第2航路:公用船契約に潜む影
第1-1便:おかえり日常、ようこそ新名物!
私は両手で船体に触れ、意識をその全体へと集中させた。そして魔法力を少しずつ送り込んでいくと、ホタルのようなぼんやりとした光が対象物を包み込む。
すると次第に自分の心と機械の心がひとつに融合していくような感覚になってくる。
魔術整備師の生体的な波長と対象物の持つ固有の波長。そのリンクこそが魔術整備の基本だ。
それは高位に位置する
「――さて、各部の調子はどうかな?
波長が完全に一体化するのを確認すると、私は送り込む魔法力の
直後、私の頭の中には外観、魔導エンジン、スクリュープロペラなど船を構成するパーツの様々な情報が流れ込んでくるようになる。
対象となる各部位が正常に作動しているかどうかということはもちろん、寸法、ダメージ、部材の構成割合、偏り、歪み――とにかくあらゆることが直感的に分かる。それはまさに自分の体であるかのように……。
ちなみにもし各パーツの詳細な状態や各数値を知りたい場合、そのことを意識すれば必要な情報だけをピックアップすることも出来る。
「よし、この船は異常ないみたいだね。今のところ大きな整備も必要なしっと」
目の前にある船の点検を終えた私は、魔法力の供給を止めて大きく息をついた。それとともに船体を包んでいた光も収まり、何の変哲もない定常状態へと落ち着いていく。
まぁ、この船は全体的な魔術整備と工学整備をしてからそんなに日が経ってないから、よっぽど無理な使い方をしていない限り不具合が出ることはないだろうけどね。
もちろん、それはあくまでも統計的な『結果論』であって絶対というわけじゃないけど。
機械にもそれぞれ個性や機嫌というものがあって、いつ何がどんなきっかけで調子が悪くなってもおかしくない。それは人間やほかの生物と同じだ。だからこそ、普段から
「シルフィ、キリが良いところまで終わったのなら少し休めば? 最近、ちょっと張り切りすぎだと思うよ」
「クロード……」
船体の上にチョコンと顔を出したのはクロードだった。彼は素早い身のこなしで船の
さっきから姿が見えなかったからどこへ行ったのかなと思っていたんだけど、どうやら私が点検していた船の中にいたらしい。居眠りでもしてたのかな? それともネズミでも見付けて追いかけ回していたとか?
いずれにしても、私としてはそうやって
「私、そんなに張り切りすぎてないよ? いつもと同じだよ」
「自覚がないなら尚更だね。ますます休んだ方がいいって思う。もしシルフィが倒れたら、オイラの食事は誰が用意するっていうんだい?」
「……クロード、いつもながら一言多い。夕食を抜きにするよ?」
頬を膨らませながら横目で睨み付ける私。でも今日のクロードはいつもと違って
そもそも彼が自分で川へ出向いて魚を捕ればいいって話ではあるけど、それは考えにくい。だって今や食事に関しては、完全に私にパラサイトしている状況だから。面倒臭がりな性格が変わったとも思えないし。
だからといって人様のものを盗み食いするような子でもない――と、信じたい。
「オイラはそれならそれで別にいいもんね。最近、発着場の喫茶コーナーで美味いフィッシュサンドが売られるようになったから、シルフィのツケでルティスから買っちゃうもん」
「っっっ……。まったく、余計な悪知恵ばっかり働くんだから。でも残念でした。喫茶コーナーではツケで何かを買うことは出来ませーん。現金じゃないと売ってくれないよ。
「そこはオイラとルティスの仲だから、お願いすればなんとかなるって」
「だったらルティスさんにはクロードに食べ物を売ったりあげたりしないように、先手を打って釘を刺しておくもんね。私、誰かさんよりもルティスさんと仲が良いから」
私がニヤリと口元を緩めると、クロードは
「うっ……。ひ、卑怯だぞ、シルフィ……」
「それに喫茶コーナーで販売されるようになったサンドイッチだけど、あれって大人気らしいから今の時間から買いに行っても残ってないと思うよ。商店街にある本店でさえ、毎日あっという間に売り切れちゃうって話だし」
「そうなのか? そんなに人気なのかっ!? 確かに以前に食べさせてもらった時、天にも昇るような美味しさだったもんなぁ」
「うん、リバーポリス市の名物になるんじゃないかって勢いだよ」
そのサンドイッチはつい最近、南地区にある中央商店街にオープンしたお店の商品で、取り扱われているどの種類も美味しいと口コミで大評判になっている。
私も試しに買って食べたことがあるけど、ボリュームも味のバランスも絶妙で最高に美味しいと思った。クロードに分けてあげたのを後悔するくらい、最後の一口まで独り占めしたくなるくらいの味。特にソースが抜群なんだよね。
あれなら定期的に食べたくなるし、季節限定商品もあるからその情報に目が離せない。
(つづく……)
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