。
「力の強いものがなんにでも手を出していたら、力の弱いものが成長する機会を奪ってしまうだろう? だから、ギリギリまで我慢するのさ。」
なんだかそれは大変そうだな……。「子供の自立を見守る親の気持ち、みたいなものかな。」と聞いたら「そんな感じだね。」と笑みが返ってきた。
では、私の魔力を回復してくれたのは何故なんだろう? 好意が理由なら、今知っていることをもっと教えてくれてもいいはずだ。でもそれはしない。つまりそれは――
「今起こってることを解決するのに、この力が必要になる、ということ……?」
この、高位の竜種並と言われた力が必要になると。そういうことなのかな?
赤竜おじさまは、にこりと微笑んだまま、何も言ってはくれなかった。
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