白の境に舞う金烏。

長月瓦礫

白の境に舞う金烏。


照りつける太陽は何か恨みでもあるのだろうか。

溜まりに溜まったストレスを解消しようと、人類に怒りをぶつけているとしか思えない。太陽光から逃れようと人々は足早に駅前を歩く。


人々はカメラを構えている俺なんていちいち気にかけない。

大体、体が蒸発してもおかしくないような暑さの中、同じ場所にずっととどまっている方がどうかしているのだろう。それは十二分にわかっている。


鳥の翼のような大きく白いケープに黒のスキニーパンツ、繊細な金髪、からりと晴れた青空の様な澄んだ瞳、太陽の光にすべたが引き立てられているからか

いつもより輝いていた。


「……」


早くしろと無言で圧をかけられている。

彼女の服は『ヤタガラス』という浅羽晋太郎という有名芸術家が描いた鉛筆画をイメージしたものらしい。


太陽に寄り添うように飛んでいる三本足の白いカラスの絵で、あまりにも繊細なタッチで描かれていたからか、恐怖を感じたのを覚えている。

俺の隣に立つデザイナーはリスペクトだのインスパイアだのと横文字の言葉を並べて浅羽晋太郎氏を賞賛していた。かなり満足そうにしていたから、俺からは何も言わなかった。


自己満足の塊のような服に一寸の狂いのないロボット何もかもが素晴らしいのに、笑顔が非常に足りない。無機質な表情は人間味が全くない。


生物ではない彼女に求めても仕方がないのは分かっている。全身が細かい金属と精密機械で形成されている彼女には無理がある。表情を細かく変化させることはできない。俺がカメラを下したのを合図に、彼女はポーズを崩した。


「やはり、俺の目に狂いはなかったな」


デザイナーは嬉しそうに何度もうなずいた。

『ヤタガラス』の世界観とマッチしているということで、彼女が選ばれた。

こんなロボットをどこから連れてきたのだろうか。


「どうかした?」


「……狂っているのはあなたたちのほうでは?」


「何で?」


彼女は目の前を歩いている女性たちを見ていた。

夏休みを楽しんでいる高校生か大学生といったところだろうか。

高いヒールのサンダルにノースリーブのシャツ、まだらに染まった髪、何やら楽しそうに話している。彼女の眼にはどんな風に映っているのだろうか。


「私よりもよっぽど喜ぶと思いますがね」


「そうか? 俺みたいなのに撮られても嬉しくないと思うけど」


「無理だな、ヤタガラスの繊細さは人間では表現できない」


彼女は無言で肩をすくめた。


「気になったりしないのですか?」


「アンドロイドは生きていないから、おもしろくもなんともないんだと。

そんなことをどこかのカメラマンが言っていたな」


「欲にまみれた人間とかいう害悪生物を描いてもつまらないんだとさ。

そんなことをどっかのデザイナーがほざいてたな」


そもそも、俺はロボットを撮るつもりなんてなかった。

生きている人間を映すつもりでカメラマンを志望した。

それもこれも被写体がいればの話だ。知名度も何もない俺に選択肢はない。

今回の件もそうだ。頼まれたから引き受けただけだ。


「……おい、何で笑ってんだよ」


「いえ、別に」


「その笑顔を何でさっき見せてくれなかった! そっちのほうが絶対いいじゃん!」


「無表情でやれって言ったのは誰でしたっけ」


俺がにらむとデザイナーは困ったように視線をそらした。

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