第31話 フェリスの告白
王宮の騎士団詰所から薬屋に帰ってくると、室内の荒れた光景に思わずため息が漏れてしまう。
「ヴァレリアさん、調薬部屋は……」
「ぐちゃぐちゃだ」
「これはまず片付けをしないと調薬どころではありませんね」
「そうだな……よしっ、私は調薬部屋を片付ける。レイラはリビングや店の方を頼む」
「分かりました。フェリスも手伝ってくれる……って、どうしたの?」
フェリスに視線を向けると、何かを考え込んでいるというよりも、何かを決意したような表情を浮かべていた。
『レイラ……話が、あるんだ。聞いてくれる?』
「もちろん聞くよ。ヴァレリアさん、片付けはフェリスの話を聞いてからで良いですか?」
「ああ、構わない」
ここでフェリス以外を優先するという選択肢は私にはなく、悩むことなくすぐに頷いた。するとヴァレリアさんも理解してくれて、私の視線からフェリスがいるだろう場所に視線を向けてくれる。
『レイラ、ヴァレリアにも話の内容を伝えてほしい』
「分かったよ。ヴァレリアさん、私が通訳をしますので一緒に聞いて欲しいです」
「分かった。じゃあソファーで話そう」
私とヴァレリアさんは向かい合ってソファーに腰掛け、フェリスは机の上に立って私に顔を向けた。
『あのね……僕は、最近の魔物の活性化や今回の地揺れ、その原因を知ってるんだ……』
その言葉を聞いた瞬間は、あまりの内容にすぐヴァレリアさんへ通訳をすることすらできなかった。だって原因を知ってるなんて、そんなの予想外すぎて……
「何で、知ってるの?」
『僕は精霊だから。落ちこぼれでいじめられて下界に落とされても、人間よりはいろんなことを知ってるんだ。……でもこれを教えたら、レイラが危険に晒されるかもしれないと思って今まで勇気が出なかったんだけど……』
その言葉をヴァレリアさんに伝えると、私が危険にさらされるという部分で眉間に皺を寄せて険しい表情を浮かべた。
「フェリス、詳しく教えてくれ」
『もちろん。まず……精霊は精霊界にいるものだと人間は思っているだろうけど、それは間違いなんだ。ずっっと昔は精霊も下界にいて、人間と助け合っていた』
フェリスが語り始めた話は今まで聞いたことがないもので、凄い話を聞いているという実感が湧くに連れて緊張から手に汗が滲む。
『しかし人間は欲深く、精霊の力を悪い方向に使うことが多くなった。たとえば戦争や暗殺などだね。それが嫌になった精霊たちは、人間を見限って精霊界に引き篭もったんだ。しかしこの世界は精霊がいなければバランスが崩れていく。実際に影響が出るほどに世界のバランスが崩れたのが、今の現状だと思う』
精霊がこの世界にいないことが原因だなんて……そんなの、解決のしようがない。この世界はこれからこんな災害が増えて、だんだんと人が住めなくなるってこと……?
突き付けられた事実に絶望しそうになった時、フェリスが躊躇いながらも口を開いた。
『……この現状を解決できるのは――レイラ、だと思う』
「え、私?」
『うん。レイラは僕が見えるでしょう? その理由として考えられるのは、レイラが精霊の愛し子の末裔だって可能性なんだ。精霊の愛し子っていうのは、精霊が産み落とした人間のことね。昔にはそんな人たちもいたんだ』
私がそんな存在の末裔だなんて……信じられない。孤児院育ちで親も分からないから、先祖なんて分かるはずもない立場だったのに。
「私がその愛し子の末裔? だとこの世界を救えるの?」
『救えるのかは分からないけど……愛し子の末裔なら、精霊界に行けるかもしれないんだ。実はこの世界には精霊界と繋がる精霊の泉っていう場所があって、そこで精霊に認められると精霊界に行けるんだけど……レイラなら、可能性があるかも』
精霊界に行ければ、直接精霊たちに下界を救ってもらいたいと説得ができるってことだよね。それはかなり可能性が高い気がする。絶対に試してみるべきだ。
『でも、精霊界に行けたとして、レイラが無事である保証はないし……精霊の泉も近い場所じゃないから、道中も危険だと思うし……』
フェリスはそう言って、未だに迷う様子を見せている。でも私の中ではもう心は決まった、精霊の泉に行きたい。
「レイラ、危険すぎる」
私が絶対にこの世界を助けると決意を固めていると、フェリスの話を全て伝えてから黙り込んでいたヴァレリアさんが、眉間に皺を寄せて厳しい声でそう言った。
「でも、可能性があるなら試したいです。このままだと皆が死んじゃうんですよ」
「それはそうだが……」
「お願いします、ヴァレリアさん。行かせてください」
「……フェリスは精霊界に行けないのか?」
確かに……フェリスは下界に落とされて帰れないって言ってたけど、精霊界と繋がる場所が分かってるなら、そこに行けば帰れそうだよね。
ヴァレリアさんの質問を聞いていたフェリスに視線を向けると、フェリスは悲しげな表情で首を横に振った。
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